さて、今回の最大の目的は、さけ科学館にあるガチャポンで、アニサキスのストラップをゲットする事なのである。以前から息子が欲しがっていた代物。その感激の瞬間に立ち会うために、ついて行った格好だ。
アニサキスはイカなどに潜んでいる寄生虫である。
1987年タレントの森繁久彌さんが、腹痛で入院し、その原因がアニサキスであったことから広く知れ渡るようになった。
アニサキスが生きて胃袋に入った場合は、胃壁を刺して侵入するので、七転八倒するような痛みがあると聞く。
その事実を知ってからは、鮮度の良い生のイカを買ってきて刺し身にする時は、必ず電灯にイカの身を透かして見たものだ。実際見つけたこともある。クルクルと渦を巻いた白い小さな寄生虫なので、すぐに分かる。
さけ科学館に入ってすぐ右手にそれはあった。ガチャポンだから、何が出て来るかは運次第。一回300円。
直ぐに出て来るだろうと、息子がガチャガチャを回すのを傍観していた。
ガチャポンの種類は、アニサキスのストラップの他に、鮭の皮のキーホルダーや鮭の耳石、寄生虫のサルミンコーラのストラップ等もある。それ以外の珍しいものも、たまに含まれているらしい。息子の情報では、職員さん達の手作り品であるようだ。
家から両替してきた1000円は直ぐに無くなったが、目的のアニサキスが出てこない。鮭の皮がやたら出て来る。
息子はガチャポンで、希望の品を早めにゲットできる運の強さを持っている筈なのだが、今日に限っては、中々目的の品を引き当てることが出来ない。
私が付いてきたせいじゃないだろうかと、そんな考えがふとよぎる。私はくじ運が悪い方だから、彼の幸運に影響を及ぼしたかも。
息子は諦めず、もう1000円をガチャポンに
投入。更に私の100円を追加して、「これで駄目だったら辞めるわ」と言って7回目のガチャをまわしたが…出なかった。
息子の手元には鮭の皮と、鮭の耳石、サルミンコーラ、ヒル等7品。
やめて帰ろうとした息子を私は引き止めた。「今日の目的はアニサキス。絶対ゲットして帰ろう!」
私は財布から新たな1000円札を出し、受付のお姉さんに両替してもらった。それからガチャを回すこと2回。やっと引き当てたアニサキス。私はホッとした。締めて2700円。
入館無料のさけ科学館の運営に寄付したと思えば、心も穏やかになる。
息子は私が出したお金を返してくれた。
(息子からもらった鮭の皮のキーホルダー)
(同じく寄生虫サルミンコーラのストラップ)
前にもこんな事があった。
20代の頃、夫と二人で行った温泉宿のゲームセンターでの事だ。
中でお菓子等がゆっくり回っていて、小さなパワーショベルですくうタイプのゲーム機があった(ゲーム機の名前は「スウィートランド」というそうだ)。
ゲーム機の中に、お菓子に混じってポツンと黒革の小銭入れがあったのだ。
「あれ欲しいな」と夫が言って、早速ゲームを始めたのだった。
今から40年も前の事で、確か一回100円か…200円しただろうか。
簡単に取れると思っていたのだが、小さなパワーショベルですくうには、やや大きめのアイテムで夫は苦戦した。
1000円があっという間に無くなった。その時も諦めようとした夫に、100円玉を渡し続けたのは私だった。大体見ているうちに熱くなるのは、私の方みたいだ。
どう見ても、その小銭入れは1000円の価値も無さそうな代物だった。それでも、一度取ろうと心に決めたものは、取らずにいられない。獲物を狙う野生の血のようなものだ(笑)。
結局2000円を費やしてゲットしたのだった。
似たような話と言ったけれど、比較してみると息子は結果的に費やしたお金と等価の品を得た。被ってしまった物はあったが、交換とかプレゼントとか売却等すれば、かけたお金は無駄ではない。
それに比べると小銭入れの方は、さして価値のないものを2000円もかけて手に入れた。
500円で買えそうな粗悪な小銭入れ。それを取ろうと、本来の価値以上の金額を費やしてしまったから、それを取らねばただの捨て金になってしまう。いや、どのみち価値がそこまで無い代物なのだから、捨て金か。でも、やはり初志貫徹。取らねばならぬと課金し続けたのだ。
でも、物は考えようだ。
目的のものを手に入れる為に、ドキドキハラハラしながら小さなショベルを操作する夫を見守る私。一つの粗末な小銭入れを見つめ、集中しながら、ワクワクしたあのひと時は、結局忘れられない思い出となった。
日頃、節約に心を砕く私が、非日常の中でハメを外したって、たった2000円なら許せるだろう。
小銭入れは使い古して、かなり前に捨ててしまった。今でも夫と語り草の2000円の価値のない小銭入れの話。
そんな大昔の事を息子のガチャポンに付き合って思い出した。