北極圏の氷原を救え― 期待されるG-8サミットの地球温暖化対策への決意と宣言 -
北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国は、5月28日、デンマーク領のグリーンランドにおいて、北極海及びその海底の使用について1982年に採択された国連海洋法条約に基づいて解決策を見出すことに合意した。北極海の航行と海底、大陸棚での石油資源その他の自然資源の開発を巡る5か国間の過熱競争が当面回避されるものとして歓迎される。特に、ロシアが北極点付近の海底をシベリア大陸北部沿海の大陸棚の延長であると主張し、2007年8月に北極点の海底に深海艇を潜らせ国旗を敷設したことから、北極圏での開発競争を激化させていた。
皮肉なことに、地球温暖化が北極海の周辺大陸にまで及んでいた氷海を急速に融かし、海路を開き、シベリア大陸側の北西航路が航行可能となり、またカナダ側の北東航路も一部塞がっているもののいずれ航行可能になると予想されている。パナマ運河は両洋を結ぶために建設されたのだが、北極海を通じて太平洋と大西洋が結ばれることになり、歴史的な出来事だ。これにより、北極海周辺の海底での石油、ガス開発や鉱物資源開発が年間を通して現実のものになった。原油高がその期待を強めている。
グリーンランドの氷河や雪原、島嶼、及び海氷が専門家や学者の予想以上に急速に融けていることが観察されている。北極圏の氷原がどんどんと縮小しているため、この地域に生息している白熊その他の希少動物が絶滅の危機に瀕し始めている。白熊は子供を2年間ほど母乳で育てるが、餌となるアザラシの繁殖場所が少なくなっているため子育てどころか自らの生存も困難になって来ていると言われている。人類が今失おうとしているのは氷原だけではなく、希少動物その他の動植物でもある。更に、北極の氷原縮小により気流や海流によるクーリング効果を失い、地球温暖化の過程を早める結果ともなる。北極圏の環境悪化は、沿岸5か国のみの問題では無く、この地球の運命にも影響を与えている。
従って緊急性をもって温暖化の連鎖反応を止める必要があり、次の点を提案したい。
(1)氷海、島嶼、雪原に覆われた沿岸の陸地を含め、原則として北緯66.5度以北の北極海地域全体をユネスコの世界遺産に指定する。範囲等の詳細は今後検討の上定めることとするが、この地域では経済活動は、北極海の商業航行や海底開発を含め制限する。そのため海洋法条約に付属する議定書などが取り決められることが望ましい。
(2)北極海周辺に領土を有している5か国は、北極点周辺の熱源や炭酸ガスの排出を削減するため、北極圏に位置する雪原や氷河に覆われた区域、及び領海・排他的経済水域で1990年時点で氷結していた区域について、調査研究目的や限定的な観光を除き、商業的、工業的な使用を制限乃至凍結する取り決めを行うよう措置する。そのような使用凍結は、北極点周辺の環境悪化や地球規模での気象への影響に関する十分な調査研究が終了するまで継続される。
(3)関心国は、この地域での科学的な研究調査と縮小する氷海、氷河、雪原などを維持する方法について検討する枠組みを設ける。その一環として、例えば、北極海から氷山が外海に流れ出ることを防ぐ“防護フェンス”や融解する氷河へのカバーの敷設が可能かどうかなども検討する。
(4)同様に、南極地域も世界遺産として指定する。南極大陸は、既に1961年の南極大陸条約で領土権の主張を凍結し、平和的、科学的使用などに制限されている。しかし、大陸上の雪原は内陸に向けて縮小し、また周辺の氷海も縮小し、外海に流れ出ているのが現状であり、北極同様、雪原、氷海縮小をくい止める対策が必要になっている。
7月7日から9日まで北海道洞爺湖で開催されるサミットは、地球環境問題が主要な議題の一つになっているが、地球温暖化防止への人類の闘いのシンボルとして、北極海の環境保護を含め、具体性のある強い宣言が出されることが期待される。(08.07.)
