1月19日水曜日
所用で街に出た。お昼頃用事を終え、映画を観ようと駅前のシネマコンプレックスへ向かった。
数ある映画から2作品に絞り込んだ。
クリント・イーストウッド監督の最新作「クライ・マッチョ」か、SFホラーの「ヴェノム」の最新作か迷った結果、ホラーじゃなくて、人間ドラマの方を選んだ。
「クライ・マッチョ」
現在クリント・イーストウッドは91歳だ。かなりの高齢である。しかし、年齢にとらわれない精力的な活動には心から敬服する。
物語はクリント・イーストウッド演じるかつてはロデオのスターだった男が、友人である男に頼まれて、離婚した妻に虐待されている13歳の息子をメキシコからアメリカへ連れて来るまでの物語だ。
ストーリーが単純な分、最大の見どころは博打(闘鶏)をやり酒を飲む様な荒れた少年とクリント・イーストウッド演じる老人の心の交流という事になると思うのだが、期待した分失望が大きかった。
近年の監督作品の中で最高傑作だと思う作品は2009年の「グラン・トリノ」だ。
人種問題も絡んだ感動作でラストシーンは素晴らしかった。
映画館で観たのだが、隣に座っていたカップルの男性が号泣していた。私もだが。
2019年の「運び屋」も良い作品だった。
でも、今回は観客が期待するモノと監督の表現したいモノに大きな差がある事を感じ、観終えたあと落胆してしまった。
最も期待した老人と少年の心が寄り添うまでのプロセス。傷つき人を信頼する事ができない少年と激しく葛藤するシーンが描かれているだろうと想像していたが、そのあたりは生ぬるく、説得力のない表現だった。母親の差し金で息子を取り戻しに来る悪役に至っては、もはや茶番でしかなかった。
ストーリーに熱中出来ないから、目に入ってくる映像の中のクリント・イーストウッドの老いた姿にどうしても目が行ってしまう。
かなりの高齢ではあるけれど、健康そうで元気ではある。だが、やはり見る側としては、残酷な言葉だが、今回の役柄には年を取りすぎている。
映画は作り物であるとわかっている大前提の中で、いかに物語をリアルに表現され、その世界に引き込まれるか、そこが醍醐味なのだ。
しかし、今回は映像の中に段差があるとコケないかなと心配してしまうし、乗馬シーンは一部吹き替えだと思うが、馬上のシーンだけでもハラハラと危うさを感じてしまう。ダンスシーンではつまずくんじゃないかとか、撮影後はかなり疲れただろうな、大丈夫だったろうかと、映画作品以外の部分に意識が行ってしまう。
劇中、ロマンスもあるが、どうしても実年齢が頭にある為、申し訳ないがシラケてしまう。
半世紀以上様々な映画作品を観てきたが、主演を演じた男優では最高齢ではないだろうか。
その、やる気と情熱は素晴らしいと思う。見習わなければならないとも思う。しかし、スクリーンに映し出される姿は観客の目にとっては痛々しい。
監督業に徹する気は無かったのだろうか。主役を別の俳優で撮影するというプランはなかったのだろうか。
加えて、少年役の子役も芝居があまり上手くはなかった。
虐待されて荒んでいるはずなのに、真っ直ぐな目をした良い子にしか見えなかった。実際良い子なのだろう。
ただ、共演した闘鶏のマッチョは、安定感のある演技だった。鶏なのに犬にも匹敵する程良い演技だった。鶏は意外と頭が良いのかもしれない。
ターシャ・テューダーの可愛がっていた鶏のチカホミニーも、お利口そうだった。鶏がペットになりうるとは思ってもいなかったので、鶏が人になつく姿が新鮮だった。
俳優にはやはり旬というものがあるのでは無いだろうか。どんなに年を取っていても、はまり役はあるだろう。しかし、今回の配役にはいささか無理があったのでは無いかと思う。
言ってみればこの物語の主人公はタフガイなのだ。タフガイの年齢はアクションも含めれば、頑張っても60代までじゃないだろうか。
タフガイというと、古くは西部劇に良く出ていた俳優ジョン・ウェインを思い起こすのだが、彼の最後の作品「ラスト・シューティスト」は彼が69歳の作品だ。やはり、タフガイは年齢的にはこの辺りと言う事だろう。
ただ、ジョン・ウェインは癌という病に侵されていたので、もしそうで無かったら、70代もタフガイを演じていたかも知れない。
映画評論家でも無いのに、批判的な文章ばかりで、クリント・イーストウッドのファンの方々がご気分を悪くされる事がなければ良いけれど…。
日頃あまり映画を見ない方だったら、まあ楽しめると思う。シリアスな映画を好まない方もまあ楽しめると思う。メキシコ好きの人も楽しめるだろう。
映画を期待し過ぎて、シリアスなシーンを求めていた私にとっては満足がいかなかっただけのこと…。
それにしても残念だ。
映画観賞代金1,200円。
作品が思惑通りの面白さなら、「安かったなー。もっと払っても良いくらいだ」と思う。
作品がつまらなかった時、その作品を選んでしまった自分の勘の悪さを嘆き、1,200円が惜しくて惜しくてたまらなくなる。