今朝、外から聞こえる子どもらの声に、あるエピソードを思い出した。
今から30年ほど前のこと。
保育士だった私は、3歳児15人を1人で担任していた。
その日はお散歩で、図書館へ借りている本を返しに行こうとしていた。
排泄をすませ、それぞれのリュックにそれぞれが借りた本を入れ、用意のできた子から靴を履いた。
「行けへん!」登所時から機嫌の悪かったT。
この子が機嫌を損ねると、他の14人が振り回されることは多々あった。
言い分を聞くが、家での朝の出来事を引きずっているので、保育士だけでは対応のしようがない。
「お母ちゃんにゆーとくから」ぐらいでは、首を縦には振らない。
時間だけが過ぎていく。
散歩に出るタイムリミット。
Tを置いていくことに決めた。
詳細は省くが、ここを譲るとこれからずっと散歩に行けなくなる…と踏んだからだ。
Tにその旨伝えて、一緒に散歩に行く筈だった主任保育士にTを委ねた。
Tも主任保育士も了解してくれた。
30年前だからできたことだろう…
散歩に来ている子どもらを眺めながら懐かしく思った。
今の時代なら、Tの保育を放棄したと言われかねない。
…で、散歩から帰ったらTが寄ってきた。
そして決まり悪そうに小さな声で「ごめん」と言った。
それからだ。
Tは素直に甘えてくるようになった。
待てるようにもなった。
描く絵が変わり、お話を語ってくれるようになった。
置いて行った2時間ほどの間に、何があったのかは分からない。
けれど、そうしたことで、Tとの信頼関係が深まったことは間違いないだろう。
大学を出て、地域の青年団で子どもらの面倒を見ている…と耳にしたのは、かれこれ10年ほど前。
きっと、いい大人になっているんだろう。
昔受けた講座で、講師の秋葉英則先生が仰った。
「子どもは本気で向き合ってくれる大人を見逃さない。
誤魔化しは効かない。」と。
私の子育てを支えた言葉の1つ。
大人以上に、子どもって本物。