読んだ本、ある小説の感想を書くー。
今回は今邑彩著「ルームメイト」(中公文庫)を読んだ。
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ルームメイト (中公文庫) |
今邑 彩 | |
中央公論新社 |
多重人格をテーマとした小説。小説そのものは20年以上前、1997年に公開された。
同じ題名で2013年に、深田恭子さんと北川景子さん主演で映画化もされたから映像作品として知っている方も多いかもだね。ちなみに小説の内容な映画とは大幅に異なるみたい。
読んでいるときは読みやすい文章なのでストレスなく楽しく読めたけれど、読後感としてはちょっともやもやしてしまったよ。
あたしの個人的な価値観に立脚した感想なのだけれど、テーマである多重人格の取扱いがちょっと気になった。
もちろん小説が出版された当時はこの温度感でよかったんだろうけれど、今の時代に照らし合わせると少し(あたしの個人的な価値観においては)適切じゃない気がしてしまった。
多重人格をテーマにした小説としては、古くはロバート・ルイス・スティーヴンソンの「ジキル博士とハイド氏」から始まり、今でもいくつか出ているとおもわれる。
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新訳 ジキル博士とハイド氏 (角川文庫) |
田内 志文 | |
KADOKAWA |
「ジキル博士とハイド氏」の頃は誰もが物語として楽しんでいた多重人格だったかもしれないけれど、次第に診断例が報告されるようになり、今では多重人格という概念を受け入れている人は増えてきている気がしている。その取扱いはここ20年でも大きく変わっただろうね。
解離性人格障害という名称のほうが有名になってきている気がしている。
その人物が解離性人格障害かどうかが話題になるのは、物語のなかだとたいてい殺人事件。この「ルームメイト」でも殺人事件が発生する。
犯罪を犯したときに本人に責任能力があるかどうかにかかわるから大きく注目されることではあるけれど、実際の解離性人格障害はもっと身近に存在しているものだとおもっている。
だから「ルームメイト」を読んだとき、読んだ本人や周りがもしかしたら、自分は(家族は)多重人格なのかなと理解が進む助けになればいいけれど、今読むとなんというか偏見を助長するもののような気がした(言葉は時代がつくるものだから当時はそれでよかったんだとおもうよ)。
こうやって偏見偏見という、あたしが一番偏見を持っているのかもしれないけれど、多重人格に限らず、こういうものって多いよね。
あたしたちの日常では、まだ解離性人格障害が実際に存在するかどうか疑問視する声もある。どうなんだろうね。だたいえるのは時代とともに解明されてくるものもある。アダルトチルドレンしかり、発達障害しかり。この二つはだいぶ皆が ある と考えるようになった気がしている。
とても上から目線の感想で失礼いたします。
だから文章そのものは読みやすいし、多重人格が当時こういう温度だったんだなという、サブカルを学ぶための歴史書として、この小説はいいんじゃないかなとおもった。
映画は実際には視聴していないのだけれど、あたしが今回拝読した小説とは大幅に内容が異なるみたいで、そしてそれでよかったなとおもったよ。
ではまた
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