内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

このブログは、広い視野から内外諸問題を分析し、提言を試みます。
Policy Essayist

膨らむ企業の内部留保、求められるコロナ禍での使い道

2022-01-26 | Weblog

膨らむ企業の内部留保、求められるコロナ禍での使い道

 2021年9月1日に公表された法人企業統計(財務省)によると、企業の利益剰余金(内部留保、金融・保険業を除く)は、2020年度末時点で前年度に比べ2.%増の484兆円強となった。増加率は低下したものの、2012年度以来、9年連続で増加し、過去最高を更新している。

 利益剰余金は、総売上額から人件費や原材料費など必要経費を引き、株主への配当金や税金を差し引いたもので、企業が将来の設備投資や事務所拡大など自由に使える。業種により余剰金額は異なり、コロナ禍では、製造業やIT関連企業を中心として業績を伸ばした一方、観光関連業種や対面サービスを行う業種などは大幅減となっている。

 コロナ禍でも利益剰余金を積み上げられる企業が存在することは大変心強いところであり、その努力に敬意を払いたい。

 1、企業の利益剰余金(内部留保)の国民経済への還流が望まれる

 しかしコロナ禍で多くの企業が経営難にあえいでいる中で、日本の国民総生産(GNP)にほぼ匹敵する484兆円強もの利益剰余金を企業が抱え込んでいることが経済全体にとって適切か否かが問われる。

 一部に、内部留保積み上げはコロナ禍で設備投資を手控えたためとされるが、設備投資の手控えはそれだけで民間投資の減少、従ってそれだけ総生産(GNP)を引き下げる結果となっている。

 一定の内部留保は、将来の設備投資と安定した経営基盤を維持する上で必要である。しかし個人の貯蓄同様、好調な時期には積み上げ、停滞期には放出することが必要だろう。コロナ禍で経済停滞する現在、GNPの縮小に繋がる484兆円強にものぼる企業の内部留保のなるべく多くの額を国民経済に還流することが望まれる。

 基本的には平常時において、賃金や契約社員等への報酬、役員報酬、及び株式配当金への分配をもう少し引き上げる努力が望まれるが、今回のような緊急時においても、例えば、契約社員等の雇い止めを極力回避すると共に、報酬・賃金の引き上げ、株式配当の増加、社員研修の強化、研究開発の促進や関連下請け企業製品の価格引き上げなどの他、企業内での感染防止措置の拡充、授業員家庭支援など、企業にとっては負担となるが、内部留保を経済に還流し、経済全体の底上げ努力が望まれる。

 2、「異次元」の金融緩和は家計所得や消費増には繋がらなかった

 企業の内部留保は、阿倍自・公政権が2013年1月に発足し、「異次元」の金融緩和が開始された頃より顕著に増加している。「異次元」の金融緩和により、輸出産業や観光関連産業など一部の産業が業績を伸ばしたことを背景として、株価が上昇したため、多くの企業は株式評価益等が出たことにより、利益剰余金を積み上げて行ったと見られる。他方、このような局部的な産業の好調と内部留保の積み上げとは裏腹に、実質家計所得は減少しており、消費は低迷した。日銀は、「異次元」の金融緩和とマイナス金利を長期に継続しているが、産業への局部的効果はあるが、家計所得や個人消費の増加には繋がっていないことが明らかになった。金融政策依存の限界と言えよう。

 逆に、2008年9月のリーマンショック以来の切れ目のない恒常的な金融緩和策とゼロ金利政策が、2013年1月以来の「異次元」の更なる金融緩和とマイナス金利政策により更に助長され、金融緩和により恩恵を受ける分野とその恩恵がほとんど及ばない分野との間で著しい経済格差を生む結果となっている。

