先日の休みに映画を観てきた。
松たか子,黒木華 主演、山田洋二 監督作品、“小さいおうち”。
原作は直木賞を受賞した、中島京子氏の同タイトルの小説。
キャッチコピーは、『あの小さな家に閉じ込めた、私の秘密』。
去年の秋頃から、劇場の予告編を観て気になっていた作品。
松たか子 演じる夫人と黒木華 演じる女中のやり取りのワンシーンが流れる。
劇中終盤の最も印象的なシーンを、そっくりそのまま予告編に流すという大胆な手法。
もちろん原作を知らないので、そのシーンのやり取りは意味不明。
だが、だからこそ俄然、気になってしまう。
・・・と、予告編に吊られて(大抵そうだが)観に行った。
ひとり寂しく他界したタキばあちゃん(倍賞千恵子)。
遺品整理をしていると、「健史にやってください。」と書かれた缶の容器が見つかる。
古い写真や手紙などと共に、タキばあちゃんが一生懸命思い出しながら、
自叙伝をしたためた大学ノートが数冊入っていた。
大学生の健史(妻夫木聡)は、独り暮らしをしている、
大叔母のタキばあちゃんのところへ、ちょくちょく世話に来ていた。
タキばあちゃんは、十代の頃に山形から女中として奉公するため上京し、
戦争を経験し、結婚することもなく長く独り暮らしてきた。
健史は、そんなタキばあちゃんが大学ノートにしたためる、自叙伝を読むのが楽しみだった。
タキばあちゃんも、実の孫のような健史が来るのが楽しみで、
暇を見つけては、次来るまでにもっと書き進めよう・・と鉛筆を走らせていた。
――昭和十年。
雪深い山形から、少女タキ(黒木華)が女中奉公するため上京する。
東京の著名な作家さんの家で奉公していたが、途中から別の家へ移る。
小高い丘の住宅地に建つ、赤い屋根がひときわ目立つ小さいおうち。
当時の中流階級だった平井一家の元での女中生活が始まる。
主人の雅樹(片岡孝太郎)と、
夫人の時子(松たか子)はタキにとても良心的に接してくれ、
平井家のひとり息子の恭一(秋山聡)もタキにとてもなついてくれた。
タキは平井家での奉公に幸せを感じていた。
大手玩具会社で重役をしている主人の雅樹、
ある年の正月、会社の社長(ラサール石井)はじめ、
会社の重役達が平井宅に集まって正月の宴が催されていた。
接客に追われる時子とタキ。
そこへ一人の青年がやってくる。
雅樹の会社で新しく雇われた若きデザイナー、板倉(吉岡秀隆)だった。
重役達が酒を呑みながら、戦争や経済・政治の話や下ネタ話で盛り上がるなか、
その会話の輪に入れない板倉は、モダンなデザインの平井邸を見学する。
そこで、時子や恭一、タキと親しくなる。
それから幾度となく平井邸を訪ねてくるようになった板倉。
恭一とは、おもちゃや絵本で話が合い、
タキとは同じ東北出身だということで話が合い、
とりわけ音楽や映画など共通の趣味の話で、時子と会話が弾んだ。
いつも帰宅が遅く、出張などで家を空けることもある雅樹。
時子と板倉はどんどん親密になってゆく。
ふたりの関係を知ってしまったタキ。
自分の想いを圧し殺し、葛藤して泣くタキ。
戦争でどんどん世間が荒んでいく時代。
やがて中流階級とはいえ、配給でしか食糧も生活用品も調達できなくなり、
家庭から金属製品が徴収されてゆき、
雅樹の勤める玩具会社は苦境に立たされ、
板倉の元に召集令状が届く――。
小さな家で起きた恋愛事件。
その結末は・・・。
すごく良かった。
なんかサスペンスとかミステリーみたいなことを言われていたが、そんな感じではなく、
タキが恋愛事件を60年も抱え込んでいて、それを自叙伝で激白するというような格好だけど、
昭和初期の最も悲哀漂う戦中の時代、
どんなに不安な時代であっても、つつましくもたくましく生きていった、
そんな庶民の私生活を、ひとつの恋愛事件を柱にして女中目線で、
色鮮やかに再現したホームドラマのような映画だった。
なによりも、見るからに薄倖そうな、タキちゃんが可愛くていじらしくてしょうがない。
泣くシーンが多々あるのだが、その都度もらい泣きしてしまう。
あ、バアちゃんじゃなくて少女時代のタキちゃんね。
倍賞千恵子さんのタキばあちゃんもかわいかったけれど。
若い頃のタキを演じていたのは、女優の黒木華(はる)。
アニメ映画、おおかみこどもの雨と雪で、少女期の雪の声をやっていた方だ。
演技の方は初めて見たけれど、前述したとおり、もうたまらなくいい。
そして彼女はこの映画のこの役で、
今年のベルリン国際映画祭で銀熊賞(女優賞)を受賞した!
そして主演の松たか子。
若い頃はどうしたもんかと思ったけれど、
さすが歌舞伎役者の娘、最近すごく貫禄が出てきたな~。
そんな美人とは思えないのだけど、なぜかすごく艶めかしい。
田舎から出てきた板倉も落ちるわけですよ。
片岡孝太郎・・・また昭和の戦時中の映画に出演。
前回見たのは、終戦のエンペラーでの、昭和天皇役。
今回は仕事に真面目過ぎて、家庭を、特に妻のことが見えていない主人役。
だからといって妻子に愛情がないわけではなく、
この時代の苦境にあえぐ会社の重役として、難しい立場だったに違いない。
現代のバアちゃんになったタキを演じていた、倍賞千恵子さんも良かった。
健史が来ると顔がほころび、「何が食べたいんだい?」と訊き、
得意の料理を食べさせて喜ばせようとする。
だが、健史の女友達が来たりして、「今日はご飯要らないから~!」と言い出ていってしまうと、
とても寂しそうな顔をして、ため息ついて座り込む。
そして、大学ノートに自叙伝をしたためながら、最後に泣きじゃくる。
あのシーンはたまらなかった。
タキちゃんがこれまでずっと何か罪のようなものを背負い独り生きてきたというのが、
倍賞千恵子さんが涙をポタポタこぼし大泣きするワンシーンと、
そのときに発する言葉で自叙伝のなかの物語すべてがめぐる。
もう一回観たいくらいだけど、
3月に入って気になる映画が怒濤のように公開されるので、
DVDが発売されるまでおあずけだな・・・。
映画観た直後に購入した文庫本。
もちろんまだ読まずに積んである。
これがシズル感(っていうのか?)いっぱいの予告編だ!
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