「カルテ開示手数料、無料~1万円…施設で差」という見出しで、読売新聞が、【患者がカルテなどの診療記録の開示を求めた際、病院側が徴収する手数料には無料から1万円まで施設によって差があること】について、疑問視する記事を掲載した(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100109-00001112-yom-soci)。
読売の調べによると、186施設中、【119施設(64%)は、コピー代などの実費負担のみで手数料は無料だったが、67施設(36%)では別に手数料を徴収していた。手数料の金額は、1万円(税別)が3施設、5000円台が9施設、3000円台16施設、2000円台15施設、1000円台8施設。16施設は行政機関の開示手数料と同額(300円)かそれに近い額だった】という。
読売は、【2005年4月施行の個人情報保護法により、診療記録の開示は医療機関の義務とされている。同法や厚生労働省の指針は、費用を徴収できるとしているものの明確な基準はなく、高額な手数料は患者の知る権利を妨げるとの指摘もある】と問題視している。
この記事自体は非常に重要な問題を指摘しており、カルテ開示のあり方について、必要時間や費用などもまでも盛り込んだガイドラインの策定が必要だろう。
で、問題は、カルテ開示をされない人がいることについてもぜひ、触れてほしいなっていうこと。
皆さん、ご存知でしたか、刑務所に在所している際に、病院にかかった場合、カルテは開示されないんですよ~。
どう思いますか?身柄を拘束されているうえに、そこでけがをしても、病気をしても、その診断状況について明らかにされないって、怖くないですか?
もちろん、刑務所の虐待などを理由として損害賠償を請求する場合には、証拠保全の手続きをとれば、カルテを開示させ、コピーをとることができます。
しかし、刑務所を出た後で、その刑務所内の治療経過を次の病院に示したうえで、治療を受けたいというような場合には、証拠保全の手続きはとれませんから(証拠保全は訴訟などを起こすことが前提の手続き)、普通に個人情報保護法に従って開示を求めるしかないのです。
ところが、行政機関の保有する情報の公開に関する法律が、45条1項で、
【前章の規定は、刑事事件若しくは少年の保護事件に係る裁判、検察官、検察事務官若しくは司法警察職員が行う処分、刑若しくは保護処分の執行、更生緊急保護又は恩赦に係る保有個人情報(当該裁判、処分若しくは執行を受けた者、更生緊急保護の申出をした者又は恩赦の上申があった者に係るものに限る。)については、適用しない】
と規定してあることを口実にして、刑務所側はカルテの開示をしない。
そして、刑務所の決定に不服を述べても、「情報公開・個人情報保護審査会」は、刑務所の言い分を認めているのが現状だ。
では、皆さん、なぜ、開示しなくてもよいのか、理屈を考えてみてください。
【刑の執行に係る保有個人情報】に当てはまるかどうかが、問題になるわけですが、治療に関する情報が【刑の執行に係る】といえるかは、大きな疑問があります。
この点、ある開示請求事件における刑務所側の主張は、
【刑の執行等に係る保有個人情報を開示請求手続の適用除外とする法45条1項の趣旨につき,刑の執行等に係る情報を開示請求の対象とすると,請求者以外の者が請求者の前科の有無を確認する手段として当該請求者本人に開示請求をさせる可能性を否定できず,受刑者等の社会復帰又は更生保護上問題になることから同規定が設けられたものであるとした上で,本件開示請求に係る保有個人情報は,特定の個人が行刑施設に収容されている,又は収容されたことがあることを前提として作成されるものであることから,刑の執行等に係る保有個人情報に該当するため,法45条1項の適用除外規定に該当する旨説明する。また,被収容者の医療情報については,法の開示制度とは別個に,本人に診療結果等の説明を行うほか,個々の施設長の判断により,必要に応じて外部の医療機関に,秘密の保持を前提として提供するなどしている旨説明する】
というものです(http://www8.cao.go.jp/jyouhou/tousin/h18-k01/k001.pdf)。
これを受けて審査会は、
【法45条1項の趣旨については,諮問庁の説明のとおりであると認められる。
そして,被収容者の健康の維持・管理は,適切な刑の執行に不可欠の要素と言えるので,被収容者の医療情報は,それが刑の執行そのものに関する情報ではない場合であっても,刑の執行に必然的に付随する重要な事務に関する情報であり,また,上記の前科の有無を確認するための情報として用いられるおそれがあることも否定できないことから,法の適用除外とされる「刑の執行に係る保有個人情報」に該当するものと認められる。
したがって,本件対象保有個人情報は,法の開示請求手続等の規定の適用を受けないものと認められる】
と判断した。
しかし、この説明には致命的な問題がある。
委員であった弁護士上村直子さん、教授の稲葉馨さん、新美育文さん、お分かりですか?