 それに追い打ちを掛けたのが、2020年1月以来の武漢発の新型コロナウイルスの国際的な感染拡大である。これが各国の航空・観光産業や飲食産業、娯楽産業とこれらを支える関連産業を直撃し、人の動きを制限し、経済社会活動を減速させた。その対策として、各国政府は、感染拡大を抑制するための検査やワクチンを含む医療体制の拡充をする一方、職や所得を失った人々などへの財政支出を拡大すると共に、無利子の融資を含む金融支援策を実施したことにより、金融緩和が加速し、経済社会の格差を更に拡大する結果となっている。

 米国のバイデン政権の下で、連邦準備理事会(FRB)が、雇用の維持促進とインフレ率を睨みながら、金利の引き上げを含め、金融緩和の抑制時期を検討しているのは、金融緩和策による副作用を除去し、金融正常化に道を開くためである。

 日本銀行も米国の金融正常化に向けての政策転換を参考にしつつ、金融緩和幅の縮小を通じた株価の沈静化を図っているようだが、それは経済の抑制に繋がる可能性がある。このような中で、企業がそれぞれの企業経営に資する形で内部留保を積極的に活用し、経済に還元することが望まれる。また政策当局としても、企業の巨額の内部留保を景気の局面に応じて誘導することが経済対策に繋がることに注目する必要があろう。(2021.9.6.)(All Rights Reserved.)

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台湾の独立実現に転換すべき時   (再掲)

2022-01-26 | Weblog

台湾の独立実現に転換すべき時   (再掲)


 1月末以来、中国武漢から世界に拡大したコロナウイルスは、既に680万人以上の感染者、40万人近くの死者を出し、世界レベルでの感染は未だに収まっていない。
 このような中、5月18日、世界保健機関(WHO)の年次総会を開かれ、焦点に1つであった非加盟の台湾のオブザーバー参加について、中国が「1つに中国」を主張して反対したため、見送りとなり、年内にも開かれる次回総会で協議されることになった。
 米国は、台湾のオブザーバー参加を支持する一方、WHOは中国寄りであり、改革を求めると共に、改革されなければ脱退も辞さないとした。
1、コロナウイルス問題は世界77億人の健康、存続に関する問題
コロナウイルス問題は、単に2,700万人の台湾の人々の健康、安全の問題ではなく、世界の77億人の健康、安全の問題であると共に、世界の健全な経済・社会・文化活動の回復、維持に影響する問題であり、いわば人類全体の健全な存続に関する問題である。
 武漢型コロナウイルスは、その発生源については別として、武漢から世界に拡散し、40万人を超える死者を出す拡散源となったことは確かである。習近平中国主席は、武漢を中心とする中国国内で感染が拡大したことを詫びたが、世界に対してはそのようなお詫びをしていない。確かに中国も新型コロナウイルスの被害者であるが、世界に拡散させた責任の一端はあり、世界に何らかの言葉があっても良いのではなかろうか。それどころか、世界が密接に協力してコロナウイルスを克服していかなくてはならない時期にWHO年次総会への台湾のオブザーバー参加を阻み、コロナウイルス克服へ向けての世界的努力から除外し、空白地帯を造っているに等しい。世界のどこかに空白地帯があれば、この問題の中・長期的な解決は難しい。
 2、台湾の独立を推進する時
 次のWHO総会でも、中国はかたくなに台湾が中国に帰属するとの原則を主張し、台湾の参加に反対するか、厳しい条件を課すであろう。台湾について中国が何かできるわけでもなく、台湾は国際的なコロナウイルス撲滅努力の外に置かれる。
 領土問題については、香港の問題がある。1997年6月に英国の99年間香港租借が終了し、50年間は香港の「高度の自治」が認められる1国2制度に移った。領土としては中国であり、香港での民主化運動の激化に対し、中国は香港に「国家安全法」を適用することを2020年5月の全人代で決めた。
米国等は香港の自由と民主主義を抑圧するものとして強く反発している。しかし中国は、香港は中国の一部であり、内政干渉として取り合う姿勢を示していない。中国は「領土」という原則は曲げないであろう。現在の国境を前提とする国家関係ではやむを得ないことだろう。そのことは香港を去った英国が一番よく知っている。
台湾については、戦後中華民国として中国共産党下の中華人民共和国とそれぞれが中国を代表するものとして対峙していたが、東西冷戦下の1971年に、アメリカ合衆国をはじめとする西側諸国と、ソビエト連邦(当時)をはじめとする東側諸国との間で政治的妥協が計られた結果、国際連合における「中国代表権」が中華人民共和国に移され、中華民国(台湾)は国連とその関連機関から脱退を余儀なくされ、「地域」として扱われてきた。
 台湾と外交関係を有する国も現在中南米、カリブ諸国を中心として15カ国に減少している。日本も外交関係を持っていない。
 台湾が国連を脱退して50年ほどになるが、中国は「1つの中国」を主張し、台湾をその1地域としている。台湾においては、台湾独立派と中国大陸派とが存在するが、自由と民主主義は根付いており、同じ中華系も多いが、高雄系などの台湾独自の人口も多いので、中国共産党とは相容れない社会経済体制となっている。双方とも、それぞれが中心となって中国統一を願っているようであり、それが双方国民の選択であれば良いが、差が縮まるどころか広がっている。
 これ以上待っても物事は動かないし、武漢型コロナウイルス問題など地球規模の問題への対応、健全な人類の存続を考えると、台湾を国連の外に置いておくことは望ましくない。今や東西冷戦はなくなっており、その時の東西両陣営の妥協の産物である中国の代表権問題はその役割を終えたと考えられるので、今や台湾の独立を推進すべき時代になっていると言えよう。台湾独立後、双方の国民が統一中国を希望するのであれば、それは双方の国民の選択に委ねれば良いことであろう。
(2020.6.8.All Rights Reserved.)

