先週の土曜日のこと。
仕事場にあるビニールハウスの一角で、ピョコピョコ動く黒い物体をみつける。
何だろう?
そう思って近づいてみたら、ちっちゃなスズメだった。
巣立ちしたばかりのヒナ鳥みたく、完全に換羽しておらず、
羽のところどころは、まだ綿毛のような羽が残っていて、全体的に丸っこくてかわいらしい。
どうやらまだ飛べないようで、羽ばたいても数十センチ飛び上がるだけ。
羽や体に外傷は見当たらない。
もしかして・・・まだ巣立ちしてなくて、巣から落っこちた?
ピョコピョコ飛び跳ねて逃げ惑う、スズメの子。
外は朝からどしゃぶりの雨。
梅雨入りして三週間ほど、まとまった雨が降らず、やっと降ったかと思えばこの豪雨だ。
ピチュピチュ泣いて逃げ惑うけれど、もし巣から落っこちたのなら、
このままここに置いといても死んでしまうかもしれない・・・。
それに野良ネコが多いし、カラスも多いし、ヘビだって居る。
天敵だらけのこの場所で、放置されちゃ確実に死ぬ・・・。
そう思って、スズメの子を捕まえて連れ帰った。
手で抱くと、ドクンドクン脈打って震えているのが判る。
恐怖におびえているのか、雨に濡れて寒がっているのか?
キッチンペーパーで体を拭いて、飼育容器に入れる。
水やエサを与えようと、ネットで調べる。
子どもの頃、スズメのヒナを保護したとき、自分なりに考えて、
虫を捕まえて与えたり、ごはん粒やパンを水に浸したものを与えたりした。
今はネットがある。
何を与えどう世話をするのが最善かすぐに調べられる。
!
ネットで調べて衝撃の事実を知る。
このスズメ・・・保護してはいけなかった・・・。
スズメの場合、“巣立ち=飛ぶ”ではなく、うまく飛べないうちから親に連れられて巣立つそうで、
親に見守れながら、ピョンピョン跳ねまわり、そのうち飛べるようになるのだという。
羽がほぼ生えそろった状態のこの子を見る限り、巣立ち直前、もしくは巣立ちしたヒナ鳥のようだ。
豪雨で親鳥とはぐれてしまい、仕方なくビニールハウスに避難していたのかもしれない。
親鳥とはぐれてしまったヒナ鳥は、必死に泣いて居場所を知らせる。
親鳥もまた、我が子の鳴き声を聞き分けられるようで、
その呼ぶ声を聞いて、はぐれたヒナ鳥を探し当てるのだという。
確かに、飼育容器に入れてそっとしておくと、
「チュン・・!」「チュン・・!」と、等間隔でずっと泣き続ける。
これこそ、はぐれてしまった親鳥を呼んでいる鳴き声なんじゃなかろうか。
しかし・・・保護してしまったものはしょうがない。
職場は遠いし、これから持って戻って、また同じ場所に放つのもなんだかなあ。
とりあえず今夜と明日、世話をして、明後日また職場へと持って行って、同じ場所で放つか・・・。
餌は、夜だったので、さすがに虫を捕まえには行けず。
黒砂糖を水で溶いたものに熱帯魚用の餌を混ぜて与えてみた。
ピンセットにつまんで与えてみたら、ちょこちょこついばんでくれた。
弱っている感じもないし、餌も食べてくれたし、今夜は大丈夫だろう。
そう思い、部屋を暗くしたら、いつしか丸まって眠った。
眠ってる姿も、それはそれは可愛らしいものだった。
翌朝、日曜日。
「チュン・・!」「チュン・・!」
あの親鳥を呼んでいるであろう鳴き声が、外から聞こえてくる。
「朝からずっと泣きよったき、外に出してやったばい。」
洗濯物を干しながら、お母んが言う。
体内時計がしっかりしている野鳥、朝が来るとともに起きて、また泣き始めたようだ。
バタタタタタ・・・カタカタッ!
ときおり羽ばたいて、飼育容器にぶつかる音がする。
う~ん・・・フタを開けて逃がしてやるべきか・・・。
しかし親鳥居ずして、この子が育つとも思えない。
でも、もしかしたら単独でも、もうちょいで飛べるようになるかもしれない。
そうこうしていたら、ヒナ鳥の鳴き声に呼応して、
少し遠くから、スズメの鳴き声が聞こえてきた。
ヒナ鳥の鳴き声に比べて若干低い、成鳥の声だ。
見ると、はす向かいのお宅の屋根の上に、二羽のスズメ。
ヒナ鳥の鳴き声に返事するかのように鳴いている。
!
あの二羽はつがいかしら?
これはもしかしたら、里親になってくれるやも?
だんだん近寄ってくる二羽のスズメ、とうとううちの敷地に入ってきて、倉庫の上にとまった。
ヒナ鳥が入っている飼育容器とは、もう数メートル。
なかのヒナ鳥も激しく反応して、羽ばたきが激しくなる。
そこで、飼育容器のフタを取り払い、
室外機の上から、より高い、お母んの車の上に乗せてみた。
自分が外に出たことにより、近づいてきていた二羽のスズメは逃げてしまったが、
ヒナ鳥は飼育容器から飛び出して、そのへりに止まって鳴き始めた。
逃げたものの、その鳴き声に反応して、やはり遠くで返事する二羽のスズメ。
しばらく観察していると、ヒナ鳥が車から落っこちた。
雨で濡れていた車のボディ、爪がかけられず、そのままツルっと落っこちた。
しかし、地面で必死に鳴くヒナ鳥。
しばらくすると、二羽のスズメが降り立った。
とうとう三羽が一緒になった!
ふだんかわいいと思うスズメも、丸っこくてモフモフしたヒナ鳥と比較すると、すごくシャープで精悍に見える。
降り立った二羽は、ヒナ鳥を誘い出すかのように先導し、庭の外へと跳ねて行った。
ついて行くわけにもいかず、ここからは三羽の鳴き声だけで居場所を察知する。
庭から隣の空き地へ向かったのは確認できた。
そして、どんどん鳴き声は小さくなっていき、
およそ一時間後、すっかり三羽の鳴き声は聞こえなくなった。
あるいは、今あちこちから聞こえている、
多くの鳥のさえずりのなかに紛れてしまったのかもしれない。
今回の場合、保護しないで、そのままにしておくか、
巣をみつけて、そこへ戻してあげるのがベターらしい。
野鳥の保護というのは安易にやるべきではないというのを知った。
巣から落っこちて、そこで一生を終えてしまうのもまた、自然の摂理なのだと。
人が保護して育てても、野生で生きてゆく力が備わらず、けっきょく自然淘汰されてしまうのだ。
あの迷子ちゃん、二羽の成鳥に促され、無事飛び立てることができたろうか?
巣立ちしてしばらくは、親鳥に連れられてエサの捕獲なんかも習得し、やがて自立できるようになるらしい。
もし、けっきょく二羽の成鳥に見捨てられて、天敵にやられてしまったとか、餓死してしまったとか、
そういった理由で死んでしまっていたとしたら無念でならない。
無事に餌獲りの特訓でもやっててくれ・・・と願うのだった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます