社会思想社・現代教養文庫、イアン・リビングストン著のゲームブック、「トカゲ王の島」をプレイ開始。ファイティングファンタジーシリーズは、これで「盗賊都市」、「死のワナの地下迷宮」、「トカゲ王の島」とリビングストンの作品が3つ並びます。その中では「トカゲ王の島」は割と地味な方だと思いますが、それだけにゲームとしてはまとまっているのではないかと期待しています。
これ以降、「トカゲ王の島」のネタばれを含んでいます。ご注意ください。
火山島に住む恐ろしいトカゲ男たちの軍団に連れ去られたオイスターベイの若者たち。奴隷にされた彼らは飢えと死の恐怖にさらされている。彼らを支配するのは黒魔術とブードゥー魔術を駆使する危険なトカゲ王だ。苦しんでいる囚人たちを救い出せるのは君だけだ。だが、君にはこの危険に満ちた使命に挑戦する勇気があるか!
「トカゲ王の島」裏表紙より
あたし、レイン・デシンセイ。19歳のか弱い女の子、兼、凄腕の剣士をやってます。
ファングの村で開催された『迷宮探検競技』。それをクリアしたあたしは、次の冒険を求めて再び旅を再開したところなのだ。
ファングを出てずっと南へと進んでいたあたしは、ふと、以前知り合った冒険者仲間のマンゴのことを思い出した。彼はこの近くのオイスターベイに住んでいたはずだ。道なき道を歩き通しだったこともあり、休息がてらに旧交を温めようかという気になった。
よし、それじゃあ、次の目的地はオイスターベイにしようかな。
それから2日。あたしはオイスターベイを見下ろすがけの上までたどり着いた。そこから見下ろす風景は、依然訪れたときと同様に、平和で穏やかだ。暖かい朝の日差しとあいまって、あたしは柄にもなくのんびりとした気分に浸ることが出来た。
しかしそんなのんきな気分も、オイスターベイに近づくに連れて消えていった。村へと向かうあたしが最初に出会ったのは、泣きはらしている女性の一団だった。その様子からは、何かただ事ではない事態が起きていることをうかがわせた。
あたしがそのご婦人方の一団に話を聞こうと近づくと、突然武装した集団があたしの前に現れた。あたしも咄嗟に飛び退り、剣に手をかける。
しかし、その武装集団の中に見知った顔を見つけて、あたしは緊張を解いた。その集団を率いていたのは、旧友のマンゴだった。マンゴもあたしに気がつくと表情を崩し、再開を喜んでくれた。
早速マンゴはあたしを食事に誘ってくれた。もちろんあたしの腹の虫もさっきからピィピィ鳴いているので、喜んでご相伴に預かる。
近くにあった居酒屋に入ると、マンゴは幾つかの料理とビールを注文する。しかし再開を祝す楽しい会食も束の間、その席でマンゴの口から語られたのは、このオイスターベイを脅かしている悲しい出来事の数々だったのだ。
オイスターベイに大した産業はなく、多くの人は漁によって細々と生計を立てている。村は貧しく、人々は質素な暮らしを営んでいるが、そのことは逆に外敵から狙われにくいという利点にもなっていた。
しかしそんな村にも容赦なく魔の手は忍び寄ってくる。火山島に住むトカゲ男だ。
トカゲ男は村の男達が漁に出ているときを見計らって、貧しい村の唯一の財産とも言える若者をさらっていってしまったのだ。さらわれた人たちは島で奴隷にされているのだろうとマンゴは言う。まあ、おそらくはそんなところだろう。そこで次に漁に出たときには何人かの男達を護衛として村に残していったのだが、トカゲ男達の力は強大で、またもあえなく若者をさらわれたのだという。それが今朝のことだった。
「これから一人で火山島に向けて船を出すところだ」
マンゴはそう言うと、にっと笑った。
相変わらずバカ野郎だ。確かにこの村でまともにトカゲ男とやりあえるのは、マンゴしかいないだろう。
でも、誰か忘れちゃいませんか?
あたしはすっと立ち上がり、マンゴに協力して連れ去られた若者達を連れ戻すことを高らかに宣言した。その様子を見て、あたし達を取り囲んでいた村人から、歓声が上がる。
マンゴが握りこぶしをあたしに突き出す。あたしはそれに応え、ごつんごつんと拳をぶつけ合う。
「そうと決まれば作戦会議だ」
あたしは再びどっかと腰を下ろすと、テーブルの上にある柔らかくゆでられたロブスターにかぶりついた。
火山島についてはいろいろと忌まわしい噂がたくさんあるのだが、実際のところがどうなのかを知るものは誰もいない。ただ確実なのは、以前火山島は、囚人を閉じ込めておくために用いられていたということだけだ。
かつてこの辺りを支配していたというオラフ王子はとても善良な人間で、罪人を他国に解き放つことなど考えられずに、罪人という罪人をこの島へと送り込んだ。そしてその罪人を管理するために雇われていたのがトカゲ男達なのだ。
始めはそのシステムも順調に機能していた。しかし時が経つに連れ、徐々に無理が出てくるようになった。島送りとなる罪人の数が増えすぎたのだ。
王子は善良だが、少し考えが浅かった。業を煮やした王子は、この島をまるっきり放棄してしまったのだ。その結果として、給料がもらえなくなったトカゲ男達は暴走を始め、火山島は「王」を名乗る一匹のトカゲ男が支配する恐怖の島と化してしまったのだ。
島にいた囚人達は、囚人よりも更に待遇の悪い、奴隷という身分に落とされた。そして金鉱を掘り当てるために散々こき使われてているのだ。劣悪な環境のために奴隷が次々と死に、労働力が足りなくなったために島の外にまで魔の手を伸ばしてきたのではないかというのが大方の見方だ。
他の噂では、トカゲ王は自らの力を誇示するために、ブードゥー魔術や黒魔術の類を行っているらしい。トカゲ男を増やすために奴隷を用いて人体実験を繰り返しているのだが、成功率はけして高くないため、奇怪な生命体が数多く誕生しているという。そしてその影響は島内の動植物にまで及び、島はまさにモンスターアイランドと化しているそうなのだ。
これらの情報は、どうにか逃げ出してきた何人かの囚人達によってもたらされたものだ。しかしそれも何年か前のことで、ここ数年の島の状況は見当もつかない。
大体の島の情報を入手した。腹も充分に膨らんだ。
あたしは荷物を担ぎ上げると、マンゴと共に岸壁に向かい、小船に乗り込んだ。そして村人達の歓声に背中を押されながら、ロープを解き放ち、あたし達はトカゲどもの待つ、悪魔の島へと船を漕ぎ出したのだ。
(つづく)
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