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新型コロナウイルス克服には検査と医療体制の拡充・整備が基本(追補版)

2022-01-26 | Weblog

新型コロナウイルス克服には検査と医療体制の拡充・整備が基本(追補版)

<はじめに> 日本の新規感染者は、2021年8月12日現在、全国で約1万9千人、東京都は4,989人に拡大し、重症者も全国で1,400人強、東京都では218人と最多となっている。更に子供を含め家庭内感染拡大が懸念される自宅療養者が2万人を超え、加えて入院を待つ調整者が1万1千人強にも達している。死者こそ少ないが、重症化した患者は回復しても肺機能が元に戻ることはほとんどなく、息苦しい生涯を強いられ、また味覚障害等の後遺症も残る恐れがあり、軽く見ることは出来ない。

 政府与党、東京都、財界は、オリンピック開催をシンボリックな契機として経済社会活動の回復に舵を切ったが、急速な感染拡大により経済回復を更に遅らせる恐れが強い。

 政府は家庭療養を促す一方、尾身政府分科会会長は、東京の人流を7月前半に比し半減させるよう提案している。感染防止は個々人の健康と命のためであるので、自分自身の問題として協力すべきであろう。誰の健康でも、命でもない。自分自身の健康であり、命である。

 しかし当面の課題はそれだけでなく、(1)家庭内療養者をできる限り減らし、隔離、治療すること、(2)人流は、7月20日頃以降減っている。学校が夏休みに入ったからだ。学生達は、休みで規制の少ない地方や郷里、或いは遊び場に行き、東京を離れたいのは当然だ。緊急事態宣言の中で世界最大のスポーツの祭典オリンピックが行われているのだから、少しくらいは良いのだろうという心理を無意識に起こさせているのかもしれない。

 (1)家庭内療養者については、日本の一般的な住宅事情では、感染者を家庭内で隔離し、感染力の強い伝染病を適切に治療することは難しい。家庭から隔離し、最低限の治療を行える場所を作ることが不可欠だろう。

(2)人流については、お盆期間を含め学生などの地方への人流と就労者・サラリーマンの都市圏での人流をどの程度抑えられるかだ。また学校の再開を通常通りに行うのかなど、8月末以降の対応も必要と思われる。(2021.8.12.補足)

