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映画『シビル・ウォー 』あるいは闇の奥

2024-10-16 14:18:20 | 趣味人的レビュー

アメリカに内戦(CIVIL WAR)が勃発、という設定の映画『シビル・ウォーアメリカ最後の日』は、久々に見終わって満足感を覚えた作品だった。

物語の舞台となるアメリカの状況は、大統領の3選を禁じた合衆国憲法を強引に改正し、自ら3期目に入った現大統領に対して19の州が連邦から離反。そしてカリフォルニアとテキサスが同盟を結び、東へと攻め込んでいる(またそれとは別に、フロリダがサウスカロライナの反政府勢力を取り込んでいる、といった台詞もある)。そんな中、ニューヨークにある通信社が2州同盟軍による攻勢でワシントンD.C.陥落も近いとの情報を得て、合衆国最後の大統領になるかもしれない男への突撃取材を敢行することを決める。
取材クルーは、最年少でマグナム会員になった伝説の女性カメラマンのリー、彼女のライターであるジョエル、ベテラン報道マンで彼らのメンターでもあるサミーの3人に、リーに憧れ、懇願して同乗を許された若手女性カメラマンのジェシーを加えた4人。Y.N.からD.C.に向かう1379キロの道行きに彼らを待つものとは…。

この作品はN.Y.からD.C.へと向かう彼らのロードムービーでもあり、ジェシーの成長物語でもあり、戦場取材の実態を描くものでもあり、そして何よりアメリカ合衆国にこの先、起こりうる事態を見せつけるものである。

南北戦争を題材としたものを除き、アメリカが舞台のポリティカル・サスペンスは外からの敵(ソ連/ロシアやイスラム原理主義者や時には宇宙人ww)を合衆国国民が一致団結して撃退する、というのがお決まりのストーリーラインだが、今回はその合衆国が内部分裂を起こし内戦状態に陥るという、ある種のタブーに切り込んでいる。それだけ前のトランプ政権時代に明らかになったアメリカを覆う分断に対する国民の危機感や絶望感が強い、ということなのだろう。

ところで、リーたちクルーがD.C.への途中で遭遇し目撃するのは内戦下の合衆国の狂気、ということであり、実際にその半分くらいはそういう状況でなければあり得ないもののだが、残り半分くらい(例えば赤メガネの男のエピソード)は内戦関係なくアメリカの田舎では普通にありそうに思えるもので、そういう意味ではアメリカには常にどこか「常在戦場」、「日々是決戦」的な空気がまとわりついている。

私はこの映画を見ながら『地獄の黙示録』を思い出していた。ジョセフ・コンラッドの『闇の奥』を原案にした『地獄の黙示録』は、ベトナム戦争のさなか、ジャングルの奥に独立王国を築いているというカーツ大佐の暗殺を軍から命じられたウィラード大尉が、仲間たちと共に船でメコン川を遡る道中で、ベトナム戦争の実態を目の当たりにしていく。『シビル・ウォー』には、さすがにワーグナーの「ワルキューレの騎行」を流しながら飛ぶヘリの部隊は登場しないが、それを含めて『地獄の黙示録』へのオマージュかもしれないと覚しきシーンがいくつかある。

『地獄の黙示録』ではコッポラは、ウィラードがカーツと邂逅してから暗殺に至るまでのクライマックス・シーンのシナリオを書くことができず、全て俳優たちがアドリブで演じた、というのは有名な話だが、『シビル・ウォー』は最後まで(多分アドリブではなく)しっかりと描かれる。コッポラと『地獄の黙示録』は結局、「闇の奥」にまで進むことはできなかったが、『シビル・ウォー』は果たして「闇の奥」に辿り着いたのだろうか?

その答えは私には分からないが、彼らが最後に辿り着いたところはエンド・タイトルの最初に映し出される、ジェシーが撮ったと思われる写真に象徴的に示されている、と思う。その写真がどういうものかは映画を見てほしいが、私はいかにもアメリカ的な茶気と狂気を感じさせるその写真が大好きだ。

 


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