Sujak do 〜SujaのDNA〜

興味深く感じたことや読んだ書籍について書いたりしていきます。天然石については、一休み。

なぜ、火を放ったのか?〜水上勉氏の『金閣炎上』を読む〜

2021-06-12 14:58:00 | 本を読む
こんにちは
sujaです

京都の金閣寺と言えば
知らない人はいないほど有名なお寺です

その金閣寺が、かつて
放火によって全焼した事実を
関西出身である私は
恥ずかしながら知りませんでした

そして放火した犯人が
金閣寺の小僧だったというのも
今更ながら
衝撃を受けたのです

知るきっかけとなった昨年の2020年は
金閣寺が放火されて70年になる年で
この事件について書かれた書籍
三島由紀夫氏の『金閣寺』
水上勉氏の『金閣炎上』が
ラジオ番組で取り上げられて知ったのです

この2冊の書籍はぜひ読んでみたい
と思いながらも
なかなか読むタイミングを失い
ようやく先週
水上勉氏の『金閣炎上』を読むことが叶いました


水上勉氏は
犯人である林養賢とは
顔見知りであったようで
ことさらに
事件の真相についていろいろと
調べ尽くしているようです

京都府舞鶴市成生の寺で生まれた
養賢の生い立ち
吃音症だった養賢に対する周囲の反応
養賢を何れは金閣寺の住職にと
願う母親との葛藤
そして
いざ、金閣寺の小僧として
学校に通わせてもらいながら
修行する養賢が
きらびやかな金閣寺の理想と現実に触れ
徐々に変化する様子を
取材を元に
水上勉氏の想像を交えて表現されています

私が非常に衝撃を受けたのは

事件直後
養賢の母親は
わが子が放火犯とは知らずに
養賢が行方不明だという知らせを受け
母の弟と共に
京都の西陣署に出向くのですが
そこで養賢が犯人だと聞き
面会を乞うと、養賢が拒んでいると言われ
会うことなく西陣署を後にします

しかし
帰りの電車が鉄橋にさしかかったところで
橋の下を流れる川に身を投げて自殺してしまうのです

わが子が犯した大罪に対して
世間に詫びる気持ちがそうさせたのか?

当時そのように報じた新聞もあるようです
しかし
遺書もなく死を選んだ母親の本意は
誰も知ることは出来ません

養賢は
7年の実刑を受け
5年程で釈放されるのですが
結核を患った為
入院生活を余儀なくされます

そしてしばらくの後、息を引き取ります
27歳という若さでした

養賢は修行中
金閣寺の和尚である村上慈海から
説教のような文句を聞かされます

「自分が着物を着ているのも、裏返して着てもいても良いようなものだけれども、表を出して着ているのは、世間の人に見てもらう為に着ているのだし、飯を食うのも3度3度死なないために食べている。そんな風に無意味なことなんだ」

当時20歳そこそこの養賢が
この説教をどう解釈し
心のとどめたのか

金閣寺も無意味
修行する自分の無意味
生きるのも無意味

そんな思いが過ったとしたら・・・
と、考えさせられるのです

水上勉氏は
養賢と養賢の母親のお墓の所在を
探しながら
取材するのですが

養賢が生まれた成生の寺にも
母親の故郷にもないのです

そして
もしや?と思った場所へ向かい
ようやく出会ったという二つの墓石を
私は想像しながら
ただただ切なく
心が『キュウッ』と締め付けられました