バイオダイナミックなクラニオセイクラル・ワーク(クラニオ)において最も本質的なことは、施術者のあり方(プレゼンス)である。そしてそれを具体的するのが、施術者の設定するフィールドだと思っている。
そのフィールドのことを、このブログでは半分おふざけでATフィールド(ただし意味はAwareness-Thought field ; 認識-思考場)と呼んでいる。「3」ではそうしたフィールドを設定する意味について述べたが、今は設定するフィールドがどうあるべきかということをずっと考えている。それがここに来て1つの気づきというかアイディアを得たので、それを述べようと思う。
この先は数学的な概念についての話が大半を占める。とはいえ、この記事を読む人の多くはそうした数学に慣れているわけではないと考え、あまり厳密さを考慮しないフワッとした書き方に留める。もし、そういうフワッとした曖昧な説明では納得できない、という人は、位相空間論の本を読まれることをオススメする。『集合・位相入門』(松坂和夫、岩波書店)、『集合と位相空間』(森田茂之、朝倉書店)など定評ある本がいくらでもあるので、その中から気に入った1冊を読めば十分である。
では、まず前説。
数学においては空間と集合とはほとんど同じ意味である。
次に開集合とは、その境界を含まないような空間のことを言う。例えば境界を含まない単位円、x~2 + y^2
また集合族とは、集合を要素とする集合。例えば、A = {0, 1, 2}というAの部分集合族(=Aの全ての部分集合を要素とする集合)は{ φ, {0}, {1}, {2}, {0, 1}, {1, 2}, {0, 2}, A }である(空集合もA自身もAの部分集合の1つなので、部分集合族に含まれる)。そして、開集合族が設定された空間のことを位相空間という。位相空間とは位置関係やつながり具合といったことを議論できる空間のことで、幾何学的、解析学的な事柄を考えるためには、そこが位相空間でなければならない。
それから無限個には、整数や有理数のように1,2,…のようにして数え上げられる可算無限と、実数や複素数のようにそうやって数え上げることのできない非可算無限がある(いうまでもなく、同じ無限でも可算無限より非可算無限の方が遥かに大きい)。
続いて第2可算公理について。
数学の体系を構築するに当たっては、いくつかの約束事を設定する必要がある。その約束事となるのが公理であり、最初からそれが成り立つことを前提とする(なので、定理のようにそれが成り立つことを証明するようなことはない)。で、第2可算公理とは次のようなものである。
位相空間Xは、それが高々可算個の開集合系の基をもつとき、第2可算公理を満たすという。(森田茂之『集合と位相空間』による)
この条文を多少かみ砕いて言うと、第2可算公理を設定した(位相)空間Xは適当な(=上手に選んだ)可算個の開集合たちで構成することができる、ということ。なお、この可算個には可算無限個も含まれることに注意(なお、第2可算公理があるのだから第1可算公理もあるが、今は関係ないのでここでは述べない)。
この第2可算公理は位相空間を設定する上で重要な約束事の1つになっている。第2可算公理が成り立たない位相空間もあるが、そういう空間は我々の常識から外れた非常に扱いにくいものとなってしまう。逆にいえば、そうした常識から外れた変な性質の空間にしないためには、第2可算公理が成り立っていた方がいいのだ。
で前説が終わって、ここからが本題。
クロード・シュヴァレーによる『シュヴァレー リー群論』(ちくま学芸文庫)の中に、位相空間が第2可算公理を満たすための条件が第3章§9に補題3として挙げられている(定理の条文にある可算性公理が第2可算公理のこと。なお、ここでは位相空間が連結(=バラバラではなくひとまとまり)であることになっているが、あまり気にしなくていい)。
ここで注目してほしいのは、証明の最初の可算集合(族){ U1, … }についての部分で、このような{ U1, … }が取れることで最終的に補題3が成り立つことが言える。けれども『リー群論』には、ただ「~ようなものが存在する」としか書かれていない。では、このような可算集合族はどのように取ればいいのか?
いろいろ考えたものの、私にはそのような例を作ることができなかった。が、それが森田の『集合と位相空間』にあった(例2.5)。それが下のもの。
{ U(x, r); x∈Q^n, r : 正の有理数 }
ここで、U(x, r)とは点xを中心とした半径rの、境界を含まないn次元球体、そしてQは有理数を表す。ここだけの言葉として、座標が全て有理数である点を有理数点と呼ぶことにすると、この例では有理数点が中心の半径有理数の開集合(開球)からなる開集合族を設定するのである。
上で設定した開集合族は、1つの有理数点に対して、半径が有理数であるような全ての開集合(開球)が含まれる。つまり1つの有理数点に対して開集合が同心円状にいくつも作られることになるが、有理数は可算無限個なので、それらも可算無限個である。そしてn次元空間の有理数点も可算無限個だから、このように取った開集合たちは全部で可算無限個×可算無限個だけ存在し、それもまた可算無限個であることが証明できるので、これらの開集合たちにはU1, U2,…と番号づけすることができる。しかもその作り方から、この{ U1, … }は証明の2行目に書かれた条件を満たす(腕に覚えのある人はお試しあれ)。
さて長々と述べてきてしまったが、話を最初に戻すと問題にしていたのは「クラニオにおいて施術者はどんなフィールドを設定すればいいか」だった。で、その1つの答えが開集合族を{ U(x, r); x∈Q^n, r : 正の有理数 }のように設定した(位相)空間である。これなら第2可算公理が満たされるので、設定したフィールドが常識から外れた変な性質の空間になることはない。我々は上記のような開集合族を具体的にイメージすることはできないが、「そういうもの」としてフィールドを設定することはできるし、それで十分だ。
なお、上記はあくまで第2可算公理を満たす(位相)空間を作るための1つの例である。「他にもこんなのがあるぞ」という例ができたら、ゼヒご連絡を。
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