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「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

人体に位相を導入する 2

2017-10-30 23:49:13 | 一治療家の視点

この前、風呂に入ろうとして、あることに気づいた。

以前、「人体に位相を導入する」という記事を書いた(ちなみに位相とは、ものの位置関係やつながり具合といった幾何学的な状態を意味する数学、科学の用語)。詳しい内容は記事本文を読んでもらえばいいが、要するに人体を見るのに通常のユークリッド空間の位相(以下、この文章の中だけの用語として、それをユークリッド位相と呼ぶことにする)とは別の位相を使う(違う言い方をすると、別の位相を導入する)ことで、ユークリッド位相のままでは見えない問題が見えてくるのではないか、というものだった。

さて、ここで私が新たに気づいたというのは次のようなことだ。

物理学の相対論を考えると、相対論では時間と空間とはローレンツ変換で写り合うものだから実質的に同じものと考える。ローレンツ変換とは正則な1次変換、ということは全単射(一対一対応)で逆写像も含めて連続な写像、すなわち同相写像だ。そして位相空間論における基本的な事実として、同相写像は位相を変化させない。だから相対論的な立場に立つと、空間だけでなく時間にも位相を導入することができることになる。

ここで言う「時間の位相を変える」というのは、私が「時を駆ける治療家」などで何度か述べてきた、過去のある時点の状態を擬似的に再現させる「時遡行(ときそこう)」とは全く異なるものだ。時遡行が時間自体の構造はそのままに、ただ時の流れだけを操作するものなのに対して、時間の位相を変えることは時間の(幾何学的な)構造そのものを変えるものだから。そして空間の位相を変える場合と同じく、時間の位相を変えるとユークリッド位相の時には見えなかった問題を検出することができるのだ。

導入する具体的な位相の例については「人体に位相を導入する」に書いた通りなので、そちらを見てほしい。

ということで、この記事はここで終わりなのだが、これだけでは分量的に短いので、オマケとして位相についてもう少し書いておこう。なお、以下に述べることは位相空間論のごく短いアウトラインである。

位相空間論では多くの場合、まず「距離」という概念を定義し、その定義に従って様々な距離を具体的に構成し、そうした距離を持った「距離空間」を定義する。距離空間は主にユークリッド空間に定義されるが、数学ではユークリッド空間より遥かに抽象的な、距離さえ定義できなような空間を扱うので、次にそうした距離空間を更に抽象化した位相空間というものを定義する。

位相を定義する方法はいくつかあるが、開集合族を使う方法が比較的よく用いられる。開集合について簡単に説明することはできないが、集合族についてはここで述べておこう。
集合Xが存在すると、そのXの部分集合を考えることができる。例えばX={0,1,2,3,4}としてみよう。すると{0}や{2,4}などはXの部分集合である。こうしたXの部分集合を要素として持つ集合のことをXの集合族と呼ぶのだ(だから開集合族とは──ここでは開集合については説明していないが──開部分集合を要素とする集合族のことであることがお分かりいただけるだろう)。

そして上の集合Xは見た目、全然幾何学的ではないが、実はXの全ての部分集合からなる集合族F1={∅,{0},{1},{2},{3},{4},{0,1},{0,2},{0,3},{0,4},{1,2},{1,3},{1,4},{2,3},{2,4},{3,4},{0,1,2},{0,1,3},{0,1,4},{0,2,3},{0,2,4},{0,3,4},{1,2,3},{1,2,4},{1,3,4},{2,3,4},{0,1,2,3},{0,1,2,4},{1,2,3,4},X}は開集合族の定義を満たす(∅(空集合)もX自身も、Xの部分集合であることに注意)。よってXにF1を開集合族とする位相を導入することができる。これが離散位相と呼ばれるものだ。
また集合族F2={∅,X}もまた開集合族の定義を満たすので、XにF2を開集合族とする位相を導入することもできる。これは密着位相と呼ばれる。

同じXという集合でも、F1による位相とF2による位相とでは全然違う位相空間として振る舞う。私が空間や時間にユークリッド位相とは異なる位相を導入するというのは、そういうことだ。なお、離散位相はXに導入できる最も強い位相、密着位相は最も弱い位相である。


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