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ククルス・ドアンの島

2022-07-01 00:49:42 | 映画

 

久しぶりに映画を観に行った。

アニメ映画、“劇場版 機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島”。

1979年にテレビ放送されたアニメ、機動戦士ガンダム。

その第15話、“ククルス・ドアンの島”を劇場版としてリメイクした作品。

監督はアニメでキャラクターデザインを担当した、安彦良和氏。

キャッチコピーは、“ガンダムよ、このザクを倒せるか。”

 

 

この映画の第一報を知ったとき、驚愕した。

今さらククルス・ドアン?!

ガノタだから、ククルス・ドアンの島は知っている。

初代テレビアニメ、いわゆるファーストガンダム。

全43話のなかでも、もっともマイナーともいえるエピソードのひとつ。

 

機動戦士ガンダム 第15話タイトル

 

のちにガンダムブームが到来した際、

アニメを再編集した映画、“機動戦士ガンダム“,哀戦士編”,“めぐりあい宇宙編”と、

劇場版三部作が公開されたが、もちろんククルス・ドアンの島のエピソードは丸ごとカット。

ゲームなどで、ククルス・ドアンやその乗機のザクは ちらっと登場したこともあるようだが、

その物語の内容自体までは、アニメ版を全て観たことのある、本物のガノタにしか認知されていない、

実にマイナーなエピソードだ。

 

オリジナルアニメのククルス・ドアンの島はアジア圏の架空の島。

長崎の五島列島の一部だとか、そういう噂もあった。

 

それを40年以上もの時を経た今、劇場版としてリメイク。

サンライズ・・・トチ狂ったか!?

ガンダムのアニメ化もついにネタ切れか!!

“ガンダム”の名を冠してさえいれば、なんでもヒットする。

映画化すりゃ、リメイクすりゃ、なんでも儲けるなんて、

ディズニーのスター・ウォーズ作品みたく、

そんなふうに安易に思ってるんじゃなかろうな!?

第一報を知ったとき、自分が抱いた複雑な思いはこんなだった。

 

柄パン&ランニングシャツはアムロの代名詞。

 

とはいえ、ククルス・ドアンの島、

その見事な脚本で、マイナーながらも根強いファンが居るのも事実。

ストーリー自体はガンダムの本編と絡むことのない、細やかなエピソードに過ぎない。

戦災孤児を守りながら孤島で生活する、ジオン軍の青年脱走兵の物語。

脱走兵がゆえに友軍の追跡に遭い、敵軍である連邦軍の偵察部隊にも遭遇する。

その都度、子どもたちを守らんが為に丸腰のザクで奮闘する青年兵、ククルス・ドアン。

敵味方でありながら、そんなドアンと戦ったのちに解り合う、

ガンダムのパイロット、主人公、アムロの成長の物語でもあった。 

 

オリジナルアニメのククルス・ドアン。

これで19歳!

ブライトさん19歳も大概だが、ドアンもなかなか・・・。

 

そしてもうひとつ、ククルス・ドアンの島にコアなファンが居る理由。

アニメ史においても伝説となって語り継がれてる、著しい作画崩壊。

当時のアニメ制作現場の環境が劣悪だったのか?

現場での作画スタッフへの伝達ミスか?

ヒラメ顔なガンダム、スリムで鼻下が異様に長いザク。

 

ドアンザクの初登場シーン。

やけにスリムな体型にぎょっとする。

 

戦闘では大岩を持ち上げて投げつけ、ミサイルを迎撃してみたり、

ストⅡのM.バイソンよろしく、ダッシュストレート一発で友軍のザクを撃破するドアンのザク、

ガンダムに向けて石ころやたいまつを投擲してくる戦災孤児たち。

ゆうに十数メートルは飛んでいるような、

メジャーリーガーのピッチャー並みの強肩っぷりを披露する幼い子供たち。

作画崩壊とともに、そんなトンデモ描写も印象的な回でもあり、

そっちの理由でコアなファンも存在する、ガンダム屈指のエピソードでもある。

 

大岩で攻撃するのはドアンの代名詞。

劇場版のドアンザクは単にマシンガン等の火器を失い、ヒートホークだけで戦っていたが、

オリジナルアニメ版のドアンザクは、別の理由であえて丸腰で戦っていた。

 

M.バイソンのダッシュストレート!

