クラニオセイクラル・ワーク(頭蓋仙骨療法。長いので以下、クラニオ)における基本となる概念の1つに、第1次呼吸(人によっては第一呼吸、一次呼吸とも)というものがある。
YouTubeにクラニオの施術者らしき人が第1次呼吸について説明した動画があって、そこで「一次呼吸というのは骨が呼吸してるんです」などと言っているのを見て唖然としてしまった。こんなことを投稿者は受け狙いのギャグではなく(完全にスベってるものの)、大真面目にそう言ってる。不特定多数の人が見ている動画でこういう嘘(あるいは誤解/勘違い)が流されることは、クラニオというメソッドにとって決して喜ばしいことではない。というわけで、クラニオにおける第1次呼吸という概念について、ここで述べることにする。
まず、第1次呼吸という訳語について。
第1次呼吸はprimary respirationの日本語の訳語である。このprimaryには「最初の、第1の」という意味の他にも「主要な、根本的な、根源的な」などの意味もあり、そのためprimary respirationに、基本呼吸とか原初呼吸などという訳語を当てている施術者もいる。単語の辞書的な意味だけを考えれば、それらの訳語も間違いとは言えないが、私はやはりprimary respirationは第1次呼吸と訳すべきだと考えている。というのは、クラニオにはsecondary respirationという概念も存在するからだ。
このsecondary respirationが意味するのが肺呼吸であり、本来「呼吸」とはこの肺呼吸のことを指す。primary respirationのprimaryを「主要な、根本的な、根源的な」という意味に取ると、secondary respirationのsecondaryは「従属的な、付随的な、副次的な」という解釈になり、そうなると本家本元であるはずの肺呼吸がまるでオマケで付いている呼吸のようになってしまう。
ここで言うprimary, secondaryというのは、どちらかが主でどちらが副かということではなく、純粋に生じる順番の違いを表しているに過ぎない。なのでprimary respiration, secondary respirationの訳語は第1次呼吸、第2次呼吸であるべきだというのが私の考えだ。
というわけで、クラニオにおける第1次呼吸というのものは、いわゆる「呼吸(=ガス交換)」には関与していない。では、なぜ「呼吸」に関係ないものに第1次“呼吸”などと名付けたのか? これにはクラニオセイクラル・ワークを創始したウィリアム・ガーナー・サザーランドが関わっている。
サザーランドがオステオパシーを学ぶ学生だった時、頭蓋の中の側頭骨の形が魚のエラに似ていると感じた。オステオパシーには「構造は機能を決定する」という考え方があり、エラは魚の呼吸器である。そこから彼の中に、側頭骨、ひいては頭蓋骨は呼吸に関係しているのでは?という発想が生まれた。後に頭蓋の骨を通じてリズミックな動きを感じ取った彼は、その動きが受精段階から始まることから、そこに側頭骨を見て思いついた発想を持ち込んで、呼吸になぞらえた名前を付けたのだ──肺呼吸に先んじて生じるから第1次呼吸だ、と。
つまり第1次呼吸とは、心臓の拍動などと同じように体が生得的に持つ周期的律動の1つであって、第1次“呼吸”という名前ではあるが、ガス交換としての「呼吸」ではない。ましてや「骨が呼吸している」わけでもない。
だがそもそもは、そういう誤解されるような名前を付けてしまったサザーランドの責任である。クラニオに限らず、おかしな用語にしてしまったことで後々混乱が生じる、というのは往々にしてある。新しい分野を切り開く人は、そこで使用する用語は自分の趣味や思いつきなどではなく、よくよく考えた上で決めてほしいものだ。
また、実際に第1次呼吸を捉えるために留意すべきことを動画で。
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