子供達の好きだったおもちゃに、ヨネザワの「おはなしでんわ亅がある。
頻繁に使っていたのが二人がまだ幼児の頃だから、20年以上前になる。
その形はダイヤル式の赤い電話だが、右側に3つずつ2列の押しボタンが並び、その一つを押すと電話の会話のセリフが聞けた。
セリフは予め録音されたもので、ボタンと同じ数の6パターン。
女の子の声で
「パパ おみやげ おもちゃがいいな」
「ふみちゃん 遊びにいらっしゃいよ」
「あした お誕生日なの パーティーに来てね」
男の子の声で
「太郎君 ハイキングに行かないか」
「明日遊びに行くよ じゃあね」
女性の声で
「ママはすぐ帰りますからね おとなしく待っててね」
男の子の声を聞くと、よく聞く有名な声優さんの声の様にも感じられた。
誰が買ったものか、プレゼントだったか忘れたが、受話器を持ってボタンを押すと声が聞こえるということで、なかなかリアルなシチュエーションに大人の私も楽しかった。
乾電池を使った玩具であったので、次第に電池の残量が少なくなると、声がスローモーションの様になり、子供達はそんな状態でもゲラゲラ笑いながら使っていた。
私も元来の節約魂から、音が出なくなるまで乾電池を使い切る主義だった為、そのままにしていた。
子供達の遊び方もその変な声に触発される様に、少し乱暴になり、声が気持ち悪いと言って、転がしたりしていた。
もうそろそろ電池を替えなければと考えていた。
夕飯を終えて家族団らんの時を過ごしていた時、床に転がっていた電話のおもちゃが突然クリアーなママの声で「ママはすぐ帰りますからね」と鳴った。
誰も触れていないのに。
おまけに、さっきまで、どのボタンを押しても、例のスローモーションの声しか出なかったのに。
子供達と私は3人同時に目を合わせた。
その目は何れも見開き、驚きに満ちていた。
「なぜ?」という思いはあったものの、「まあ、そんな事もあるのかな亅ぐらいにやり過ごそうと思っていた。
その時3人が同時に抱いた思いを払拭するように、「不思議だねー亅と声に出したかもしれない。
その数分後の事だった。家の電話が鳴った。
母からの電話だった。
祖母が亡くなった事を告げる電話だった。
血の繋がりは無い祖母であった。
出会いは小学5年生の時である。
当時祖母は50代前半だったと思う。
降って湧いたような図体のデカい初孫に、どんなにか戸惑った事だろうと思う。
祖母の家にはたまに泊まりに行くこともあった。
夜ふかしの私に付き合って、随分遅くまで遊んでくれた。
毎週、私の好きな週刊漫画誌の“少女フレンド”を買ってくれた。
私がカボチャが好きな事を知ると、遊びに行くたび、畑のカボチャを煮て食べさせてくれた。しょっちゅう遊びに行っていたので、私の手はカボチャのカロチンの色素のせいか、黄疸の様に真っ黄色になった位だ。
実の孫のように可愛がってくれた祖母であった。
たまたま、玩具の電話の不具合と重なっただけの出来事だったのだと思う。
あんまり、何でも不思議な出来事だとは安直に思いたくも無い。
それでもやっぱり、もしかしたら、知らせに来てくれたのかなと思ってしまう。