内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

このブログは、広い視野から内外諸問題を分析し、提言を試みます。
Policy Essayist

真の年金制度改善を望むー「器」より中身

2007-05-18 | Weblog
  実体が見えない新組織「日本年金機構」
         -年金料率・税金の引き上げは必至か―

 政府は、3月13日、社会保険庁を廃止し、2010年1月を目途に新組織「日本年金機構」を新設し、年金業務を引き継ぐなどを骨子とする改革関連法案を閣議決定した。公的年金は、国民の将来不安への最大の要因の一つになっているが、新組織の「日本年金機構」は、職員身分が民間人である非公務員型の公法人となり、年金支給額の決定や年金記録の保管業務を行い、保険料徴収や年金相談などは可能な限り民間委託され、また、悪質滞納者の強制徴収は国税庁に委任するなどが柱となっている。民間委託する業務範囲は、法案成立後に内閣官房に設置される「有識者による第三者機関が決定することになる趣だ。
 しかし、年金特別会計は厚生労働省に移すされることになるらしい。要するに、厚生労働省は、社保庁を解体し、年金制度に関する企画・立案等の他は、「年金特別会計」と「日本年金機構」を監督するという資金と権限を維持し、本来的な年金支給額の決定や年金記録の保管、保険料徴収などまでも外郭組織に外注することになる。
それでは、公法人である「日本年金機構」の人件費を始めとする施設費、管理費や民間委託費などは何処から支弁されるのだろうか。拠出・徴収された年金保険料は「年金特別会計」にプールされ、厚生労働省の所管となるのであるから、「特別会計」から支弁されることになる恐れがある。年金積立金が、管理費・業務費などで支弁され、結局は、年金保険料や消費税等の引き上げという形で国民や企業に負担が転嫁される口実にもなりそうだ。
本来公的年金問題は、少子高齢化の中で、積み立てられた拠出金が各種の大規模施設などに転用され膨大な損失を出し、年金支給への対応が懸念され、年金保険料や消費税の引き上げが検討され始めたことから関心を集めたところである。従って、拠出・徴収された積立金の「価値の保全・増進」と簡素で効率的な組織や適正・公正な業務の確保が最大の問題と言えよう。これ等の面、特に年金積立金の「価値の保全・増進」において、どのような改善がなされるのかが見えてこない。重要なのは、組織の形態や厚生労働省の権限・所掌などよりも、国民・企業に過度の負担を課すことなく、公的年金を将来の亘り安定且つ公正に維持し、国民の将来不安を解消出来るかであり、中味の問題だ。
1. 国が負担すべき「公的年金」の管理・運営費
年金保険料の徴収や年金の支給など、基本的な年金業務に要する人件費や施設費、管理・運営費などは、「公的年金」業務である以上、国が負担すべきであり、社会保険庁に代わる新たな組織が何であれ、拠出・徴収された積立金や運用益から支出されるべきではなかろう。現在の社会保険庁でも、公的年金の運用・管理業務は公務員の人件費を含め国家予算で賄われている。
「日本年金機構」は「公法人」であり、人件費その他の経費は、受益者、即ち年金保険
料で賄われるべきという議論はあり得るが、「公的」年金である限り、それは国家の役割だ。とすると、厚生労働省より、委託費等が出されることになるのか。どうも新組織の位置付けや役割がはっきりしない。
 そもそも、「公法人」とは言え、非公務員型の年金機構が、「年金支給額の決定や年金記録の保管業務」などを行うことになると、可なりの国民の個人情報が、政府ではない「公法人」に集中的に集積されることになり、戸籍や住民票などの基本的な個人情報を管理する地方公共団体との関係や基本的な「個人情報管理」の問題も生じそうだ。本来、公的年金の年金料徴収と支給事務自体は、行政が管理すべきではないのか。
2. 至上命令の年金積立金の「価値の保全・増進」
拠出・徴収された積立金は、年金給付にのみに使用されるべきであり、価値の保全と増進を図るべきであろう。
その運用は、業務経験、専門知識のある民間金融・投資企業(又は、幾つかの企業によるコンソーシアム)に委託する方が効率的だ。行政機関や公法人に資金運用部局などを作り、資金運用を行うことは、これまで社保庁で経験して来た通り、給付目的以外への資金の流用や浪費、非効率な運用等を繰り返す恐れが強いので避けるべきであろう。国家が行うべきことは、万一予想外の経済情勢の変化等で損失が出た場合の政府保証等であろう。
3.制度、組織の簡素化と効率化
少子高齢化時代を迎え、最も懸念されているのが年金積立金不足である。それへの最も
安易な解決方法は、年金料率や消費税等の引き上げであるが、国民や企業・組織の負担を強いる前に行政側が行うべき点は多い。上述した年金積立金の「価値の保全・増進」は、その上で最も重要なことであるが、組織の簡素化や効率化による浪費の防止と節約も重要だ。同時に、特に年金を含む福祉業務については、官業のビジネス化など、行政の都合よりも、利用者、国民の利便性を考慮して制度作りをすることが望まれる。
公的年金は、企業・団体を対象とする厚生年金、公務員を対象とする共済年金と自家営業や主婦等を対象とするものがあるが、これらの年金をどのように統合するかは今後十分に検討するとして、年金相互間の連携を確保すると共に、エンド・ユーザーである利用者がワン・ストップで年金手続きが行えるように制度・組織を簡素化すべきであろう。
 利用者にとっては地区毎の社会保険事務所や市区町村との係わりが出てくるが、社会保険事務所業務を含め、年金、生活保護、介護、医療などの福祉業務は、全て受益者の住居に近い市区町村で行えるような方向で整理、集約することが望ましい。それにより、省庁部局間や中央と地方公共団体との間の権限・所掌を越えて、年金を含む福祉行政を簡素化、効率化することにもなろう。
4. 工夫を要する国民年金、基礎年金
厚生年金と共済年金については、それぞれの企業・団体、組織が徴収等の業務を行って
おり、それをベースとして社会保険庁や共済年金連合会があり、一定の組織化が出来ているので、積立金の価値の保全・増進と浪費の排除を確保すれば、その連携、統合のあり方などはそれ程急ぐ必要はなく、十分に検討の上改善して行けば良さそうだ。
 しかし、自営業や主婦、学生などを対象とする国民年金については、個々人を対象としなくてはないだけに最大の問題であり、年金保険料の徴収方法から検討する必要がある。自営業、個人営業者については、税の申告時に合わせて「国民年金料」の項目を設け、また、固定収入の無い主婦や学生等については、税控除手続き時に「被扶養者国民年金料」の項目を設け、徴収手続きが出来るようにすることが最も効率的のように見える。「公的年金」は、個人、企業・組織と国の3者の拠出で成り立っている以上、一定の所得のある者、及び企業・組織が全て継続して拠出し、受給年齢に達したら漏れなく適正に給付が受けられる体制を築く必要がある。
 その上で、青年に達した全ての国民に社会保証番号を持たせ、保険料の支払い状況や支給状況がチェック出来るようにすることも検討に値する。「国民皆保険」を実現するのであれば、このような制度の導入も検討して行かなくはならないのであろう。
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