【台湾では、1998年に取調べの全過程について連続してテープ録音し、必要があればビデオ録画することが刑事訴訟法に規定された。これは、1つの人権蹂躙事件(王迎先事件:台北市内で起きた銀行強盗事件に関し、王迎先氏が被疑者として取調べを受け、捜査官から暴行を加えられたことを苦に自殺した事件。自殺直前に真犯人が逮捕されていた。)を契機に制度化されたものである。
このように日本に先行して実際に取調べの録音録画を行っている台湾については、2004年に日弁連の視察が行われているが、取調べの録音録画制度が導入されて10年近くになることから、制度の運用状況ならびに運用上の問題点を視察調査することが、今回の日弁連視察の目的であった。
視察初日は、台北律師公会の律師たちと意見交換を行い、刑事弁護に携わる律師が感じている問題点を指摘してもらった。
そこでは、①内政部の調査局や童大事件を扱う警察の部署では、取調べの全過程を録音録画するが、それ以外の警察では録音のみしか行われていない点、②実際の取調べが始まる前の「事前のコミュニケーション」については録音録画の対象となっていない点、③録音録画の質に問題がある等の問題点が指摘された。
これらの問題点を意識しながら捜査機関の視察を行った。
まず、警察に対しては、台北中内と苗栗県の2カ所の地域を訪れ、録音録画システム、その運用状況に中央と地方で違いがあるかどうかを視察した。録音録画システム自体は統一約な基準はないものの、概ね取調室内の被疑者の上半身を映し出すカメラが1台設置され、部屋の外にあるモニターで様子を確認することができるようになっていた。音声については、各警察によって部屋の外で聞くことができるか否か扱いに違いがあった。録音録画まで行うのは、錘師たちの指摘どおり重大事件や争いが生じることが予測される事件に限られていることが判明した。
また、「事前のコミュニケーション」については録音録画の対象としておらず、その際自白のメリット等を教えることもあるとの発言もあった。
次に、検察を訪れ、城調室の様子を見学した。日本の検察とは違って、予審判事のイメージに近く、取調室は警察のそれとは大きく異なり、法廷と同じような造りになっていた。検察での取調べについては全過程を録音録画するということであった。検察官に録音録画制度が導入されたことで取調べに弊害が生じなかったか尋ねたところ、支障はまったくなかったとの返事があり、自信すら示していた。
さらに裁判所では、実際に証拠として提示された録画物を再生していただいた。音声だけでは被疑者の様子がわからないが、映像をみると飲酒か薬物摂取の影響を受け気怠そうにしている様子が克明に記録されており、被疑者の精神状態に問題があることがよくわかった。
視察した各機関はいずれも取調べの録音録画制度を高く評価していた。
特に印象的だったのは、捜査機関が、録音録画制度が導入されても取調べが困難になったことはなく、むしろ取調べ技術が向上し、被疑者・被告人から取調時に暴行を受けた等の訴えも減ったと肯定的な意見を開くことができたことである。
今回の視察により取調べの録画録音のメリットが弁護側のみならず捜査側にも十分あることがわかり、また実際の運用上の問題点も聞くことができた。】(日弁連委員会ニュース2006年8月1日号)
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このように日本に先行して実際に取調べの録音録画を行っている台湾については、2004年に日弁連の視察が行われているが、取調べの録音録画制度が導入されて10年近くになることから、制度の運用状況ならびに運用上の問題点を視察調査することが、今回の日弁連視察の目的であった。
視察初日は、台北律師公会の律師たちと意見交換を行い、刑事弁護に携わる律師が感じている問題点を指摘してもらった。
そこでは、①内政部の調査局や童大事件を扱う警察の部署では、取調べの全過程を録音録画するが、それ以外の警察では録音のみしか行われていない点、②実際の取調べが始まる前の「事前のコミュニケーション」については録音録画の対象となっていない点、③録音録画の質に問題がある等の問題点が指摘された。
これらの問題点を意識しながら捜査機関の視察を行った。
まず、警察に対しては、台北中内と苗栗県の2カ所の地域を訪れ、録音録画システム、その運用状況に中央と地方で違いがあるかどうかを視察した。録音録画システム自体は統一約な基準はないものの、概ね取調室内の被疑者の上半身を映し出すカメラが1台設置され、部屋の外にあるモニターで様子を確認することができるようになっていた。音声については、各警察によって部屋の外で聞くことができるか否か扱いに違いがあった。録音録画まで行うのは、錘師たちの指摘どおり重大事件や争いが生じることが予測される事件に限られていることが判明した。
また、「事前のコミュニケーション」については録音録画の対象としておらず、その際自白のメリット等を教えることもあるとの発言もあった。
次に、検察を訪れ、城調室の様子を見学した。日本の検察とは違って、予審判事のイメージに近く、取調室は警察のそれとは大きく異なり、法廷と同じような造りになっていた。検察での取調べについては全過程を録音録画するということであった。検察官に録音録画制度が導入されたことで取調べに弊害が生じなかったか尋ねたところ、支障はまったくなかったとの返事があり、自信すら示していた。
さらに裁判所では、実際に証拠として提示された録画物を再生していただいた。音声だけでは被疑者の様子がわからないが、映像をみると飲酒か薬物摂取の影響を受け気怠そうにしている様子が克明に記録されており、被疑者の精神状態に問題があることがよくわかった。
視察した各機関はいずれも取調べの録音録画制度を高く評価していた。
特に印象的だったのは、捜査機関が、録音録画制度が導入されても取調べが困難になったことはなく、むしろ取調べ技術が向上し、被疑者・被告人から取調時に暴行を受けた等の訴えも減ったと肯定的な意見を開くことができたことである。
今回の視察により取調べの録画録音のメリットが弁護側のみならず捜査側にも十分あることがわかり、また実際の運用上の問題点も聞くことができた。】(日弁連委員会ニュース2006年8月1日号)
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