見出し画像

時の関守

「ゆるす」ということ (5)

青年は巡査(じゅんさ)の言葉に、
「それは私の持ち物です」と、
言いかけますが、
その瞬間に、
青年の頭のなかを、いなずまのように、ある思いがかけあがります。

「私は人だすけがしたくて、布教の旅に出た。
その最初に出会ったのがこの泥棒だ。
その泥棒は神様が出会わしたのだから、この泥棒をたすけ得ずして、後に千万人をたすけようと、それは何になろう。」
そんな思いでした。

それで、
「存(ぞん)じません。私の物ではありません」と、答えます。
巡査はなおも、尋ねます。
「では、君の頭の傷はどうしたのだと。
「私は生来(せいらい)の病気持ちで、峠の夜道を歩いている途中、病気がでて、谷間へ落ち、
幸い松の木にひっかかり、たすかりました。
落ちる間に着物がひっかかり、裸になり、この頭の傷も、その時、岩角にうちつけたものと思います。」
青年は最後まで、泥棒を罪人にしようとはしませんでした。

このことが、ほんとうに正しかったのかどうかはわかりませんが、その後青年は生涯、てんかんの発作をおこすことはありませんでした。

その泥棒が、その後、そのことに感激して、更正(こうせい)したとは書いてありません。
もしかしたら、お人好しよと、舌をだして、喜んだだけかもしれませんが…。

ゆるすということは、
相手が反省して、懺悔(ざんげ)したかどうかは関係ないのだと思います。
なぜなら、
ゆるすということは、
ほんとうは、自分をゆるすということなのだからです。

もちろん、私が青年と同じ立場に立ったとき、とても同じ行動をとれる気がしません。
ただ、
どんな行動をとるにしても、
人をゆるす、ゆるさないという、見かけの行為にだけは、
だまされないよう、心に刻(きざ)んでおきたいものです。


コメント一覧

tokinosekimori-kitaiwahara
@umikazegafukubasho さんへ
いつも(ブログ)寄ってくださりありがとうございます。
私も海風吹く場所さんのブログを読んで、いつも何か感じますかと聞かれても、何もうかびません。
ですから、つぎのコメントがいつもすごいなぁと思っていました。(若いのに…。きっと私よりは若いはずです。)
今回の話しが心に少しでも残ってくださったのなら、うれしいです。私はダメダメなのですが、文章を書いていると、自分でも思っていないような内容になることが多くなりました。
変な話し、見切り発車しても、ちゃんと誰かが結論を用意してくれているので、安心して、たのしみながら書いています。
ダメダメな私の心を、浄化する働きがあるのかもですね。
次のブログでは、ダメな自分をちりあげたいど
tokinosekimori-kitaiwahara
@storyteller コメントありがとうございます。許すということは、ほんとうは自分を許すこと。
この言葉を入れるつもりは最初、実はありませんでした。
でも、この言葉が頭に浮かんできて、この言葉を入れなさいと言われている気がして…。
自分の直感を信じてみました。🙁
umikazegafukubasho
お人好しでいることは、簡単にできることではないです。
心がキレイでないと出来ない。
どうしても感情があるから、騙されたと思ったり、わざと傷つけられたと分かったときには許せないと思ってしまいます。
だけど、許せないと思い続けることで抱えてしまう感情は、自分で自分の感情を責めたり、他の人までも疑うような行為に至ってしまうことがあります。
お腹の中に、そんな感情の塊を持ち続けると、常に思い出して何度も嫌な思いをすることを経験しました…
今回のお話は、そういう結末になるだろうとは思いましたが、最後まで読んで泣きそうでした。
全ては相手ではないんですよね。
自分がどうあるかだと思います。
どうしたいと思っているのかをちゃんと理解できたら、許そうと思わなくても手放せるんだなぁって改めて感じました。
貴重なお話をありがとうございます🙏
Unknown
おはようございます。
気になっていた続きのお話、意外のようだけれど想像のできた結末でした。
ゆるすということは、ほんとうは自分をゆるすということ。
深い言葉です。でも、その通りだと思います。
相手の反応がどうであれ、自分自身が呪縛から解放されることが
一番望むことなのかもしれません。
今日も心に残るお話をありがとうございました。
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「日記」カテゴリーもっと見る