平らな深み、緩やかな時間

39.『CONSTELLATION 2014』『倉重光則展』『稲憲一郎展』について

先週の休日(4日、5日)に美術館に行こうと思いつつ、仕事でかなわず、11日の昼ごろにあわただしく職場を出て、東京に向かいました。

案内状をいただいていた『CONSTELLATION 2014』(上野の森美術館)の最終日です。終了時間が14時だということに数日前に気がついて、もうだめかと思っていましたが、何とか間に合いました。美術館に入ってみると、街の画廊で意欲的に作品を発表されている方が多数出品されているせいでしょうか、会場はなかなかの賑わいです。さまざまな作品が壁に床に並べられ、作品の合間に芸術に関する文章が掲げられ、一階の広い部屋では音楽の演奏があり、と充実した展覧会でした。その半面、もうすこし落ち着いて作品を観たかったな、という気がします。もっとも終わり間際に行った、自分が悪いのではありますが・・・。
ともあれ、この美術館でこのような企画展を見るのは初めてで、できればもっと数多く、このような試みをやってほしいものです。現在は、昔のように銀座から京橋、日本橋界隈を歩くと、いくつもの現代美術の画廊があり、若い作家が競い合って作品を発表している、という状況ではありません。よほどの著名な美術家でないかぎり、継続して作品を発表していくことが難しい世の中です。ですから、すこしでも発表の機会があり、このような企画が可能な展覧会場があった方がいいと思います。
http://artfusion777.com/index.html

それから、Step Galleryの『倉重光則展』、ギャラリー檜の『稲憲一郎展』と廻りましたが、それぞれ充実した展示で、こちらはまだ会期中なので、ご覧になっていない方は、ぜひ出かけられるとよいと思います。
『倉重光則展』ですが、いつもの、と言っては何ですがネオン管を使用した作品が二点と、ほかに新しくはじめられたペイントの作品があって、これがなかなか楽しくて、さすがにうまいなあ、と感心してしまいます。たとえば赤い絵具が一面に塗られた画面を、垂直、水平に指で(?)ひっかいて、何本もの線を入れた作品があります。下地の黒がひっかいた跡から見えて、作者がどういう手順で描いたのか、思わず目で追いかけてしまいます。中央の十字の線は、しっかりとした直線ですが、他の線はたどたどしくよれていて、それがユーモラスであると同時に、作者の身体性やら、制作上の時間性やらを感じさせます。こんな単純明快な作品が、どうしてこんなふうにいろいろと考えさせたり、楽しめたりするのか、とても不思議です。何かだまされたような気もしますが、それでもいいと思ってしまいます。
http://www.stepsgallery.org/index.html
『稲憲一郎展』は、こちらも写実的な描写に自由な色のタッチを重ねた作品と、壁からせり出してくるレリーフ状の立体作品など、いつもの作品が並びます。それらの作品も充実していてよいのですが、個人的には、今回、写実的な描写のない平面作品、つまり色の重なりだけの小さな作品がきれいだな、と思いました。稲作品の一つの特徴として、異質なものを作品の中でぶつけあうことで、その構造をより明解に見せる、ということがあると思います。たとえば写実描写と、抽象的な色のタッチを重ねることで、単なる平面作品が時間的に、空間的に、不思議な奥行きをもってくる・・・、そういう絵画の構造を私たちに見せる、というわけです。しかし、もしかしたら、写実描写という方法を取らなくても、稲作品のコンセプトは、私たちに届いているのかもしれません。今回、私が魅かれた小品は、落書きのような鉛筆の線が下地の層にあって、その上に塗り重ねられたメディウムの層の中、あるいはその上に抽象的な形状の色塊があって、それらがとてもうまく響きあっているような気がしました。それらが、ただなじんでしまえば、普通のきれいな抽象画ですが、メディウムの層が介在することで、微妙な違和感というか、距離感のようなものを作り出していると思います。これまでも、同様の試みの作品を見ていると思うのですが、私がうまく受けとめていなかったのかもしれません。
http://www2.ocn.ne.jp/~g-hinoki/news.html

倉重作品にしても、稲作品にしても、制作方法そのものは明快です。しかし、その背後にあるもの、たとえば制作行為であるとか、作品における時間性であるとか、絵画に対する考え方であるとか、そういったものが作品から透けて見えてくるのです。彼らがそれらとどう対峙しているのか、展覧会を見に行くということは、そのことを確認しに行くことでもあります。何十年にもわたって、そういう営みを続けて、ときには互いに切磋琢磨してきたキャリアには、脱帽するしかありません。

ところで、今回まわった「Step Gallery」と「ギャラリー檜」の両画廊で、販売している本があります。『田村画廊ノート あるアホの一生』という本です。2008年に亡くなった山岸信郎氏の文章を、美術家の竹内博氏がまとめたものです。読んでみると、山岸さんの姿が眼の前に浮かんでくるような本ですが、山岸さんを知らない方にも、ぜひ読んでほしい本です。私自身は、山岸さんの表面的なことしか知らず、都合よくその優しさに甘えていたのだなあ、という感慨を持ちました。山岸さんについて、何か語る資格があるとは思いませんが、それでもこの本について紹介できることがあれば、いつか綴ってみたいと思います。
今回は、とにかくお知らせまで。

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