随分前の事だが、娘と札幌駅前で待ち合わせをした時にこう言われた。
「えっ?妙夢って?」
私が聞くと、「真ん中に穴のあいたオブジェあるじゃない」そう言われて、「ああ、あれか」と直ぐに場所がわかった。
妙夢とは、世界的に有名な彫刻家、安田侃氏の作品だ。
妙夢を知ってから、時折似たような作品をテレビなどで目にして、「安田侃的な作品だな」等と思っていると、正に安田侃氏の作品であったことがあり、思惑が当たったことが嬉しくもあり、また親しみも湧いた。氏の作品は、類似したフォルムが多く、特になだらかな曲線の作品は、見ていると不思議と心が安らぐ。
美唄(ビバイ)市の廃校を利用した美術館「アルテピアッツァ美唄」(1992年~)の存在は知っていた。そこが安田侃氏の彫刻作品を野外に配した美術館であることも知っていたが、あまり関心は無かった。
ところが、最近になってテレビで「アルテピアッツァ美唄」の風景を目にして、その光景があまりに美しく、行ってみたくなったのだ。
秋晴れの9月29日金曜日に夫の運転する車で向かった。
午前11時にアルテピアッツァ美唄に到着。
平日の午前中ということもあり、駐車場に一番乗り。
体育館を利用したアートスペースから鑑賞。
ダイナミックな配置。
作品名「無何有 MUKAYU」
体育館の中にある螺旋階段が、素敵。でも、スリッパだったので、上る時も下りる時もちょっと急で怖かった。
日頃感じることのないその「怖さ」も含めて、楽しい。
螺旋階段を上った先には、安田侃氏の作品の写真集などがあり、自由に閲覧出来る。また、訪れた人が書き込むノートも置かれており、全国各地から訪れた人や外国の方の書き込みもあった。
実際、体育館の入口ですれ違った小さな子どもを連れた家族は、アジア系の外国人だった。
「無何有Ⅱ」
「無何有Ⅱ」
「回生」
アルテピアッツァ美唄は無料の施設だ。
最近、無料の施設には積極的に募金することにしている。微々たる…いや微ビビビ…たる金額で申し訳ない。
心ある人は、お札を入れている。
体育館の外観。
手前にある作品は「意心帰 ISHINKI」
体育館から出ようとした時に突如降り出した天気雨。直ぐに止んで、それが効果的に芝を更に生き生きとさせた。
「妙夢」
なんて美しい景色。
私がもっとも心ひかれ、ここに訪れさせたのは、これらの景色だ。
水の広場
手前が「天沐 TENMOKU」
奥の方にある「天聖 TENSEI」
一面緑の芝の中の白いオブジェ。白い玉石。かすかなせせらぎの音。小鳥のさえずり。絶え間ない水の流れ。やさしい風。秋の陽の光。
なんて、贅沢なエリアなんだろう。ここに佇むだけで癒やされる。
元々炭鉱の町だった美唄。安田侃氏の故郷でもある。
炭鉱の閉山と共に児童数が減少し、小学校は1981年に廃校となった。
ここで学んだ子供たちは、きっとこの広い空の下で、のびのびと育ったのだろうなあと思う。
1992年にアルテピアッツァ美唄として廃校は生き還った。
ギャラリーである本校舎の方は、残念ながら閉鎖中。
ギャラリーである本校舎の方は、残念ながら閉鎖中。
「真無 MAMU」
丘の麓にあった対の作品。私は勝手に鶴と亀と解釈してみた。縁起が良いし。
でも、作品名を見ると、ヒヨコと卵なのかな。
「新生」
「生誕」
丘の上。小さな丘なのに、スマホで撮ると夫が豆粒。
「新生」
「生誕」
丘の上。小さな丘なのに、スマホで撮ると夫が豆粒。
アルテピアッツァ美唄のアルテピアッツァとは、イタリア語で芸術広場という意味だそうだ。安田侃氏の作品は、40点あるらしい。
作品を探しながら散策すると、象さんみたいなオブジェが出現。
「胸いっぱいの呼吸(いき)を」
これが作品名。どうやら、象さんじゃなくて、肺の形をモチーフに表現したものだろうか。
「天翔」
木の間に、ここにもいるよと作品があった。
「相響 SOKYO」
「相響 SOKYO」
「真無 MAMU」
作品があんな所にもある!と笹ヤブの中へ行こうとして、ハッと思い出した。
作品があんな所にもある!と笹ヤブの中へ行こうとして、ハッと思い出した。
ここは、くまの生息地だった。広場には私一人。急に怖くなった。
引き返そうと数歩歩いたら、足元に動物の黒いふんがあった。小さいけれど、キツネじゃ無さそう。子熊だろうか。
広い場所だけに、夫は視界に入らない場所にいる。
突如、「ウーウー」とサイレンが鳴った。一瞬「熊出没の警報」かと焦ったが、時計を見ると丁度お昼の12時。この辺一帯は、昔ながらにお昼はサイレンで知らせているみたい。ちょっと、ドキドキした。
1時間ほどあるき回った。もっと歩けば、もっと作品を見られたかも知れないが、このあたりでおいとました。
札幌から美唄までは、一般道路を利用すると90分程だ。
年金暮らしの老夫婦はお金は無くても、時間だけはたっぷりある。
平日の日中だし、渋滞も起こり得ない。それなのに、夫は行きも帰りも高速にのった。片道30分しか違わないのに。
連れて行ってもらうという立場上、何も言えなかったが…。
無料の施設の見学に、片道1,600円、往復3,200円。思いもよらない出費となってしまった。
公共交通機関を利用したと思えば、安いものか…そう思っておこう。
高速道路にはシカやキツネ、タヌキの「動物注意」の看板がアチコチに立てられている。その高速を、110キロでぶっ飛ばす夫の車に内心ヒヤヒヤしながら乗っていた。
それでも、高速道路から眺める景色は、遠くの山々まで遮るものなど無く、どこまでも気持ち良いほど見通しが良かった。
天気は良かったが、雲が多い日でもあった。様々な雲を見ているだけでも、秋にふさわしいアートな1日だった。