
「手のひらを太陽に」という歌をご存知の方は多いでしょう。
有名な童謡ですが、歌詞の中に子供には理解しがたい言葉がひとつあります。
それは「血潮」です。
手のひらを太陽にすかしてみると見えるもの・・・?
子供の頃、実際に手のひらを太陽にむけて、「ちしお」というものを探してみたことがありました。
先日、この歌を久しぶりに思い出しました。
腕から血をだらだらと流している患者さんの手当てをしていたときです。
出血の原因は、採血後の止血が不十分だったためでした。
私が出血しているところを指で圧迫しながら、血だら真っ赤に汚れた腕をアルコール綿で拭いてさしあげていると、患者さんに質問されました。
「こういうことって、よくあることなんですか?」
一瞬、質問の意味がよくわかりませんでした。
なんと答えればいいんだろう・・・?
そのときです。
私の頭の中にこの歌が流れたんです。
♪ ぼくらはみんな生きている ♪
♪ 生きているから・・・
押さえなければ、血は止まりませ~ん!
採血後、床にしたたるほど腕から血が流れているというのに、どうしていいかわからず、右往左往してしまう人・・・
めずらしいです。
いえいえ、そう思うのは私が医療者だからなのかもしれません。
ひょっとしたら、世の中にはこういう人、案外めずらしくないのかも・・・
私達のからだには素晴らしい働きがあります。
出血、つまり血管が破れて血液が血管の外に漏れてしまったときには、血小板や凝固因子といった物質が働いて血を固まらせて止血し、破れた血管も修復してくれています。
ちょっとした傷で出血量が少なければ、たとえ手で押さえなくても、正常であれば2~6分間くらいで自然に血は止まります。
けれども、ある程度太い血管に針を刺すような採血や点滴などの際は、必ず指で針を刺したところを強く押さえなければ、血は止まりにくいです。
特に血圧が高かったり、いわゆる血液サラサラ系の薬(抗血小板薬、抗凝固剤の類)を飲んでいたりするとよけいです。
この患者さんも、高血圧や高脂血症でたくさん薬を飲んでいるとのことでしたので、そういう影響もあったのかもしれません。
止血の基本は、血が出ているところに手指をあてて強く圧迫することです。
注射や採血に限らず、ケガなどで出血したら、とにかく血が出ているところを押さえましょう!
ただし、自分以外の人に手当てをするときには、血液に直接触れないように注意しましょう。
血液を介した感染(肝炎ウィルス、HIV、梅毒など)があり得るからです。
これからワクチン接種を受ける方が増えると思います。
新型コロナウィルスワクチンは筋肉注射です。
針も細いですし、他のワクチンとは違って毛細血管が多く、かつ組織がゆるゆるとして柔らかい皮下に注射するわけではないので、蚊に刺された程度の出血しかしません。
もちろん個人差がありますから、場合によっては洋服の袖に血液の染みがついてしまうかもしれないので、注射のあとは軽く押さえて、血が止まっていることを確認するようにしましょうね。
それよりも重要なポイントは、「揉む必要はない」ということです。
注射したら揉む・・・というのが常識だった時代もありましたが、いまは違います。
念のために申し添えますが、採血後は揉むとかえって皮下出血をうながすことになってしまいますから、決して揉んではいけません。
さあ、ワクチン接種会場へ行くときの行進曲はこれで決まりですね!