ポルトガルの空の下で

ポルトガルの町や生活を写真とともに綴ります。また、日本恋しさに、子ども恋しさに思い出もエッセイに綴っています。

あの頃ビア・ハウス:第12話:「グッドチーフ・バッドチーフ」 (2)

2018-03-02 16:29:24 | あの頃、ビアハウス
2018年3月2日        
         
「ほな、ト○さん、お先に例んとこ行ってますわ。」

一日の勤務が終わって、帰り支度を終えた若い営業マンのザワちゃんが、オフィスのドアを開けながら最後に残っていたバッドチーフに言った。

帰り仕度が終わってデスクを離れかけていたわたしは、「ああ!!ザちゃん・・・」と思ったが後の祭り。
わたしがステージに立つその日は、オフィスの所長とバッドチーフを除いて、皆で申し合わせ、ビアハウスで落ち合うことになっていたのである。

「例んとこて、どこや?」とバッドチーフがザワちゃんに問う。
「ゆうこちゃんが歌ってるとこですがな」

もう、まな板の上の鯉・・・わたしは二の句もつけず固まりましたです。ザワちゃんに口止めするのを誰もが忘れていたのだ。これでバレてしまった、わたしが歌姫のバイトをしていることが、である。


グッドチーフとオフィスの仲間たち。みんな若かった!


当然のことながら、その夜はグッド、バッド、両チーフがビアハウスにお目見えし、盛り上がったのはいいが、わたしは覚悟しなければならなかった。原則としてはどこの会社もバイトは禁止である。バッドチーフの口から、バイト歌姫の噂が本社に入る前に、わたしは何か行動を起こさなければならない。
 
その数年前、ケンブリッジ語学留学のために、社員としてはおそらく初めて、一ヶ月の休暇をわたしが会社に申し出たときに、力添えしてくれた本社の専務に事情を話した。(専務は以前「凱旋門とリンゴ酒カルヴァドスに再会する」に登場する本社の上司でこの時は専務になっていました。現在は会長職です)


「会社の給料だけでは、自活しているわたしに、アメリカ留学の資金はとても貯まりません。アメリカ留学がわたしの夢なのです。」本当を言えば、留学ではなくて「移住」なのであったが。

それからしばらくして、ある日の夕方、ビアハウスでマイクを持って歌っていると、東京本社からその日、出張で来ていたボスの姿を客席の隅で見かけた。逃げも隠れもできない。もう迷うことはないと観念してわたしはステージが終わるなり、ボスの席まで挨拶に出向いたのは言うまでもない。
 
以来、オフィスの同僚たちはもちろんのこと、時には大阪へ出張してきた本社からの上司たちの顔が、ホール内で時々見えるようになったのである。

本社からはその後、何の沙汰もなかった。思うに、あの楽しき愉快なビアハウスの雰囲気が彼らをも魅了し、ここならいいか、と、わたしをこっそり見逃してくれることになったのではないかと、ずっと勝手に思っている。

わたしのアメリカ行きはこの数年後になるのだが、この事件の発端となったおっとり者の「ザワちゃん」は、後にわたしと夫の婚姻届の際、証人となり、そして彼とはアメリカで奇遇なエピソードが待っていたのである。(これについてはビアハウス話終了後、アメリカ留学体験記にて紹介します)

いや~、人生ってまったくもって面白い!

本日も読んでいただきありがとうございました。