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北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国は、5月28日、デンマーク領のグリーンランドにおいて、北極海及びその海底の使用について1982年に採択された国連海洋法条約に基づいて解決策を見出すことに合意した。北極海の航行と海底、大陸棚での石油資源その他の自然資源の開発を巡る5か国間の過熱競争が当面回避されるものとして歓迎される。特に、ロシアが北極点付近の海底をシベリア大陸北部沿海の大陸棚の延長であると主張し、2007年8月に北極点の海底に深海艇を潜らせ国旗を敷設したことから、北極圏での開発競争を激化させていた。
皮肉なことに、地球温暖化が北極海の周辺大陸にまで及んでいた氷海を急速に融かし、海路を開き、シベリア大陸側の北西航路が航行可能となり、またカナダ側の北東航路も一部塞がっているもののいずれ航行可能になると予想されている。パナマ運河は両洋を結ぶために建設されたのだが、北極海を通じて太平洋と大西洋が結ばれることになり、歴史的な出来事だ。これにより、北極海周辺の海底での石油、ガス開発や鉱物資源開発が年間を通して現実のものになった。原油高がその期待を強めている。
グリーンランドの氷河や雪原、島嶼、及び海氷が専門家や学者の予想以上に急速に融けていることが観察されている。北極圏の氷原がどんどんと縮小しているため、この地域に生息している白熊その他の希少動物が絶滅の危機に瀕し始めている。白熊は子供を2年間ほど母乳で育てるが、餌となるアザラシの繁殖場所が少なくなっているため子育てどころか自らの生存も困難になって来ていると言われている。人類が今失おうとしているのは氷原だけではなく、希少動物その他の動植物でもある。更に、北極の氷原縮小により気流や海流によるクーリング効果を失い、地球温暖化の過程を早める結果ともなる。北極圏の環境悪化は、沿岸5か国のみの問題では無く、この地球の運命にも影響を与えている。
従って緊急性をもって温暖化の連鎖反応を止める必要があり、次の点を提案したい。
(1)氷海、島嶼、雪原に覆われた沿岸の陸地を含め、原則として北緯66.5度以北の北極海地域全体をユネスコの世界遺産に指定する。範囲等の詳細は今後検討の上定めることとするが、この地域では経済活動は、北極海の商業航行や海底開発を含め制限する。そのため海洋法条約に付属する議定書などが取り決められることが望ましい。
(2)北極海周辺に領土を有している5か国は、北極点周辺の熱源や炭酸ガスの排出を削減するため、北極圏に位置する雪原や氷河に覆われた区域、及び領海・排他的経済水域で1990年時点で氷結していた区域について、調査研究目的や限定的な観光を除き、商業的、工業的な使用を制限乃至凍結する取り決めを行うよう措置する。そのような使用凍結は、北極点周辺の環境悪化や地球規模での気象への影響に関する十分な調査研究が終了するまで継続される。
(3)関心国は、この地域での科学的な研究調査と縮小する氷海、氷河、雪原などを維持する方法について検討する枠組みを設ける。その一環として、例えば、北極海から氷山が外海に流れ出ることを防ぐ“防護フェンス”や融解する氷河へのカバーの敷設が可能かどうかなども検討する。
(4)同様に、南極地域も世界遺産として指定する。南極大陸は、既に1961年の南極大陸条約で領土権の主張を凍結し、平和的、科学的使用などに制限されている。しかし、大陸上の雪原は内陸に向けて縮小し、また周辺の氷海も縮小し、外海に流れ出ているのが現状であり、北極同様、雪原、氷海縮小をくい止める対策が必要になっている。
7月7日から9日まで北海道洞爺湖で開催されるサミットは、地球環境問題が主要な議題の一つになっているが、地球温暖化防止への人類の闘いのシンボルとして、北極海の環境保護を含め、具体性のある強い宣言が出されることが期待される。(08.07.)
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