子供の頃、好きなテレビ番組を見逃した時の私の心情だ。
1960年代はテレビのアニメーションの放映本数も、それ程多くは無かった。
何のアニメが何曜日の何時から始まるか、全て把握し毎週楽しみにしていた。
ところが、うっかり遊び疲れて放映時間に眠ってしまったりする事がたまにある。見逃してしまったが最後。今と違い、同じ番組を容易に見る事が出来なかった。当時はハードディスクレコーダーもTVerもない時代。
「はっ亅と目が覚めて、番組が終わっていたりすると、起こしてくれなかった親を恨んだり責めたり…親に罪が無いのはわかっていたが、やり場の無い口惜しさに、どうしようもない気持ちがつのり、ついついそんな行動に出て、叱られた。
その点、今は良い時代だ。テレビ番組を録画する事もできるし、ティーバーで見逃した番組を見ることができる。You Tubeにあがっていることもあるし、少し待てば、人気ドラマならDVDが出て、レンタルも可能だ。購入して、愛蔵することも出来る。
“テレビっ子”であった私は、アニメの他に海外のドラマも見ていた。その中で、最も好きだったのが「ミステリー・ゾーン」だった。
原題は“TWILIGHT ZONE”だが、“トワイライト”という言葉は当時は世間に普及していなかった。それで、より周知された言葉「ミステリー」を使って番組名にしたのだろう。秀逸なネーミングだと思う。そそられる番組名と言う事では、大成功だ。
番組が始まる時のオープニングの曲を聞くと、心が高鳴った。
世にも不思議な世界が展開する。
調べたところ、脚本のほとんどを手掛けたロッド・サーリングがホスト役として出演していたと言う事だが、その部分は記憶からすっかり飛んでしまっていた。
ミステリー・ゾーンのスタイルは、フジテレビ系「世にも奇妙な物語」にも影響を与えている。
ストーリーテラーとして出て来るタモリの役どころは、まさにミステリー・ゾーンのホスト役、ロッド・サーリングだ。
古い記憶をたどって、印象深いエピソードを書き起こしてみる。
「交通事故で夫を失った老婦人。自身も車椅子の身となった。
ある日電話がかかってくるが、無言である。その日から無言電話が毎日かかってくるようになった。
婦人は困惑し、電話会社に相談する。すると、電話会社から電話線は切れており、かかるはずが無いと回答が来る。
電話線をたどっていくと、確かに電話線は切れており垂れ下がっていた。線が垂れ下がっていた先には、墓石があり、老婦人の夫の墓であった。」
ちょっと怖いような、悲しい様な、オチのあるお話なのだ。
ミステリー・ゾーンは私の心をガッチリとらえた。
他にも記憶に強く残っている作品がある。
「あるカップルが奇妙な街に迷い込む。人が全く見あたらず、ゴーストタウンのようである。
二人はどこかに人がいないか、あちこち探すが、誰一人見つからない。
木にリスがいたが、近付いてみると生きていない。剥製だ。二人は不気味な街にパニック気味になる。
その時、大きな目が二人を覗き込む。二人の恐怖は頂点に達する。
『ママー、もっと違うセットも買ってね』
覗き込んだのは巨大な少女である。少女の背後から俯瞰すると、これまで男女が歩き回っていたゴーストタウンは、少女のおもちゃのミニチュアタウンであり、男女は少女の玩具の一部であった。」
私を虜にしたこの番組の楽しさを、少しでも感じていただけただろうか。
その他にも
「人気の腹話術師がいた。楽屋に戻ると、腹話術の人形は腹話術師に向かって、たった今終わった舞台のダメ出しを言い始める。
『お前の人気も俺のおかげだ』といった口ぶりの人形の話が続く。
人形に支配されていく腹話術師の苦悩が続く。
物語の終盤。
いつしか
“腹話術師そっくりの人形”が、
“腹話術の人形にそっくりな腹話術師”によって操られ、すっかり立場が逆転してしまった。亅
この回の話は、よくよく思い出してみると、白黒では無くカラーで見たような気がするので、もしかすると後年リメイク版を見たときの記憶かも知れない。
さらに、見終わった後、何とも言えない気持ちが残る話。
「結婚を約束した男女がいた。
男は自分が住んでいた実家へ彼女を伴って訪れた。
久しぶりに訪れた男は、家の中をあちこち歩き回っては、子供時代の事を語り、『懐かしいなあ』と感慨にふける。
男は“懐かしさ”に囚われたようになり、2階の自分の部屋へと階段を上がって行ってしまう。
彼女が階下で彼と母親が写った写真などを眺めながら待っていると、止まっていたはずの家の中の時計が突如動き出す。彼女は驚き、恐怖にかられ、彼を呼ぶ。すると、階段から見知らぬ少年が降りて来る。
『おばさん誰?』と声をかけられ、戸惑っていると背後から、写真に写っていた母親が現れる。
悲鳴と共に、女はその家から飛び出して行く。
男の“懐かしさの念”の強さが、時間を逆行させてしまったのだ。」
結婚という希望に満ちた状態で、愛する彼と“彼の思い出に満ちた家”へ行ったがために訪れた悲劇。
何とも言い難い後味だ。
以上の各エピソードは、完全に子供の頃の記憶によるものなので、実際に見直すと多少違っているかもしれない。
毎回、見終えた後に味わう快いショック。
私はミステリー・ゾーンの虜だった。
友達と遊んでいても、「ミステリー・ゾーンがテレビで始まるから」と言って帰るほどだった。
ところが、たまには友達と楽しく遊んで時を忘れ、うっかり見逃してしまう事もあった。友達との遊びが楽しかったとは言え、「あーしまったー」と悔恨の念にさいなまれ、またしても身悶える。
後年、スティーブン・スピルバーグ制作によって、映画化もされた。
オムニバス形式で、4話のエピソードで構成されている作品だ。それぞれのエピソードをスピルバーグを始めジョン・ランディス等、計4名の監督が担当している。
その中の1話に、ビック・モローが出ていた。
ビック・モローと言えば、子供の頃に見ていたテレビシリーズ「コンバット」に出ていたサンダース軍曹だ。
私はサンダース軍曹が好きだった。
トワイライトゾーンの映画製作については、当時よく購入していた映画雑誌で知っていた。そして、悲しい事故の事も…。
ビック・モローは撮影中のヘリコプターがバランスを失って墜落し、その際回転するヘリのローターによって、二人の子役と共に命を奪われてしまった。何とも痛ましく、残酷な死であった。
この作品がビック・モローの遺作となってしまった。
そんな事もあってか、映画はあまり楽しめなかった。
レンタル店に行くと、トワイライトゾーンと銘打った映画作品やテレビシリーズがオリジナルやリメイク版を含め数々ある。気になって、その内の数本は見てみた。それなりに面白くはあった。
しかし、あの子供の頃に感じたワクワク感は、やはりブラウン管が内蔵された、あの四角い箱型の昔のテレビ。オープニングの不安を煽る単調なメロディーの音楽。そして色のわからない白黒の映像。それに勝るものはない。