社会保障と税の一体改革に欠ける視点 (その2)
野田政権は、社会保障と税の一体改革大綱の素案を12月末に決定する意向であるが、2011年12月12日、関係5閣僚会議で社会保障分野の検討を開始した。これに先立ち厚生労働省は社会保障改革案の中間報告を公表した。
中間報告は、年金、医療・介護、及び子育て分野まで網羅しており、受給資格期限の10年への短縮、低所得層に対し年金加算、国民健康保険料や介護保険料の軽減(給付増要因となる)など、低所得層、パート、主婦などに一定の配慮をしているが、高所得者の年金減額、70-74歳の窓口負担引き上げ、外来患者への1回100円の負担上乗せ(料金収入増要因となる)など、収入を図る一方給付水準を引下げ、利用者に負担を掛ける内容となっている。他方、年金支給開始年齢の引き上げ、デフレ下での年金給付額調整(給付水準引下げ)、厚生年金保険料上限の引き上げなどについては法案提出を先送るとしている。
一方消費税増税を中心とする税制改革については、年末の12月29日、民主党税調と一体改革調査会の合同会議を野田首相出席の下で開催し、消費税を「2014年4月に8%、15年10月に10%」に引き上げることなどを決定した。
増税方針の決定は一つの政治的リーダーシップの発揮として評価されるところであり、その責任はいずれ国会、及び最終的には選挙において取られることになるので、国民の審判に委ねられることになろう。だが増税案が示されても、年金制度などの社会保障制度改革について実質的な方針が示されなければ「一体改革」にはならない。しかしそのベースとなる「中間報告」は、低所得層、パート、主婦などに一定の配慮をしており評価されるものの、「中間報告」とは言え基本的に次の諸点が欠けている。
1、欠けるコスト削減の側面 (その1で掲載)
2、最大の欠陥である国民年金など、見えない抜本的改革
国民、厚生、共済各年金とも拠出形であり、厚生、共済両年金の一本化が検討されているが、最大の欠陥は国民年金にある。国民年金にのみ加入している者の2011年4―7月の納付率は55.0%だが、失業等で納付免除者を加えると納付率は更に低くなる。納付していない者が半数近くいるので、受給者層が増加の一途であることを考慮すると、国民年金(基礎年金)制度は持続不可能な状況になっている。他方生活保護者は205万人以上に達しているが、国民年金の給付額は平均5.3万円であるのに対し、東京都の生活保護支給額は30代単身で13万円以上、60代後半単身でも8万円強で、家族構成などで加算されることになっているため、国民年金の方が掛け金を支払っていながら受給額は少ないので、納付意欲を失わせる形となっている。
現在、厚生年金と共済年金の一本化や国民年金(基礎年金)との統合などが検討されているが、まず最大の欠陥を抱えている国民年金の在り方を検討することが先決であろう。国民年金の納付率を上げると共に、不加入者をどう解消して行くかが検討されなくてはならない。国民年金も拠出制であり、本来的には拠出していない者には給付も無いことになる。基本的には受益者負担と自己責任の原則に則らざるを得ない。また生活保護支給額に対し、国民年金給付額が逆差別されている状況も是正する必要があろう。
社会保障改革案の中間報告では、高所得者の年金減額などを提案している一方、年金支給開始年齢の引き上げ、デフレ下での年金給付額調整(引き下げ)、厚生年金保険料上限の引き上げなどが先送りになっており、「中間報告」であるので仕方が無いとは言え、これらのいずれについても実施されても国民年金の抜本改革にはならない。拠出型の国民年金は拠出者に対して継続するとしても、いずれの年金にも拠出していない者を含め、全国民を対象とする最低限の基礎年金をどのように制度設計するかが問われていると言えよう。
国民、厚生、共済の3つの年金制度があり、分り難いとの評もあり、その面は否定できないが、3つとも雇用形態や所得水準、賃金体系などが異なるので一本化には複雑な調整が必要になるばかりか、一本化すれば年金問題が解決するというものでもない。国民、厚生、共済の3年金制度とも料率納付を前提としているので、原則として拠出者には入会時の条件になるべく近い水準で給付することが期待される。それなくしては年金の信頼性は維持出来ない。問題はいずれの年金についても受給資格が無い者をどう救済して行くかである。
3、社会保障に関する新たな制度設計と消費税増税 (その3に掲載)
(12.1.4.)(All Rights Reserved.)(不許無断引用)