カルテというのは、本人の健康に関する情報ですから、原則としてアクセスできてあたりまえであり、本人にとって弊害が生じるような場合についてのみ、アクセスを禁じることができるというのが価値判断となるはずだ。
したがって【刑の執行等に係る情報を開示請求の対象とすると,請求者以外の者が請求者の前科の有無を確認する手段として当該請求者本人に開示請求をさせる可能性を否定できず,受刑者等の社会復帰又は更生保護上問題になることから同規定が設けられたものである】という部分の是非が問題になる。
ここは完全に牛のウンチだ。
だってね~、刑務所に入ったことを証明させるには、在所証明書というものがあり、運転免許が失効した場合の手続きに関する警察のウェブサイトには、
【△ 在所証明書(原本)
* 複数の施設で拘束されていた方は、他の証明書も必要になる場合があります。来庁する前に運転免許センターにご連絡ください。】
などと書いてある。
カルテなどをとらせなくても、こっちを取らせれば済むだけのことでしょう。
結局は、カルテを開示しない合理的な理由は説明できないってことだね。
本当のところは、誤診したなどといちゃもんをつける輩が出てくることを恐れているのかもしれないけれども、それを言いだしちゃ、弁護士だって弁護できないよ…。
【追記:この点について、端的に虐待隠しのためではないかとのご指摘あり。それが根っこにあっての一般的な本音の弊害論なのかもしれませんね】
社会復帰を前提に刑務所での時間を過ごさせるとしたら、この非人道的な扱いはその目的からは大いにはずれているって思うのはオラのみでしょうか。
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★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
★「News for the People in Japanを広めることこそ日本の民主化実現への有効な手段だ(笑)」(ヤメ蚊)
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読売の調べによると、186施設中、【119施設(64%)は、コピー代などの実費負担のみで手数料は無料だったが、67施設(36%)では別に手数料を徴収していた。手数料の金額は、1万円(税別)が3施設、5000円台が9施設、3000円台16施設、2000円台15施設、1000円台8施設。16施設は行政機関の開示手数料と同額(300円)かそれに近い額だった】という。
読売は、【2005年4月施行の個人情報保護法により、診療記録の開示は医療機関の義務とされている。同法や厚生労働省の指針は、費用を徴収できるとしているものの明確な基準はなく、高額な手数料は患者の知る権利を妨げるとの指摘もある】と問題視している。
この記事自体は非常に重要な問題を指摘しており、カルテ開示のあり方について、必要時間や費用などもまでも盛り込んだガイドラインの策定が必要だろう。
で、問題は、カルテ開示をされない人がいることについてもぜひ、触れてほしいなっていうこと。
皆さん、ご存知でしたか、刑務所に在所している際に、病院にかかった場合、カルテは開示されないんですよ~。
どう思いますか?身柄を拘束されているうえに、そこでけがをしても、病気をしても、その診断状況について明らかにされないって、怖くないですか?
