K馬日記

映画や美術、小説などの作品鑑賞の感想を徒然なるままに綴っていきます。

パールフィ・ジョルジ『His Master's Voice』

2018年12月09日 | 映画
というわけで、今後3回東京国際映画祭の詳説です。最も面白かったパールフィ・ジョルジの『His Master's Voice』から。



ハンガリーに暮らすペーテルは、アメリカで起きた謎めいた事故のドキュメンタリーの中で自分の父親を見つけたような気がした。
父親は70年代に共産主義政権下のハンガリーから亡命し、以来、消息を絶っていた。父を探しにアメリカに向かったペーテルの前に、米軍の陰謀が立ちはだかる…。
その旅はやがて宇宙と繋がり、人類は孤独でないと世界は知ることになる。
(「第31回東京国際映画祭公式サイト」より)


「ソラリス」でお馴染み稀代のSF作家スタニスワフ・レムの原作小説「主の声(Głos Pana)」をオリジナルに解釈し映画化。
数学者の手記にしか過ぎない原作を哲学的なドラマとして膨らませられる才覚たるや!完成度が高すぎて思わずニヤついてしまいました。



HMV
原題はフランシス・バラウドによるイギリスの絵画で、主人の声を聞こうと蓄音機に耳を傾ける犬ニッパーを描いたもの。
同題はレコード販売業社HMVの由来ともなっているほか、ニッパーはヴィクターのロゴにもなっているのだとか。つまり、録音文化を象徴するアイコンのようになっているんですね。
しかし、本作は決して音楽的な話の筋を持たない。障害を持った弟と弟に奉仕する兄ペーテルが父親を探すというドラマとなっています。
不審な事件が多発し、その研究をしていた父。地球外生命体とのコンタクトを試みていたものの、実験は失敗に終わり計画は頓挫。残されたバイナリデータは布として縫製され、それを元に弟は外の世界とコンタクトを取り続ける。(自分で書いててわけわからん)


バイナリデータのかたまりと向き合う弟

最終的に"His"とは誰なのか、"Master"とは何なのかは明確にはされませんが、その分興味の尽きないシナリオになっています。


マクロとミクロの往来
宇宙というマクロの世界と分子というミクロの世界を往復するシーンがあるのですが、その世界観がいかにもSF映画という感じで好みでした。
イームズの"Powers of 10"を彷彿とさせるカット。10倍という力の大きさを演出した作品ですが、本作はマクロとミクロが同一化のような表現がなされており、一は全、全は一というような宗教観のようなものか示されています。
最後はペーテルの背景がホワイトアウトし、我々の先祖はどこから来たのかというリアルな系図として示されます。(自分で書いててわけry)



タイピングによるクレジット表記がとにかく20世紀SFって感じで大好き。最後のエンドロールまで楽しませてくれる作品でした。



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