時間を確認すると午前2時39分。耳を澄ますと何やら遠くの方で何かの鳴声が聞こえる。カモメだろうか。
私を真ん中に、夫が廊下側、息子が窓側。“親子川の字”で寝ていた。
隣に眠る息子の寝顔を見た。眠っていたのだが、私の視線を感じたのか息子も目を開けた。
前日から夜空が気になっていた。それは、ここが都会から離れた空気が澄んだ海岸に近い山荘であること。絶対に星がきれいに見える場所。
起き上がって中腰で窓から深夜の空を見上げて見る。晴れ渡り雲ひとつないが、窓からは空の一部しか確認出来ない。
そんな私の様子を見ていた息子が不意に
「星、見に行く?」と聞いてくれた。
願ってもない誘い。「うん」と即答。
山荘の部屋着のパジャマの上に羽織を着込み、更にコートを着て階下へ降りた。出会う人も居ない深夜だが、今考えれば酷い出で立ちだ。
外へ通ずるドアの前に立った。しかし、自動ドアは1ミリも動かなかった。どうやら防犯の為、施錠している様だ。開かないのなら仕方がない。
諦めて2階に上がりながら、部屋のすぐ横に非常口があったなあと思い出した。そこは開くだろうか。
期待を込めて非常口の取っ手を握る。こちらも施錠されていて開かない。それに非常時以外使っちゃ駄目な扉だ。諦めて、部屋に戻った。
もう外へ出る方法がないなあ。残念。そう思っていると、「窓から出られない?」と息子。おお、その手があったか。
この部屋の窓の外は非常口から通じる広いルーフバルコニーになっている。早速靴を履いて窓からバルコニーへ出た。
傍から見たら、真夜中に窓から出入りする怪しい二人組だ。
非常時にしか使用しないルーフバルコニーは、周囲の囲いの高さが低いので、落ちそうでちょっと怖かった。
息子が、「照明の明かりを避けてしゃがんだ方がよく見えるんじゃない?」と私にアドバイス。
言われた通り、体制を低くして改めて夜空を見渡すと、思った通りプラネタリウムのような星空が広がっていた。雲は一つもなかった。
星の名前に詳しくはないが、北斗七星だけは直ぐに分かった。
寝っ転がって何時までも見ていたい気分だったが、丑三つ時にホテルの窓から非常用バルコニーへ出ているという状況には、少し後ろめたさがあった。ある程度星を眺めてから、再び窓から部屋へと戻ったのだった。
過去に見上げた星空では、やはり息子と一緒に見た道東の知床(しれとこ)の星空が一番だった。宿泊先近くの真っ暗闇の森から眺めた星空。ミルキーウェイが肉眼で見えたのが感動だった。それを思い出し、
「星空は知床に勝るものなし」と私が言った。息子も同じ思いだろうと思いきや、意外にも息子は
「利尻に勝るものなし」と言った。
友人と訪れた利尻島で、地面に寝転び星空を眺め、流れ星を7つも見たそうだ。
道北に位置する利尻島の方が知床よりすごいのか。羨ましい。星空を眺めに利尻島に行くのもいいなあと思った。
コートと羽織を脱ぎ、再び明日の…いや、今日の襟裳岬行きに備え布団に潜り込んだのだった。
続く