ある年の検診の時、バリウム検査をスルーしたら、診断結果の通知書に「ピロリ菌に感染している」という記載があった。それは、初めてのことだった。
ピロリ菌の感染の有無は、血液中の抗体検査をする事でわかるらしい。
ピロリ菌が、多くの人の胃袋の中に存在しているという事は以前から知っていたので、「ああ、私にもピロリ菌がいたのか」という程度の認識だった。
それからしばらくして、社内の昼食時の雑談の中で、ピロリ菌の話題が上がった。
私と年齢の近い同僚が「この間ピロリ菌を除菌した」と言う。
話を聞いてみるとピロリ菌は、一週間ほど抗生物質を飲む事で除菌出来るらしい。
私も前回の健康診断で、ピロリ菌に感染していることが分かったと何気なく話したら、「除菌しないの?」と聞かれた。
除菌の事など全く念頭になかった私は「多くの人が持っている菌だし…」と曖昧な返答をした。
すると「ピロリ菌は胃癌の原因だよ。除菌しないと癌になっちゃうじゃない」と言って、除菌をした方が良いと勧められた。
そこまで言われると、私も急に気になりだして、後日、近所の小さな胃腸科の医院へ行った。
そこの先生は、3~40代の結構若い医師だった。
その時は健康診断書が必要だとは知らなかったので持参しなかったため、それがないと薬を出せないと言われた。
出直すことを伝えると、医師から「そもそもピロリ菌が居るからと言って、100パーセント癌になるわけではないですしね」と言われ、その言葉のニュアンスは、私には『あえて除菌しなくても』と言葉が続くように感じられた。
それに私の方の家系には胃癌になった人はいないはずだし、結局そのまま何もせずに今日に至っている。
ピロリ菌について調べてみると、胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍などを引き起こし、癌の原因になる、とやはり記載してあった。
夫は若い頃に頻繁に十二指腸潰瘍になり、入院したこともあるのだが、当時は仕事のストレスが胃に来たせいだと思ったていた。今思えば、ピロリ菌のせいだったのかなと思う。
一昨年の事、夫は胃の不調を訴え、胃痛や嘔吐に悩まされた時期があった。
病院で検査した所、ピロリ菌がいることがわかり、お医者さんの勧めで除菌をしたのだった。
するとその効果なのか、胃の調子はかなり改善した様だった。
元々夫は胃腸系が弱い事もあって、現在は油ものは避け、食事の量も「腹八分目」で、胃をいたわりながら過ごしている。
ピロリ菌の除菌効果があった実例ということになるだろうか。
ピロリ菌の保菌者は、団塊の世代以前の人が80パーセントを占めると言われている。
感染の原因は、主に生水を飲んで感染したか、子供の時に親からうつったということが多いらしい。
私の父は昭和一ケタ生まれなので、当時は上下水道も十分に普及していない地域もあっただろうし、特に父は田舎に住んでいた。生水を飲んで感染していてもおかしくはない。
現在のように、レトルトや瓶詰めの離乳食が無かった時代だったから、親が噛み砕いた物を直接幼児に食べさせることが普通に行われていた。父も親からその様にピロリ菌をもらい、私もまた、父からもらったものに違いない。
父が持っていたピロリ菌となると、父の居ない今
、なんだか「忘れ形見」の様な気がして愛おしくさえ思える。除菌してしまうのも何だかなあ…。
父も持っていたんだから、私も持っていようか等と思う。父の死因は癌ではなかったし。
そんなわけで、ピロリ菌はもうしばらくの間、私の胃の中で自由にさせておくつもりだ。
父からもらったピロリ菌、まさか私の子供達には感染って無いよなあ。
私は子育ての時に、口で噛み砕いたものを与えたりはしなかった。しかし、ピロリ菌は子供へのキスでも感染する可能性があるらしい。感染しやすいのは5歳以下だという。
可愛い盛りだもの、子供にたくさんチューをした。同じコップで飲み物を飲んだりもした。
大丈夫かな?
私のピロリ菌、どうか感染っていませんように。
その内、抗体検査で確認してもらわなくっちゃ!
感染ってたら、ごめ~ん。