深く潜れ(Dive Deep)! キネシオロジー&クラニオセイクラル・ワーク(クラニオ)の蒼穹堂治療室

「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

賛成か、反対か?

2024-10-12 21:09:38 | 趣味人的レビュー

フェルディナント・フォン・シーラッハについて、Wikipediaには次のように書かれている。

ボンの大学で学び、ケルンでの研修を経て1994年よりベルリンで刑事事件弁護士として活動。元東ドイツ政治局員ギュンター・シャボフスキーや、ドイツ連邦情報局工作員ノルベルト・ユレツコ(de:Norbert Juretzko)の弁護に携わり、ドイツでも屈指の弁護士と見なされている。2009年、自身の事務所が扱った事件をベースにした(ただし、文庫解説の松山巖は、そう称していることも含めて純然たる創作であろうと述べており、推測の根拠として守秘義務とともに叙述手法を挙げている)物語集『犯罪』を刊行し、45万部を越えるベストセラーとなった。既に30カ国で出版権が獲得されており、シーラッハはこの作品によってクライスト賞など複数の文学賞を受賞している。2010年には第二作『罪悪』を刊行した。

そのシーラッハによる戯曲『神 GOTT』のリーディングシアター(朗読劇)を見に、パルテノン多摩に行ってきた。以前見た、やはりシーラッハの『テロ TERRO』が印象深かった(それについては『有罪か、無罪か?』という記事に書いた)のと、その『テロ TERRO』に出演していた橋爪功が『神 GOTT』にも出るというので、全くの予定外だったが、急遽見に行くことを決めた。

『神 GOTT』という物語の内容については、チラシに非常に簡潔に述べられているので、それをここに引用しよう。

「死」は選べるのか?
愛妻を亡くし生きる意欲を失った老人が医師に薬による自死の幇助を求める
観客はドイツの倫理委員会の討論会を傍聴する設定で俳優と共存
誰もが興味深い約90分の活発な議論の結論は観客の投票で決まります

『テロ TERRO』では観客が法廷(に見立てた舞台)での議論を聞いて、有罪か無罪かを投票。その結果で最終幕が変わるという趣向だったが、『神 GOTT』では倫理委員会での議論を元に観客が、医師が自死のための薬を渡すことに賛成か反対かを投票し、その結果によって最終幕が変わる。

この作品では自死を望む老人は、高齢ではあるが心身ともに至って健康であり、それでも死を望むのは、妻の死によって生きる気力が失せたためである、という。そして倫理委員会には、自死を臨む老人本人とその顧問弁護士、(自死のための薬を処方するよう求められている)彼の主治医のほか、ドイツ法学の権威、ドイツ医師会の役員、そしてドイツ・キリスト教会の司教が出席し、論争が展開される。

ドイツの話らしくナチス時代の実例まで議論の俎上に挙げられるが、興味深いのは、仮に日本で同じような倫理委員会が開かれるとしても、宗教界(例えば仏教界)から誰かを出席させるというのは、なかなか考えづらいということだ。しかし、ドイツを舞台としたこの作品では、なかば当然のようにキリスト教会から委員会への出席があり、キリスト教神学の立場から見解を述べている。しかも、歴史的な経緯にまで遡って法律と神学から自死を論じた、弁護士と司教の論争が最も長い(タイトルが『自死』などではなく『神 GOTT』であるという理由も、そこにあるのだろう)。

私自身は、かねてから「死にたい人は死なせてやればいい」という立場なので、ここでも賛成票を投じたが、それでも舞台でのやり取りを聞いていて、自分の気持ちが大きく揺らぐ瞬間があった、ということは述べておかなければならない。

この作品が観客/読者に投げかけるのは、「命は一体誰のものなのか?」という問いである。「それは、それを与えられた個人個人のものだろ」という答えもできるが、果たしてそうなのだろうか? 私は何かの宗教に帰依しているわけではないが、(人に限らす)命あるものはどこか“大いなるもの”の中からやって来て、やがてまたその“大いなるもの”の中に帰って行くような気がしている。つまり命は、生きている間、その“大いなるもの”から借り受けているだけなのだ、と(その“大いなるもの”を、人によっては「神」などと呼ぶのかもしれない)。なので、私には「命は、それを与えられた個人個人のもの」と単純に答えることができない(ということに気づいた)。

ちなみに、私が見た回では(聞き間違いでなければ)賛成201,反対197と、かなりの僅差で辛うじて賛成が反対を上回った。

さて、あなたなら賛成、反対、どちらに票を投じるだろうか?(舞台は見られない、という人でも原作を読んで決めることはできる)。


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