 

 そして9月下旬以来新規感染者が急速に減少を続けたが、2021年11月下旬に南アで新たな変異株としてオミクロンが確認され、アフリカ、欧州地域を中心としてアメリカ、アジア地域にも拡大している。これを受けて、関係各国が入国制限等を発表し、日本政府も暫定措置として、11月30日零時より全世界からの入国を原則として停止し、日本人についても新規予約を停止した。正体の分からない変異株の出現への緊急な対応として評価される。

 これに対し、海外在留の日本人より、年末年始を前にして帰国出来ないなどの批判を受けて、国交省は日本人の予約停止を解除した。観光目的等の日本人については良いが、年末年始等のための一時帰国希望者については、気持ちは十分に分かるが、オミクロン株の詳細が明らかになるまでの間、日本国民全体の健康のために予約を控えて頂いて良いのではないだろうか。

 またWHOは、「コロナウイルスは人種を選ばない」などとして、日本の対応を批判しているが、この國際感染症は海外で発生、変異しているものであり、その国内感染を防止する検疫権限は各国にある上、領土内での自国民の行動様式や法令等の適用と外国人とでは異なる場合が多々あるので、自国民と外国人を適正に区別することは各国の判断であり、WHOの批判は当たらない。国際交流、国際協調、及びグローバリゼーションの方向性は維持すべきであるが、将来は別として、現在の世界は領土内の国家主権を基礎としているので、國際感染症や無秩序な國際難民、国際テロ・犯罪等への対応として国毎の対応が尊重されて良いのであろう。国連やその専門機関が「世界連邦」的な発想で対応しがちだが、現実はまだそこまで達していない上、残念ながら、これらの国際機関も加盟諸国の寄せ集めの体制であり、新型コロナウイルスへの初期の対応や発生源の特定を含め適切な対応をしているとも言えないのであろう。多くの問題があるのが現実だ。

 このような観点を含め、本稿を再掲したい。

 現在世界で猛威を振るっている新型コロナウイルス肺炎は、感染力と致死率が高く、発生から3ヶ月後の2020年4月には、世界の感染者総数は215万人超、死亡者は14万人超(4月17日現在)に達している。日本も、国内感染者9,297人、死亡者136人(同日現在)となっている。

更にインドのデルタ型など、感染力の強い変異種への対応が必要になっている。

 このような国際的伝染病(パンデミック)を克服するためには、基本的に2つの対応が必要だ。

 1つは、伝染病の罹患者(陽性者)を早期に特定した上、隔離し、治療することが基本であろう。

 第2は、伝染病が急速に広がり、罹患者が急増し、死者が増えることにより、社会活動、経済活動全般が停滞し、国民生活に大きな影響を与えるので、そのための救済、救援処置が必要となることである。

  1、   新型コロナウイルス肺炎の封じ込めに何が必要か

(1)早期発見と情報の迅速な伝達、共有

 新型コロナウイルス肺炎は、中国武漢市で発生が確認され伝染が拡大したが、武漢市を初めとする中国の対応と情報の内外への発信の遅れが、中国国内での対応ばかりではなく、世界への伝染拡大を招いたと言えよう。

 また国連の専門機関である世界保健機関(WHO)の世界的伝染病(パンデミック)とする宣言が遅かったと言えよう。

 今回のコロナウイルス肺炎は、「新型」であったので未知なことも多く、対応が遅れたとしても誰の責任でもなく、仕方が無いことと思われる。しかし中国の地方組織を含め、情報統制を行っていることが遅れの一因であり、遺憾であるが、中国が猛省し、今後発生源の特定や何故対応が遅れたかの検証、病原菌の特性などにつき、国連はじめ関係各国への迅速な情報や資料の提供を望みたい。

