今、私は月イチでクラニオセイクラル・ワークを自分で自分に対して行う、セルフヒーリングのセミナーを行っている。そして改めて思うのは、「バイオダイナミックなクラニオは施術者の意識のあり方で決まる」ということだ。
クラニオの中でも操作的なことを行わないバイオダイナミクスでは、相手の体に手を触れていることすら、実は必要ない。重要なのは、相手の体の体に施術者の手が物理的に接触していることではなく、施術者の意識が相手に向いていること。そして、相手のbiosphereつまり生体場(あるいは生命圏)の情報を、施術者が何の意図も持たずに、ただありのままに受け取れるようになっていること。
バイオダイナミクスの基本となるdoing not doing(無為の為=何もしないということをする)とは、そのことを言っているのだと私は考えている。
そしてクラニオをセルフで行う場合も、その相手が自分自身になるだけで、何の違いもない。
というわけで、バイオダイナミクスにはイメージングとセンシングのためのトレーニング/ワークがある。それがクラニオの創始者、ウィリアム・サザーランドが考案したという「小魚のツアー(Tour of the minnow)だ。これは、クラニオを行いながらスクリプトを頼りに体の中をイメージの中で実際に巡り、そこで起こっていることを体験し感じる、というツアーで、クラニオによるセルフ・ヒーリング・セミナーでも、実際にこの「小魚のツアー」を行った。
以下にそこで用いた「小魚のツアー」のスクリプトの全文を掲載する。「小魚のツアー」のスクリプトは、森川ひろみさんが訳された『クラニオセイクラル・バイオダミクスVol2』の中にも出てくるが、以下のものはフランクリン・シルズの『Foundations in Craniosacral Byodynamics Vol.1』から私が試訳したものである。
実際にツアーを行う際は、余計な音楽は邪魔になると思うが、ここではスクリプトを読むためのBGMとして、ヴァレリー・アファナシェフの演奏によるJ・S・バッハの『平均律クラヴィーア曲集1』を用意した。
バッハのクラヴィーア曲のピアノ演奏としてはグレン・グールドのものが最も有名だが、私はどうにもグールドの演奏が好きになれなず、そんな中で聴いたアファナシェフの演奏に衝撃を受けた。これほど自然で何の作為も感じられない演奏は聴いたことがなかったからだ。
アファナシェフの弾く『平均律』に作為がないわけでは、もちろんない。そこには彼の十分な作為がある。その作為とは、あらゆる作為を消し去る作為だ。
無為の為に通じるこの演奏を、このスクリプトを読む人たちに捧げよう。
練習:小魚のツアーを行う
まず心地よく坐位か仰臥位になって、何度か深呼吸します。私たちは、想像力が脳室の空間の中を泳ぐ、内なるツアーに出ようとしています。サザーランドは皆に、小魚になったところを想像するように求めました。この小魚は不思議な特性を持っていて、とても小さくなって最も狭い場所に入ることができ、構造付近をよりはっきり見ることができるように光を放つこともできます。自分の助けになるなら、どんなイメージも使いましょう。あなたはただ、自分の意識にこれらの空間を通って旅させたいはずです。
大槽からツアーを始めます。自分の大槽へと内側に入ることができるか見てみましょう。その空間に入る時は、自分を取り巻く解剖図を想像し感じるようにします。自分が自分の大槽の中で泳ぐ小魚だと想像し感じるのです。ここで、その内なる空間に入って見上げると、小脳の下面が見えるでしょう。ここで前方を見ると、開口部が見えます。それが第4脳室に通じる中心孔です。その開口部へと泳ぎ上がり、そこに分け入ります。
私たちは今、第4脳室にいます。小魚が目を上げると、上にスロープ状の壁が見えます。それが小脳。また、見える範囲より更に上に伸びるように思われる、狭いトンネルにも気づきます。それがシルヴィウス孔。また、もう1つの非常に狭いトンネルへと滑っていき、果てしなく下降するように思える、下のスロープ状になった床にも気づくでしょう。それが脊柱の中心管です。小魚はピラミッド状の第4脳室の中に留まり、それを観察します。中にある全てを把握するのです。
第4脳室では乱流に打ち付けられます。第4脳室を出て大槽に入る前、その脳室の体液は渦を巻き、跳ね回ります。その渦の中で、あなたはとても強力な何かに気づきます。自分が輝きと光に囲まれているのです。それがサザーランドの言う液光です。その光はあらゆるものを映し出していますが、何とも混じり合いません。それは雲の金色の反射に似ています。また、ここでそれ以外の何か(こうした生理的な中心から発する高音のブンブンという音)にも気づきます。この場所は活発で生き生きしているのです。
