すでに水筒の水もほとんど空になり、のどの渇きはひどくなるばかり。
そこで近くのサトウキビの茎を軍刀で伐採し、茎をかじり水分を吸うが、甘すぎるのと口内が荒れているためか、とてものこと渇きを癒すどころではなかった。
夜明け前に、H兵曹がどこからか、あるいは破壊された民家の貯水槽の底にでも僅かに溜まっていたものであろうか、水を探し出してきて、私たちの水筒に満たしてくれた。
もちろん、何枚も重ねたガーゼでこしても茶緑色をしていたが、食料は乾パンのみで、水がなくてはとうていのどを通ってくれない代物だ。
この時の水のありがたさは、今以って忘れることが出来ない。
ともかく、これでわずかながら飢えと渇きをしのぐことが出来たのであった。
そのあと私たちは、暑い日中は熱帯樹林の中に身を隠し、日が沈むと再び東へ東へと敵占領域内深く侵入していったのだった。
あわよくば敵の機動舟艇か小舟を奪取するか、またはイカダを組んで島を脱出し、北に進路をとれば、北マリアナ諸島のアナタハン、ザリガン、パガンなどの島に行くことも不可能ではない、と考えた。
確かバガン島には、不時着用の滑走路があり、海軍の警備隊も少数ながら駐留しているはずである。
私たちにも一縷の望みがわき、さらに前進することにした。
(父井手次郎の手記を基にしているので、「私」の記載は父井手次郎を指す。)
徳川おてんば姫(東京キララ社)
そこで近くのサトウキビの茎を軍刀で伐採し、茎をかじり水分を吸うが、甘すぎるのと口内が荒れているためか、とてものこと渇きを癒すどころではなかった。
夜明け前に、H兵曹がどこからか、あるいは破壊された民家の貯水槽の底にでも僅かに溜まっていたものであろうか、水を探し出してきて、私たちの水筒に満たしてくれた。
もちろん、何枚も重ねたガーゼでこしても茶緑色をしていたが、食料は乾パンのみで、水がなくてはとうていのどを通ってくれない代物だ。
この時の水のありがたさは、今以って忘れることが出来ない。
ともかく、これでわずかながら飢えと渇きをしのぐことが出来たのであった。
そのあと私たちは、暑い日中は熱帯樹林の中に身を隠し、日が沈むと再び東へ東へと敵占領域内深く侵入していったのだった。
あわよくば敵の機動舟艇か小舟を奪取するか、またはイカダを組んで島を脱出し、北に進路をとれば、北マリアナ諸島のアナタハン、ザリガン、パガンなどの島に行くことも不可能ではない、と考えた。
確かバガン島には、不時着用の滑走路があり、海軍の警備隊も少数ながら駐留しているはずである。
私たちにも一縷の望みがわき、さらに前進することにした。
(父井手次郎の手記を基にしているので、「私」の記載は父井手次郎を指す。)
徳川おてんば姫(東京キララ社)