平らな深み、緩やかな時間

41.『宮脇愛子 1959 ~ new works』カスヤの森現代美術館

 横須賀のカスヤの森現代美術館で、『宮脇愛子 1959 ~ new works』が5月25日まで開催されています。宮脇愛子(1929~ )といえば、インスタレーション作品の『うつろひ』のシリーズがとりわけ有名です。若い頃のミニマルなタブロー作品の頃から、つねに完成度の高い作品を発表し続けている作家ですが、今回は新しい作品の発表、ということでした。
 個人的なことでいえば、私は完成度が高くて隙のない作品がやや苦手です。そういう作品に対し、うまいなぁ、と感心することはありますし、素直に技術の高さ、レベルの高さに感嘆することもあるのですが、心の底から楽しめるのは、少しほころびがあっても自分にとって身近な感じがする作品です。私自身が、いつまでたってもアマチュア意識のままで、美術に接しているからかもしれません。ですから、宮脇作品のように、端正で完成度の高い作品は、感心してながめることはあるものの、うまく作品に入り込めない気がするのです。
 しかし、今回の新作は様子が違っていました。
新作は平面作品ばかりだったのですが、とりわけ青を基調とした作品が、私にとって興味深いものでした。少し絵の具の盛り上がったマチエールは、初期のミニマルな作品と共通する面もあるのですが、空間のとらえ方が自由でゆとりがあり、若い頃の作品とはかなり違った印象を受けます。画面上にやわらかな奥行きがあるのですが、それが平面的な感触を失わないところでとどまっていて、それがとてもみごとです。さまざまな様式の作品空間を経験した作家が、こういう自由な境地にたどり着く、というのも注目したいところです。旧作とうまく組み合わせて展示してあるので、私のように年代による作品の違いを感じ取ってもよいし、逆に共通点を見いだしてもよいでしょう。見る人によって、いろいろなことが感じられる展覧会だと思います。
そして私の場合、新作のやわらかな奥行きの空間から遡って宮脇の初期の作品を見ると、そこに絵画の平面性と物質性への強い意志が感じられて、その時代の宮脇にとって何が重要だったのか、ということが改めて実感できました。その時代、つまり1960年頃の美術は、私が生まれた頃のことでもあり、当然のことながら回顧的に振り返った展覧会しか見たことがありません。アンフォルメルやミニマル・アートの膨大な作品群の中で、個々の作品をじっくりと味わうことは、実は結構難しいことなのですが、今回の展示で宮脇の初期の作品について、これまで以上にその個性を感じることができました。知的なアプローチと妥協のなさ、という点で、やはり高水準の作品なのだと思いました。

 このところ、職場の異動のあわただしさで、展覧会にも出かけられず、悶々としていましたが、静かな美術館でこのような作品と出会い、ちょっと生き返った感じです。日頃の喧噪やストレスが、遙か彼方に遠のいた気がして、心が穏やかになりました。言葉にするとつきなみで陳腐に聞こえるかもしれませんが、こういうことが実感できる展覧会って、ときどきありますよね。

 来週は、沼津市庄司美術館に宮下圭介さんの展覧会を見に行く予定です。この機会に宮下さんはご自身の作品集を発行され、それが京橋のギャラリー檜などでも購入できます。私のテキストを掲載させていただいているので、よかったら展覧会共々、ご覧いただけると幸いです。(私の文章はともかく、すばらしい作品集です!)

 しばらく、ブログを書く暇がありませんでしたが、また生活のペースを整えて、書きつづっていくことにします。些末でくだらない日常は、どこかに置いておくことにしましょう。
それでは、今日はこの辺で・・・。

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