ザクが同一スケールでないところもポイント。

 

そして公開前に特報映像を観た。

これは・・・実はすごい作品になっているんじゃなかろうか・・・。

テレビアニメのたった一話のエピソードを100分を超える尺の劇場アニメ化。

それを現代の作画技術でリメイクされてるとなりゃ、ガノタが興味を抱かないわけがない。

初代ガンダムの大まかなストーリーは、ガノタなら既にみんな知っている。

本編ではないがしろにされてしまった些細なエピソード。

よくよく考えれば、そんなエピソードを掘り起こした方が面白いに決まっている。

 

このガンダムの顔よ。

マンドリルか!

 

リュウさん・・・。

 

期待して観に行くことに決めた。

だが、後から知って不安になった点もひとつあった。

劇場版ククルス・ドアンの島は、オリジナルのテレビアニメ版ではなく、

キャラクターデザインを担当した、安彦良和氏が手がけた、

新解釈で初代ガンダムを焼き直した作品、THE ORIGN(ジ・オリジン)版であるということ。

それに伴い、キャラクターの設定やモビルスーツの設定、

ストーリー進行の時系列などがオリジナルと相違するということ。

 

驚異的な肩を持つ孤児たち。

 

戦いを通じて、ドアンや孤児たちと解り合うアムロ。

ここまでテレビアニメ機動戦士ガンダムの画像

 

自分は発表初期から安彦版のガンダム、ジ・オリジンが好きになれず、

漫画もアニメも、オリジンバージョンのガンプラやフィギュアなどにも一切触れていない。

安彦氏の描くイラストは好きではあるが、

オリジナルと乖離した、安彦氏独自解釈の設定や追加エピソードなどが、

どうしても受け容れられなかったのだ。

なので、今回の映画、ククルス・ドアンの島も不安を抱いての鑑賞となった。

 

 

ここから劇場版ククルス・ドアンの島の画像

 

宇宙世紀0079(U.C.0079)。

地球連邦政府に独立戦争を挑んだサイド3のジオン公国軍。

地球圏の各地で両軍の激戦が繰り広げられていた。

 

南米のジャブロー攻防戦を終えたホワイトベース。

連邦上層の命令で、次なる作戦参加のため大西洋上を進む。

ジオン軍の地球攻撃軍本拠地、オデッサ基地攻略作戦だ。

補給のためにベルファストへと進路を向けるが、

その途中、新たな命令が下される。

“帰らずの島”と呼ばれる、小さな島での残敵掃討任務だ。 

 

 

大西洋上に連なる島々、カナリヤ諸島。

その最北端に位置する小さな無人島、アレグランサ島。

そこへ調査へ行った連邦軍の小隊が全滅してしまう事件が発生。

ジオンの残地謀者(ざんちちょうしゃ)が潜んでいると睨む連邦上層部。

これまで幾多の激戦をくぐり抜けてきたホワイトベース隊に、

その調査命令が下ったのだった。

 

 

アムロはガンダムでアレグランサ島へと降り立つ。

無人島を偵察していると、ジオンのモビルスーツ、ザクの足跡を発見する。

その足跡を追っていくと、背後から不意に襲われる。

島の崖っぷちでザクとの戦いが始まるも、アムロは崖下へと落とされ、

コクピット内で気を失ってしまう。

 

 

気が付くとベッドのうえ。

外にはたくさんの子どもたち。

「へいたいは かえれ!」

アムロへ向かって罵声を浴びせる幼い子供たち。

自分を助けてくれたのは、あの襲ってきたザクのパイロット。

ジオンの脱走兵、ククルス・ドアン。

 

 

子どもたちはみんな戦災孤児。

ドアンを慕い、みんなで自給自足の共同生活を送っている。

ジオンの脱走兵と戦災孤児たち。

奇妙な共同生活を目の当たりにしつつ、アムロはガンダム捜索へ向かう。

それを止めないドアン。

それどころか、住ませてもらい食事もベッドも用意して手助けしてくれる。

 

 

ホワイトベースへは、速やかにベルファストへ向かうよう連邦上層から指示が来る。

だが、行方不明となっているアムロを見捨てるわけにはいかず、

軍機違反を覚悟して、スレッガー中尉以下、カイやハヤト,セイラなど、

仲間たちが再び、アレグランサ島へアムロ捜索へと向かう。

ホワイトベース艦長のブライト・ノアも、機転を利かせて上層部の命令に背く。

 

 

同時に、ジオン側も行動を起こしていた。

オデッサ鉱山基地司令、マ・クベ。

迫りくる連邦軍を退けようと、南極条約を無視した作戦を決行する。

だが、その重要地点であるアレグランサ島での準備が滞っている。

その任務遂行のため、アフリカ戦線で活躍した精鋭部隊が送り込まれる。

それは、かつてドアンが隊長として所属していた、サザンクロス隊だった。

 

 

ドアンは子どもたちを守りつつも、ひとり夜遅くまで“仕事”に耽っていた。

彼の行き先は、海岸の地下にある秘密の基地だった・・・。

そして、彼が操作するモニタには、巨大な核弾頭が映し出されているのだった。

 

面白かった!

