蛙が殺された
子供がまるくなつて手をあげた
みんなでいつしょに
かわゆらしい
血だらけの手をあげた
月が出た
丘の上に人が立つている。
帽子の下に顔がある。
萩原朔太郎「月に吠える」
中学三年の夏、担任が読めと寄こした朔太郎詩集「月に吠える」の一節だ。
読んで時間が止まったような衝撃をうけた。
ことばの中に奥行きのある静止画のように描かれた殺伐とした精神世界の風景を見た気がした。
その風景は自分とそう遠く離れたものではないと感じた。
あれから40余年。
やっと40年で、既に40年だ。
ぐるっと周ってなんとやら。
何が変わったのか、何がそのままなのか。
見回してみても答えは無い。
我が身の内にあるは余熱のけだるさ。
通り過ぎてしまった停留所の場所も名前も夏の暑さで蜃気楼に霞んでいる。
時は流れず凍てついて窓に張り付いている。
でもよいではないか、また次のバスが来る。