先月日本の西の端と南の端まで旅した息子が、波照間島の黒糖ちんすこうや黒糖ショコラのお土産を持って帰ってきた。
久々に見る息子の顔は頬が腫れているように見えた。「腫れてる？」と思わず聞いてしまったのだが、ただ太っただけだった。ほっぺの膨らんだ息子の顔は、一瞬父と重なってハッとした。
かつてはガリガリに痩せていた息子は、いつも太りたがっていた。そんな彼も、30歳を超え、太りやすくなったようだ。
数年前まで私より少なかった体重が、今では私を10キロほども上回っている。
衣服もきつくなってきたと言っていたが、風呂上がりに見た彼のパンツはパツパツだった。
トランクスの足がパツパツだということは、意外と息子は足が太かったのだなと初めて気が付いた。
これまでは痩せていたから、その身体的特徴に全く気付かなかった。
太ももが太いという特徴は、まさに私の遺伝子だ。うら若き乙女の頃、自分の大根足にどれだけ悩まされたことか知れない。
でも、息子の場合は、その脚力が活かせたのじゃないかと思う。高校生の時にママチャリで稚内まで爆走出来たのは、その太ももあっての事だったかもしれない。
そう言えば、幼稚園の運動会でも、その能力はいかんなく発揮された。
クランカーという立ったままでペダルを漕ぐ乗り物を利用した競争があったのだが、それで1位を取れたのも、ガリガリの見た目に隠されてはいたが、実は強靭な太もものおかげだったのかも。
(余談だが、「クランカー」を確認しようとネットで検索したのだが、全くヒットしないのである。あの幼稚園の競技に使用した、クランカーと呼ばれていた乗り物の正式名称は一体何なのか、謎のままである)
息子は波照間島のお土産の他に、「これ、使わないからあげる」と封筒をくれた。中を見ると一瞬宝くじに見えたのだが、よく見るとギフトカードの束だった。
会社から支給されたものらしいのだが、“使いづらい”と使わずにいたら、たまっていた、と言う。
結構な額なので、同額を現金で渡そうとも思ったが「いらない」というので、遠慮なくもらっておく事にした。息子には、おいおい色々な形で還元することにしよう。
それにしても、思いがけない2月のビッグなお年玉。あー暖かい。懐が。2月なのに。
翌日、息子が外出した後、ふと思い立って、息子のパンツを買いに、近所のスーパーに行った。
息子はまだ30歳。母親である私から見れば、まだまだカッコつけて良い年なのに、息子は身に付けるものにあまり構わない。
太った今、パンツが全部小さいらしい。
あのパツパツパンツ。
高級ブランドの“勝負パンツ”でも買ってやろうと思ったが、近所のスーパーの下着売り場ではたかが知れている。
スーパーで最高級のパンツは、せいぜいB.V.Dといったところ。ゆったりめのMサイズというのがあったので、それを4枚買った。
私の買いたい理想のパンツは、高級ブランドの息子にとっての“勝負パンツ”だったのだが…。
その視点で見るとB.V.Dは、安めのパンツだが、別の視点から見ると、夫にもおいそれとは買ったことの無いB.V.Dは高価なパンツでもあるのだった。
既婚者には安パンツ。未来ある息子には、高級パンツ。スーパーのだけど…。
夕飯は息子のリクエストでシチュー。早々と作り終えて、ふと息子が前に言つていたことを思い出した。
私が折り紙でバラを折りだしてからのこと。たまたま息子は折り紙の立体的なかたつむりをどこやらで目にして、写真にとって送ってきた。そしてそれを一緒に折ってみたいと言っていたのだった。
息子と一緒に折る前に、ちょっと折ってみようとネットで調べてみた。
試しに折ってみると、バラを折る行程よりは単純だった。かたつむりの殻の部分を膨らませる行程は、なかなか楽しかった。
帰宅した息子と夕食を終えた後、早速肩を並べて折ってみた。スマホの小さな画面でYouTubeを見ながら、停止したり戻ったりを何度か繰り返した。
日頃、折り紙など手にする事もない息子は、結構悪戦苦闘していた。
かたつむりの折り紙の醍醐味は、何と言っても殻をふくらませる所。
小さく折りたたまれた紙の重なりを、指で摘んで広げるように膨らませていく。平面から立体的に変容していくかたつむりの姿に、息子は感動していた。
かたつむりの折り紙には、もうひとパターン、すごく難しそうな形がある。一度YouTubeで見たが、折りの行程が複雑そうだった。
次回はそれを二人で折ることを約束して、息子は私が贈ったB.V.Dのパンツを抱えて、苫小牧へと帰って行った。