 (2)検査の充実と罹患者(陽性者)の特定、隔離、治療が対応の基本

 このような感染力の強い伝染病への対応については、速やかに罹患者を特定し、隔離、治療するのが基本中の基本であろう。

 今回の場合、新型であったため、検査キットの準備がなく、1月下旬の初期段階では1日800件程度しか検査できない状況であったので、武漢等への渡航経験者などを除き、検査は受けられず、‘自宅療養’の状態となったことは仕方なかったとしても、その後迅速に検査体制の拡充・整備、陽性者を症状を選別した上で隔離・治療体制の拡充、整備を優先的に進めるべきであった。そのために予備費などを含め予算を優先的に充てるべきであったと思われる。

 一部に、検査して陽性患者が増えると病院が受け入れられないようになり、イタリアなどのように「医療崩壊」を起こすとの意見があった。何もしなければそうであろう。検査を前提として、陽性者の症状に応じ、症状がないか軽微な者の隔離場所(第1次隔離)、重度でないが治療を要する患者(第2次隔離)、及び重度者(第3次隔離)などに分けて、収容場所を新・増設する。場所は、廃校となった学校や施設や場合により適当場所に簡易施設を建設するなど対応は出来るはずだ。また医療用マスク、防護着衣や人工呼吸器類を拡充・整備すると共に、検査キットやワクチン、治療薬等の開発を図る。そのために予算を優先的に使用すべきだ。

 医師、看護師等の人材については、まず医療従事者が感染しないよう配慮する一方、OBの再リクルート、研修医の動員や、必要に応じ医大生をボランテイアー・ベースで募り、緊急・危険手当を含め然るべく報酬を支給して手当てするなど、対応は可能であろう。予備費を当てると共に予算手当を優先的に行うべきであろう。

 現在のように、無症状の保菌者が自由に行動できる状態ではコロナウイルスの伝染を克服することは出来ない。コロナウイルス禍は長期に残存する可能性が高いが、将来、緊急事態宣言を解除、緩和する時には、無症状の保菌者への対応が必要となろう。そのためにも検査の充実は不可欠だ。

 2、経済社会活動、国民生活への影響をどう緩和、救済するか

 経済的被害については、個人にせよ企業・団体にせよ、誰もが被害者であるので、まずはそれぞれの経済的能力に従って耐え、対応し克服する努力が必要だろう。そのような個々の意識と努力がなければ克服は難しい。財源が限られている以上、政府や地方自治体が行えることには限度がある。

 公的な経済的支援を必要とするのは、職業が安定していない人や解雇される人であり、企業・団体では中小零細企業・団体や観光・飲食・娯楽・サービス業などの分野で、コロナウイルス禍で著しく影響、被害を受けるところが中心となろう。仕事を失った者に対しては、雇用保険によるセーフテイーネットがあるものの、その対象となっていない人々や地域、分野によって被害は一律ではない。重要なことは、経済・社会活動が制限、縮小され、生活が困窮し、被害を受けている人々に支援が迅速に届くような措置が望まれる。(2020.4.17.初稿、2021年8月12日補足)

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北京冬季オリンピック、政府代表の派遣中止を支持する

2022-01-26 | Weblog

北京冬季オリンピック、政府代表の派遣中止を支持する

 2022年2月に開催予定の北京冬季オリンピック・パラリンピックについて、米国政府は、外交的及び公式代表団を派遣しないことを明らかにした(2021年12月6日、大統領府サキ報道官)。‘中国の新疆ウイグル自治区での虐殺行為(ジェノサイド)と人道への罪、その他の人権侵害を受けて判断した’としている。バイデン政権発足後、米国は中国との間で、国務長官レベルやテレビ会議形式の首脳会談などで、通商問題の他、南シナ海での中国の軍事進出、台湾海峡での動きや新疆ウイグルや女子テニスの彭帥(ホウスイ)選手の軟禁拘束等の人権抑圧などにつき、意見交換を重ねて来ているが、中国側は何らの譲歩も示さなかったとみられる。他方、米国内では人権団体からのバイデン政権への強い要請が行われていた。