これは、ガンダムが好きな甥っ子たちにも観せたい。

ガンダムには珍しく、子どもが観ても解りやすくて楽しめる作品だった。

すぐにでもDVDが欲しいくらい。

リピート鑑賞もいいけれど、そこはガンダム映画。

サンライズの設定した強気な“特別料金”で、

割引も何も適用されないので、リピートは難しい・・・。

 

 

本当のことを言うと、開始数分で観たくなくなっていた。

おそらく地上波放送とかだったら、テレビを消してしまっていた。

やっぱりキャラクター改変が受け入れがたかった。

しょっぱなからブライトさんのコメディな言動とアクション。

こんなの俺の知ってるブライトさんじゃねえ!

オリジン版のキャラの性格って、こうも改変されてしまっているものなのか? 

それに耐えて観続けて良かった。

 

 

あと時系列がめちゃくちゃ。

ジャブロー前なのに既にスレッガーさんが居る。

いや、オリジンだと、アニメとは逆で、ジャブロー攻防戦→オデッサ作戦なので、

スレッガーさんが居るので合ってるのだろう。

逆にアニメ版には居たリュウさんが、オリジンでは既に戦死しているので不在だった。

 

 

モビルスーツの描写もちょっと抵抗あった。

しょっぱな描かれる、ジムの小隊とドアンザクの戦い。

まだこの時点でジムは量産化されていない、ロールアウトされていないはずなのに、

肩にミサイルポッドとかキャノン砲とか、オプション兵装したジムがバリバリ戦う。

だから・・・オリジンはジャブローが先だから、これで合っているのだ。

そんなこというと、第08MS小隊の方がおかしいな。

 

 

ドアンがもともと所属していたという、“褐色のサザンクロス”こと、サザンクロス隊。

ドアンは、あの赤い彗星のシャアと並ぶほど称される凄腕パイロットだったという。

そんな彼の部下たちも精鋭揃い。

カスタマイズされた高機動型ザクで連邦軍のモビルスーツ部隊を圧倒する。

紅一点のセルマーさんが美しかった・・・たぶんドアンの元カノだったんだろうな。

 

 

フラウがオリジナル以上にアムロ好き。

それを見て妬っかむハヤト。

ブライトの前で仲の良いミライさんとスレッガーさん。

超美形だったのに、なんだかフツーになったジョブ・ジョン。

顔がしっかり描かれ過ぎていて、誰なのか判らなかったマーカー。

原作とは真逆の性格になっていたブライトとウラガン。

レビルよりもゴップの方が階級が上。

逃げ惑う生身の兵士を躊躇なくガンダムで踏みつぶすアムロ。

原作と異なる様々な部分で、ひとつひとつ咀嚼していくのが大変だった。

逆に先入観なければ楽しめたのだろうが、オリジンを知らない なまじガノタだと苦労した。

  

 

声優さんが凄い。

40年以上も前のアニメ。

オリジナルで吹き替えを担当した方のなかには、

既に他界している方も複数居て、多くのキャラの声の代替わりは仕方がない。

だが、往年のファンが聴いても、違和感なくそのキャラのセリフだと受け容れられた。

そんななか、15歳のアムロの声を遜色なく演じられる古谷徹さん、

17歳のカイの声を演じられる、古川登志夫さんは凄いなあと感心した。

 

アムロの声優古谷徹さん。

間もなく69歳だぜ?

うちの母ちゃんよりも歳上だぜ?

 

設定変更には眉をひそめることも多少あったものの、

ストーリー自体は素晴らしかった。

あの独立した小さなエピソードを、よくも本編に絡めて大きく描いてくれた。

とはいえ、ドアンと子どもたち、そしてアムロの心温まるエピソードは、

それはそれでしっかりと肉付けされて、オリジナルを踏襲して描かれていた。

 

来場記念でもらえたA5サイズの大型ポストカード。

孤児のドラちゃんとイネスちゃん。

ケーキをつまみ食い?しようとしているドラちゃんを制するイネスちゃんの図かな?

