かつてNHKで唐十郎(から じゅうろう)脚本による「都市3部作」というドラマが放送された。そう、もう30年近くも前のことだ。
『安寿と厨子王』に材を取った『安寿子(やすこ)の靴』、アンデルセン童話『雪の女王』をモチーフにした『匂いガラス』、そして「3部作」の掉尾を飾ったのが『雨月物語』にインスパイアされた『雨月の使者』である。
『安寿子の靴』と『匂いガラス』は、それぞれいくつかに分割されてYouTubeにアップされているので、全体を視ることができるが、『雨月の使者』はそのほんの一部しか視ることはできない(『安寿子の靴』は少し前に「NHKアーカイブス」で再放送もされている)。
『雨月の使者』を視たのも、もうずいぶん昔のことなので、ストーリーはほとんど覚えていない。
1人の若者、豚九(杉本哲太)が1人の不思議な少女、さちこ(横山めぐみ)と出会い、ボロアパートで一緒に暮らし始める。そのアパートは再開発のために取り壊しが予定されていて、豚九らも退去を求められるのだが、彼らは最後までそれを拒否する。
部屋に立てこもる豚九とさちこだが、アパートの解体工事は強行される。
重機で壊された壁から彼らのいる部屋に土砂が流れ込んでくるシーンは、強烈に目に焼き付いている。
その後、物語の中で何があったか全く覚えていないのだが、さちこが死に、その死を受け入れられない豚九は、残されたさちこの服を着て街を彷徨うのだ(この辺が、いかにも唐十郎らしい)。
生前、さちこはある言葉を豚九に残していた。「夜しか咲かない月見草を騙して、昼間咲かせることができたら…」──昼間咲かせることができたら、何だったのだろう。思い出せない。だが、その言葉がラストシーンの重要なモチーフになっている。
この「都市3部作」は、いずれも主題歌を中島みゆきが作曲している。通常の歌の定型から外れた唐十郎の詩に曲をつけるのに七転八倒した、という。その3つの主題歌のうち『雨月の使者』だけが、アレンジを代えてアルバムに収録されている。
だが、私はアルバム版よりドラマの最後に流れた『雨月の使者』のアレンジの方が好きだ。これを聴いていると、ふと自分も何かに呼ばれて異界へと行ってしまうんじゃないか、という気持ちになる。
今宵は中秋の名月。ドラマ『雨月の使者』のハイライトシーンを視ながら過ごそうか。
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