もちろん、刑務所の虐待などを理由として損害賠償を請求する場合には、証拠保全の手続きをとれば、カルテを開示させ、コピーをとることができます。
しかし、刑務所を出た後で、その刑務所内の治療経過を次の病院に示したうえで、治療を受けたいというような場合には、証拠保全の手続きはとれませんから(証拠保全は訴訟などを起こすことが前提の手続き)、普通に個人情報保護法に従って開示を求めるしかないのです。
ところが、行政機関の保有する情報の公開に関する法律が、45条1項で、
【前章の規定は、刑事事件若しくは少年の保護事件に係る裁判、検察官、検察事務官若しくは司法警察職員が行う処分、刑若しくは保護処分の執行、更生緊急保護又は恩赦に係る保有個人情報(当該裁判、処分若しくは執行を受けた者、更生緊急保護の申出をした者又は恩赦の上申があった者に係るものに限る。)については、適用しない】
と規定してあることを口実にして、刑務所側はカルテの開示をしない。
そして、刑務所の決定に不服を述べても、「情報公開・個人情報保護審査会」は、刑務所の言い分を認めているのが現状だ。
では、皆さん、なぜ、開示しなくてもよいのか、理屈を考えてみてください。
【刑の執行に係る保有個人情報】に当てはまるかどうかが、問題になるわけですが、治療に関する情報が【刑の執行に係る】といえるかは、大きな疑問があります。
この点、ある開示請求事件における刑務所側の主張は、
【刑の執行等に係る保有個人情報を開示請求手続の適用除外とする法45条1項の趣旨につき,刑の執行等に係る情報を開示請求の対象とすると,請求者以外の者が請求者の前科の有無を確認する手段として当該請求者本人に開示請求をさせる可能性を否定できず,受刑者等の社会復帰又は更生保護上問題になることから同規定が設けられたものであるとした上で,本件開示請求に係る保有個人情報は,特定の個人が行刑施設に収容されている,又は収容されたことがあることを前提として作成されるものであることから,刑の執行等に係る保有個人情報に該当するため,法45条1項の適用除外規定に該当する旨説明する。また,被収容者の医療情報については,法の開示制度とは別個に,本人に診療結果等の説明を行うほか,個々の施設長の判断により,必要に応じて外部の医療機関に,秘密の保持を前提として提供するなどしている旨説明する】
というものです(http://www8.cao.go.jp/jyouhou/tousin/h18-k01/k001.pdf)。
これを受けて審査会は、
【法45条1項の趣旨については,諮問庁の説明のとおりであると認められる。
そして,被収容者の健康の維持・管理は,適切な刑の執行に不可欠の要素と言えるので,被収容者の医療情報は,それが刑の執行そのものに関する情報ではない場合であっても,刑の執行に必然的に付随する重要な事務に関する情報であり,また,上記の前科の有無を確認するための情報として用いられるおそれがあることも否定できないことから,法の適用除外とされる「刑の執行に係る保有個人情報」に該当するものと認められる。
したがって,本件対象保有個人情報は,法の開示請求手続等の規定の適用を受けないものと認められる】
と判断した。
しかし、この説明には致命的な問題がある。
委員であった弁護士上村直子さん、教授の稲葉馨さん、新美育文さん、お分かりですか?
カルテというのは、本人の健康に関する情報ですから、原則としてアクセスできてあたりまえであり、本人にとって弊害が生じるような場合についてのみ、アクセスを禁じることができるというのが価値判断となるはずだ。
したがって【刑の執行等に係る情報を開示請求の対象とすると,請求者以外の者が請求者の前科の有無を確認する手段として当該請求者本人に開示請求をさせる可能性を否定できず,受刑者等の社会復帰又は更生保護上問題になることから同規定が設けられたものである】という部分の是非が問題になる。
ここは完全に牛のウンチだ。
だってね~、刑務所に入ったことを証明させるには、在所証明書というものがあり、運転免許が失効した場合の手続きに関する警察のウェブサイトには、
【△ 在所証明書(原本)
* 複数の施設で拘束されていた方は、他の証明書も必要になる場合があります。来庁する前に運転免許センターにご連絡ください。】
などと書いてある。
カルテなどをとらせなくても、こっちを取らせれば済むだけのことでしょう。
結局は、カルテを開示しない合理的な理由は説明できないってことだね。
本当のところは、誤診したなどといちゃもんをつける輩が出てくることを恐れているのかもしれないけれども、それを言いだしちゃ、弁護士だって弁護できないよ…。
【追記:この点について、端的に虐待隠しのためではないかとのご指摘あり。それが根っこにあっての一般的な本音の弊害論なのかもしれませんね】
社会復帰を前提に刑務所での時間を過ごさせるとしたら、この非人道的な扱いはその目的からは大いにはずれているって思うのはオラのみでしょうか。
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★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
★「News for the People in Japanを広めることこそ日本の民主化実現への有効な手段だ(笑)」(ヤメ蚊)
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