「なぜ貧しい国はなくならないのか」 第4回 2015年10月2日 園田 淳
なぜ貧困を撲滅できないのか(2)
これまで学んだこと
・途上国の貧困は世界全体では減少傾向にあるが、南アジアやアフリカの貧困は依然として深刻で、特にサハラ以南のアフリカでは解決の糸口すらつかめていない。
・都市よりも農村の方が深刻である。
・貧困の解決には5つの蓄積(人的・物的・社会関係・インフラ・知的)が不可欠である。
援助が足らないのか?
国民総所得(GNI)の0.7%をODA(政府開発援助)として拠出するという目標は、1970年以来、OECD加盟国(先進国)の間で何度も繰り返し確認されてきた。しかしながら表にあるように、中心メンバーの平均の比率は1990-1991年で0.33%、2010年―2011年も0.32%とほとんど変化していない。
ノルウェーの比率OECD加盟国の中でずば抜けて高く、1%を超えている。しかしながら日本は0.19%ときわめて低い。総額で見ても日本だけがODAを減額している。異常な状態。
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1990-1991年 |
2010-2011年 |
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|
ODA総額 |
GNI比率 |
ODA総額 |
GNI比率 |
日本 |
14,030 |
0.32 |
10,530 |
0.19 |
アメリカ |
17,118 |
0.20 |
30,308 |
0.21 |
イギリス |
4,123 |
0.30 |
13,046 |
0.57 |
フランス |
11,056 |
0.61 |
12,556 |
0.48 |
ノルウェー |
2,512 |
1.15 |
4,388 |
1.05 |
OECD中心メンバー |
84,700 |
0.33 |
126,995 |
0.32 |
主要先進国のODA拠出総額(百万米ドル)並びにGNIに対する比率(%) 出所:OECD
はたしてODAは途上国が様々な蓄積を急速に増大させるのに十分な額なのだろうか?
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1990年 |
2010年 |
|||||
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ODA総額 |
対GNI比率 |
FDI総額 |
ODA総額 |
対GNI比率 |
FDI総額 |
|
バングラ |
3,224 |
6.80 |
324 |
1,415 |
1.29 |
91,883 |
|
パキスタン |
1,716 |
2.07 |
24,549 |
3,013 |
1.64 |
202,214 |
|
インド |
2,151 |
0.43 |
23,663 |
2,806 |
0.17 |
2,550,909 |
|
ネパール |
643 |
11.62 |
594 |
818 |
5.09 |
8,777 |
|
エチオピア |
1,545 |
8.40 |
0 |
3,525 |
11.91 |
28,823 |
|
ナイジェリア |
383 |
1.00 |
58,923 |
2,062 |
0.99 |
606,470 |
|
ケニア |
1,792 |
14.39 |
5,707 |
1,629 |
5.08 |
17,803 |
|
ペルー |
607 |
1.56 |
4,101 |
-256 |
-0.18 |
853,333 |
|
主要な途上国のODA受取額(百万米ドル)・FDI(海外直接投資・百万米ドル) 出所:世銀
1990年、途上国のODA受取額のGNI比率は高くても14%程度となっている。2010年は減っている国が多く、この程度のODAでは経済発展は望めない。
ODAとともに経済発展には欠かせない民間企業の直接投資・FDIも最貧国のネパール、エチオピアといった国ではなかなか増えてきていない。
ナイジェリアのような資源のある国にはほっておいても投資が見込めるが、そうでない国ではインフラや人的資源が蓄積されていないと、FDIが増えてこない。
市場原理には、まかせておけないインフラや教育の質をODAにより高めていき、ある程度の水準に達したところでFDIを呼び込むという順序が必要である。
しかしながらODAが不足している。→ ユニセフのような活動が必要となっている。
効果的な開発戦略がわかっていない
途上国を発展させるためには、限られた資源を有効に投資し、経済にとって有用な5つの蓄積をしていかなければならない。投資すべきは「市場が失敗」している分野である。すでに社会的に正常に取引が行なわれている分野に、政府や国際機関が介入しても大きな成果は上がらない。
途上国経済の発展を効果的に支援するためには、どこの何をどのような順序で投資することが有効なのかを設計できていなければならないが、実はほとんどできていなというのが現状である。
※ 農業
適応技術の開発→不十分・国別技術普及のシステム→ない・農民への教育→不足
インフラ→未整備・市場が機能していない・農民の資金不足・資金供給が滞っている
※ 工業
とくにアフリカでは失敗している。各国が工業化に関心を持っている。
インフラ未整備・教育不十分・技術水準が低い・有望な企業家が不足
資金の貸付が足らない・どこから手をつけたらいいか誰も分っていない
※ サービス業
支援がなくてもサービス業が発展している国があるが、手放しでは喜べない。
教育水準の高い人々だけがサービス業に就ける。国内での経済格差が大きくなり、固定化される懸念がある。同時に教育水準が低くても働けるような職場も提供できるようにしなければならない
先進国から途上国への援助は、金額的には途上国のGDPに対して大きいものではなく、不十分である。
それだけでは途上国の発展にとって重要な蓄積を大幅に増やすことはできない。しかし援助が市場が機能しない分野や市場が失敗している分野に効果的に配分されれば、経済発展の助けにはなりえる。
ところが、どこに投資をすればよいのかがよくわかっていない。国によってそれぞれ違うはずだが、その国の効果的な開発戦略が十分に立てられていない。だからこそ、アフリカ各国は経済発展に失敗しているのであり、南アジアも東アジアに大きく遅れをとっている。開発経済学はまだまだ未発達の学問であり、まだまだ調査・研究が必要である。
(完)
このあと「なぜ貧しい国はなくならないのか」では第2部「何が起こっているのか」第3部「してはいけないこと、しなくてはいけないこと」へと続きます。どうぞ書籍をご覧になってください。
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