20人の孤児には全て名前が付けられ、しっかり性格・個性も描かれていた。

 

孤児たちがオリジナルで4人だったのに対し、20人にも膨れ上がってて、

こりゃドアンもひとりで全員を養うのは大変だったろうなと。

自給自足だけじゃ絶対無理なんで、やっぱ秘密のあそこに色々と隠していたのかも。

残念だったのは、オリジナルで印象的だった最年長の少女、ロランちゃん。

それが劇場版では、カーラちゃんという新キャラに変えられていたこと。

性格やアムロへの接し方などは一緒で、カーラちゃんも可愛かったけれど、

ロランちゃんファンは悲しかったろう。

 

オリジナルで登場した最年長の孤児の少女、ロランちゃん。

しっかり者で孤児たちの母親的存在なのと、

ドアンに想いを寄せている雰囲気なのは、劇場版のカーラちゃんも共通している。

容姿と名前が変わっただけで同一キャラとみていい。

 

こっちが劇場版でのロランちゃんポジション、カーラちゃん(右から二人目)。

 

設定がオリジン準拠で戸惑ったし、一部受け入れにくい部分もあったけれど、

やっぱわしはガンダムが好きなんだなあと、再認識させてくれた作品だった。

ガンプラでサザンクロス隊のザクが販売されたら買いそろえてコンプしそう。

その前にドアン専用ザク予約しようかな・・・。

プレミアムバンダイに出てんだけど・・・2,200円ブラス送料。

どうせまた積んでしまうだろうからスルーすべきか。

 

ガンダム(ククルス・ドアンの島Ver.)とドアン専用ザクは早くもキット化されている。

HGUCではなく、ただのHGなのは、オリジン準拠の機体だからか。

 

この映画、ちょうど公開時期が絶妙だった。

2月末、世界を震撼させる戦争が起こった。

今なお続く、ロシアのウクライナ侵攻。

多くの民間人が犠牲になり、幼い子どもたちも犠牲となっている。

それがこの映画のシーンと重なる。

 

前にも記事にしたが、奇しくもガンダムの劇中にオデッサが登場する。

そして、この映画でもまさにそのオデッサが舞台のひとつとなる。

ジオン兵のドアンを例えるならば、ウクライナを侵攻するロシアの一兵卒。

自身の流れ弾によって親を殺してしまい、その亡骸の脇で泣き叫ぶ子供たち。

その光景を目の当たりにして、ドアンはジオンも部下も捨てて戦場から逃亡する。

孤島へと身を潜め、自分が親を殺めてしまい孤児にしてしまった子供たちを守る。

 

 

現実の戦争ではありえないドラマだろうが、

ロシア兵のなかにひとりでも、ドアンのような心を持った者が居て欲しい。

実際、開戦当初、戦争に異を唱えてウクライナに投降した若いロシア兵たちも居た。

 

劇中、ジオンを指揮していたマ・クベのセリフがある。

「パリは燃えているか?」

太平洋戦争末期、ナチスドイツのヒットラーの有名なセリフだ。

マ・クベはそれを引用する。

結果がヒットラーのときと同じであると判って。

 

連合国軍の反撃で劣勢になったナチスドイツ軍、

一度は占領したフランスの首都パリ。

そこから撤退する際、ヒットラーは命令する。

「敵に渡すくらいならパリを焼き払って廃墟にせよ。」

だが司令官は戦争犯罪者になることを嫌い、この命令に背く。

 

心ある将校がヒットラーの命令に背いたように、

ドアンがマ・クベの目論みを阻止したように、

ロシア軍のなかでもそのようなことが起こって欲しい。

そういった意味で、まさにタイムリーな映画だった。

アニメと現実の戦争を一緒にするな!と、多くの人からは非難されるだろうが、

いちガノタとして、富野作品とは、ガンダムとは

こういう物語なんだということを、あらためて主張したい。

 

 

それぞれのシーンをオリジナルと比較するのも面白い。

これも盛大な作画崩壊っぷり。

 

※残地謀者(ざんちちょうしゃ)

軍が撤退した場所で特殊任務を遂行するために、あえて残された兵士のこと。

民間人になりすまし、諜報活動やスパイ活動,破壊活動,情報攪乱など目的は様々。

旧日本軍にも、東南アジアを中心に そういった兵が多数配置されていたといわれている。

 



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