 米国は選手団を派遣し、メデイアを通じ応援するとしており、競技自体は通常通り行われるであろうとしており、オリンピック自体については尊重する姿勢を示している。

 米国の他、英国、豪州及びカナダがいずれも選手団は派遣するが、政府代表団を派遣しないことを表明した。また日本も同様の対応を表明した。

 冬期オリンピック開催国中国は、かねてより新疆等の人権問題や女子テニス彭帥選手の軟禁問題や香港の民主勢力抑制問題等を‘中国の内政問題であり、外部の干渉を認めない’としている。また米国の政府使節団派遣見送りの検討段階において、中国外交部趙報道官は、2021年12月7日の記者会見において、「オリンピック憲章にあるスポーツの政治的中立という原則に著しく反するも」として不満を表明し、「断固とした対抗措置」をも辞さないとも述べている。

 近代オリンピックの父と言われるフランスのクーベルタン男爵は、国家間の紛争や部族対立が絶えない世界にあって、「スポーツを通して心身を向上させ、文化、国籍など様々な相違を乗り越え、友情、連帯感、フェアプレーの精神をもって、平和でよりよい世界の実現に貢献すること」ことを唱え、古代ギリシアで行われていたオリンピアの競技大会を復興しようと呼び掛けたことを受けて、1896年にアテネ・オリンピックが実現した。

 現在では国際的組織として国際オリンピック委員会(IOC)があり、オリンピック憲章においてオリンピック精神の根本原則として次の諸点等を掲げている。

(1)  オリンピズムの目的は、 人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推

進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てる。

(2)スポーツをすることは人権の 1つである。 すべての個人はいかなる種類の差別も受けることなく、オリンピック精神に基づき、スポーツをする機会を与えられなければならない。

 1、中国の主張はオリンピック精神の根本原則に反する

 オリンピック憲章は、「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指す」とし、また「スポーツをすることは人権の 1つである。 すべての個人はいかなる種類の差別も受けることなく」スポーツをする機会を与えられなくてはならないとしている。この原則は、参加各国との関係のみならず、オリンピックに参加するそれぞれの国内で守られることが期待されている。

 中国は、新疆ウイグル等における人権抑圧問題を内政問題とし、介入を許さない等とし、欧米諸国が北京冬季オリンピックへの政府代表等を派遣しないとの姿勢に対し、オリンピック精神に反するなどとしている。しかし中国は、一方で世界において平等、対等な立場を主張しつつ、国内では独自の統制を主張しているにすぎない。いわば世界での平等は認めよ、中国国内は中国が統治する、他国の関与は許さないとしていることになり、中国が唯一の法であり、世界は中国に従えと言っているに等しい。新疆ウイグルでの人権抑圧・差別、香港での民主派抑圧・排除、チベットでの抑圧などの他、中国本土においても女子テニスの彭帥選手の軟禁拘束問題のごとく、発言や行動の自由が制限されることが挙げられている。いずれにせよ、中国の内政問題に介入するなとの主張は、中国国内に人権抑圧があることを認めていることを意味する。それはオリンピック精神に反することを中国は理解すべきであろう。

 他方現在の世界は、領土をベースとする主権国家で構成され、領土内の統治は各主権国家に委ねられているので、原則として第3国は国内事項に介入すべきではない。しかし各国が各国或いは複数国と結んでいる国際的な諸約束については、加盟している国連や世界貿易機構の憲章・協定を含め、それぞれの規定に基づき必要な国内的措置を執ることが求められる。

 2、国連憲章においても人権を重視

人権尊重、差別の撤廃については、国により程度の差はあるが、現在世界で広く理解されている。国連憲章でも、「経済的社会的国際協力」章(9章)で、国連が促進すべきものとして、経済的社会的及び保健的国際問題等での協力の他、「人種、性、宗教、言語による差別なく、全ての者の人権及び基本的自由の尊重、遵守」((55条)を挙げ、その上で加盟国は「関係機関と協力し、共同及び個別の行動をとることを誓約する」(56条)としている。これは中国を含む国連加盟193か国が努力すべきことであり、国連加盟国である以上、国際的な誓約であり、国内問題であるとか、介入を許さないとかの問題ではない。