小魚は上に向かって泳ぐことを決め、狭いシルヴィウス孔に自分を押し上げます。故郷に戻る鮭のように流れに逆らって泳いでいます。それはキツイ圧迫です。最後にあなたは自分が別の空間、第3脳室にいることを知ります。それは視床間橋によって作られる固い中心を持った、平らで中空の内管のような形をしています。脳脊髄液の流れによって、この管を上がったり回ったりしながら運ばれていきます。その流れは管を巡り巡って、あなたを連れていきます。この空間を後上方に運ばれ、次いでその管の上を通り、下って前へ、床に沿って後方に、そしてまた後面を後上方へと。
あなたはこの内管を探ることに決め、この空間で泳ぎます。再び第3脳室の天井へと後上方に泳いだ後、後ろを振り向くと、脳室後ろの下のところに小さな漏斗状の開口部が見えます。あぁ! これは松果体への開口部に違いありません。スピリチュアルの伝統の中には、松果体を魂の座と見なすものがあります。あなたはそこに泳いで上がり、開口部に鼻を突っ込んで中を見ます。何が見えますか? 松果体の中で成長する結晶が見えるかもしれません。恐らくそれが成長するところすら見えるでしょう。脳の研究者の中には、脳を電波の送受信能力を持つものとして見ている人もいます。恐らく、これらはラジオ・セットの中の結晶なのです。わかっているのは、そこから輝きがやって来ていることだけ。そこにいると、松果体が全体としてリズミカルに上下に動いていることに気づきます。あぁ!とあなたは思います。これは吸気、呼気の自動性の現れに違いない。あなたは鼻を漏斗から引き抜いて、脳室上部を通って前方へと泳ぎます。脳室の上から自分の方に、体液が下へと移動してくるのに気づきます。カーテンのように構造が垂れ下がり、体液の動きが感じられます。それは新しい体液を分泌する脈絡叢組織に違いありません。
そうして第3脳室前部を前後に泳ぎ下ると、脳室の床の前面にあるもう1つの漏斗に気づきます。あぁ! これは第3脳室の床のところの下垂体への開口部に違いありません。あなたは鼻をそこに突っ込み、下垂体茎を泳いで下ろうとしますが、かなり窮屈だとわかります。多分、小魚でももっと小さく縮む必要があります。ここで、あなたは下垂体を蝶形骨のトルコ鞍へと固定する鞍隔膜を通り抜けなくてはなりません。下垂体茎へと入ると、そうした努力の結果として、自分が疲れていて休む必要があることがわかって、腰を落ち着けて下垂体の上で休みます。あぁ! 何て心安らぐんだろう! あなたは最初は一方向に、次いでもう一方に、やさしく揺れているのに気づいて、下垂体が蝶形骨の鞍の中にあって、それの自動性でやさしく揺らされていることを実感します。あなたは自動性の腕に抱かれて、やさしく揺らされながら眠るのです。
ひと休みしたら、あなたは目覚めて、下垂体茎を出るために上へと泳ぎ、再び第3脳室の前下面に来ます。見上げると、第3脳室前上面の別の2つの開口部に気づいて、そこへと泳いで上がります。それぞれが側脳室の1つに連なるモンロー孔に違いありません。一方の孔へと泳いで上がり、側脳室の1つへと行きます。最初は前角に向かって前方に泳ぐと、大脳皮質の前頭葉に行き当たるので、すぐにその最も前面の端へと泳いでいきます。側脳室の体部を通って後方へと泳ぐと、自分が本当に比較的大きな空間にいることがわかります。そこに沿ってずっと脈絡叢があり、多くの脳脊髄液がここで産生されているのです! 泳いでいると、自分が後方に降りて行っていること、2つの角があって、その1つは後下方に行っていて、もう1つは下前方に曲がっていることに気づくので、そこを探検します。後角のところまで後方に泳ぎ、後頭葉の端までその中を泳いだら、泳ぎ出て側頭葉の下角に向かって下前方に行きます。すぐ下は海馬、すぐ前は扁桃体で、両方ともとても重要な中枢。側脳室を回って泳ぐようにして、形や空間的配置の感覚を得ます。
ここでモンロー孔を通って第3脳室へと泳いで戻り、また第3脳室の内管を巡る脳脊髄液の流れに身を任せます──最初は後上方、次いで前下方へと巡り巡って。第3脳室を回る体液に運ばれると、そのタービンのような動きに気づきます。そこにはエネルギーあるいはポーテンシーを帯びたウォーター・タービンのような、重要な何かがあります。そうだ! それが潮力です。あなたは輝きを感じ、また休みが必要になります。今回は第3脳室の床で休みます。床に気持ちよく横たわり、ここで起こっている面白いことに注意を向けます。第3脳室の床がリズミカルに上下しています。あぁ! それは自分のすぐ下の蝶形後頭底結合の上下動に違いないと実感し、しばらくの間、その動きを傾聴します。そして床の後ろへと泳ぎ、再びシルヴィウス孔を通って下り始めます。ここでは流れとともに泳いでいるので、下るのは簡単。押し通ると、自分がまた脳脊髄液の乱流やその中のポーテンシーの輝きを体験する、第4脳室にいることがわかります。そうしたら正中孔を泳ぎ出て大槽に戻り、ここで旅を終えます。ここで少し休みを取ります。中心線に向かい、非常にやさしく外界に自分の感覚を向けます。見て、聞いて、触れて、自分の周囲の世界に再び手を伸ばしてもかまいません。
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