野田政権は、社会保障と税の一体改革大綱の素案を12月末に決定する意向であるが、2011年12月12日、関係5閣僚会議で社会保障分野の検討を開始した。これに先立ち厚生労働省は社会保障改革案の中間報告を公表した。
中間報告は、年金、医療・介護、及び子育て分野まで網羅しており、受給資格期限の10年への短縮、低所得層に対し年金加算、国民健康保険料や介護保険料の軽減(給付増要因となる)など、低所得層、パート、主婦などに一定の配慮をしているが、高所得者の年金減額、70-74歳の窓口負担引き上げ、外来患者への1回100円の負担上乗せ(料金収入増要因となる)など、収入を図る一方給付水準を引下げ、利用者に負担を掛ける内容となっている。他方、年金支給開始年齢の引き上げ、デフレ下での年金給付額調整(給付水準引下げ)、厚生年金保険料上限の引き上げなどについては法案提出を先送るとしている。
一方消費税増税を中心とする税制改革については、年末の12月29日、民主党税調と一体改革調査会の合同会議を野田首相出席の下で開催し、消費税を「2014年4月に8%、15年10月に10%」に引き上げることなどを決定した。
増税方針の決定は一つの政治的リーダーシップの発揮として評価されるところであり、その責任はいずれ国会、及び最終的には選挙において取られることになるので、国民の審判に委ねられることになろう。だが増税案が示されても、年金制度などの社会保障制度改革について実質的な方針が示されなければ「一体改革」にはならない。しかしそのベースとなる「中間報告」は、低所得層、パート、主婦などに一定の配慮をしており評価されるものの、「中間報告」とは言え基本的に次の諸点が欠けている。
1、欠けるコスト削減の側面 (その1で掲載)
2、最大の欠陥である国民年金など、見えない抜本的改革
国民、厚生、共済各年金とも拠出形であり、厚生、共済両年金の一本化が検討されているが、最大の欠陥は国民年金にある。国民年金にのみ加入している者の2011年4―7月の納付率は55.0%だが、失業等で納付免除者を加えると納付率は更に低くなる。納付していない者が半数近くいるので、受給者層が増加の一途であることを考慮すると、国民年金(基礎年金)制度は持続不可能な状況になっている。他方生活保護者は205万人以上に達しているが、国民年金の給付額は平均5.3万円であるのに対し、東京都の生活保護支給額は30代単身で13万円以上、60代後半単身でも8万円強で、家族構成などで加算されることになっているため、国民年金の方が掛け金を支払っていながら受給額は少ないので、納付意欲を失わせる形となっている。
現在、厚生年金と共済年金の一本化や国民年金(基礎年金)との統合などが検討されているが、まず最大の欠陥を抱えている国民年金の在り方を検討することが先決であろう。国民年金の納付率を上げると共に、不加入者をどう解消して行くかが検討されなくてはならない。国民年金も拠出制であり、本来的には拠出していない者には給付も無いことになる。基本的には受益者負担と自己責任の原則に則らざるを得ない。また生活保護支給額に対し、国民年金給付額が逆差別されている状況も是正する必要があろう。
社会保障改革案の中間報告では、高所得者の年金減額などを提案している一方、年金支給開始年齢の引き上げ、デフレ下での年金給付額調整(引き下げ)、厚生年金保険料上限の引き上げなどが先送りになっており、「中間報告」であるので仕方が無いとは言え、これらのいずれについても実施されても国民年金の抜本改革にはならない。拠出型の国民年金は拠出者に対して継続するとしても、いずれの年金にも拠出していない者を含め、全国民を対象とする最低限の基礎年金をどのように制度設計するかが問われていると言えよう。
国民、厚生、共済の3つの年金制度があり、分り難いとの評もあり、その面は否定できないが、3つとも雇用形態や所得水準、賃金体系などが異なるので一本化には複雑な調整が必要になるばかりか、一本化すれば年金問題が解決するというものでもない。国民、厚生、共済の3年金制度とも料率納付を前提としているので、原則として拠出者には入会時の条件になるべく近い水準で給付することが期待される。それなくしては年金の信頼性は維持出来ない。問題はいずれの年金についても受給資格が無い者をどう救済して行くかである。
3、社会保障に関する新たな制度設計と消費税増税 (その3に掲載)
(12.1.4.)(All Rights Reserved.)(不許無断引用)