 この意味からすると、中国のほか、北朝鮮やミャンマー、アフガニスタンなどの人権抑圧や基本的自由の制限については国連ファミリーの共通の関心事であり、指摘を受ければ改善努力をすべきであろう。無論、加盟国により国家としての成立の歴史や発展段階が異なり、また国連自体も領土を基礎とする主権国家の連合体であるので、一律とはいかず、改善には時間を要することがあろう。しかし、このような国際的誓約を否定し、国内問題とする姿勢は国際協力、国際協調を真っ向から否定するものであり、国際的な共感を得ることは難しいであろう。中国国内の状況や政策と領土の外の世界の状況や世論との内外格差が存在することは事実であるので、中国が国際社会の重要な一員としてそれを認識し、内外の状況を平準化して行く努力が望まれる。

 3、  国威発揚に偏る現代オリンピックとビジネス化

(1)開会式への参加国政府首脳の招待は必要か

 最近のオリンピックは、施設建設を含む開催費が膨大になり、民間資金だけではまかなえず、多額の公費(国及び地方公共団体)が投じられるようになると共に、開催国の施設にせよ、金メダル数にせよ、開催国や参加国の威信を競う傾向にあるのではないだろうか。

 最近では、開催国が参加国首脳を開会式等に招待し、あたかも国家の威信の象徴として各国首脳、政府代表の数を競っているような印象を与えている。

 しかしオリンピック憲章は、オリンピックは選手間の競争であり、「国家間の競争ではない」として、国家や政府の関与や政治性を避けている。

 世界の人々、スポーツを愛好する人々はそのようなことには余り関心が無いことだろう。原点に立ち戻って、「国家間の競争ではない」オリンピック、パラリンピックにしていくべきではないだろうか。各国のオリンピック委員会や関係スポーツ団体が中心となった世界のスポーツの祭典としての開会式、大会運営にし、スポーツ選手がスポーツを楽しく競い、スポーツ愛好者が楽しく観戦できるようにすべきではないだろうか。IOCは、原点に立ち返ってオリンピック、パラリンピックのあり方を見直すことが望まれる。

(2)オリンピックのビジネス化

 最近のオリンピック大会は、アマチュア選手だけでなくプロも参加するようになり、企業のスポンサーシップや広告、放送権などが関係し、ビジネス化している。これは、戦後欧米諸国などでプロスポーツが発展したことを受けたものであり、IOCの意見を受け、オリンピック憲章から「アマチュア」という表現が1974年に削除された。

 他方、社会・共産主義国などでは、国家により得意種目で子供の頃より多くのスポーツ選手が育成され、有力選手は国家補助を受け、いわばそれが国家補助の職業となっており、市場経済諸国のプロとは異なるが、特定の経済的、社会的支援を国家より受けてスポーツで生計を立てている意味では国家プロであり、多くのメダルを獲得していることが背景にある。

 しかしどのような形にせよ、スポーツで生計を立てているプロが余暇にスポーツを楽しんでいるアマチュアと競争することはフェアーでなく、違和感がある。アマチュアに勝ち目はほとんど無いばかりか、出番も少ない。例えばゴルフやテニス、野球、バスケット、サッカーなどはアマチュアが出るチャンスはほとんどない。これらのスポーツは世界選手権試合が別途あり、オープンな形で行われるのであれば、オリンピックに入れる必要は無いようにも思える。確かにプロとアマチュアとの線引きは難しいところがあるが、もう一度原点に立ち返り検討する必要がありそうだ。

 そうでないと、オリンピックがどんどん専門化、ビジネス化し、国家行事化し、一般国民からは別世界のイベントとなってしまう可能性がある。オリンピック開催に対する各国国民の支持がなくなっている1つの要因は、そのような傾向があるからではなかろうか。(2022.1.12.)

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