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今日の筆洗

2018年11月25日 | Weblog

 <若き亜細亜(アジア)の黎明(しののめ)に命輝く新日本>。「日本万国博覧会行進曲」の歌い出しである。大阪万博の「世界の国からこんにちは」は知っているが、はて、そんな歌あったかと首をひねる人がほとんどだろう。一九四〇(昭和十五)年に東京で開催予定だった万博のテーマ曲のようなものである▼紀元二千六百年の奉祝事業として、その一年に東京五輪、札幌冬季五輪、合わせて万博までやってしまおうという計画だった。大胆というか無謀である。果たして時局の緊迫化と財政難を受け、すべて中止となる▼大阪市が二〇二五年万博の開催地になったのに縁起が悪いか。誘致はめでたい一方で、五輪や万博で活力、国際アピールという戦前からの古い発想がいつまで通用するのかと少々心配にもなるのである▼二〇年の東京五輪・パラリンピック、続いて二五年の大阪万博とくれば、高度成長期のドラマの再放送を見る気分である。なるほど少し見たい。が、いずれも青春期の日本にふさわしい事業、物語であり今の日本にそれが似合い、本当に活力となり得るのか▼経済効果二兆円。大阪を元気に。そう聞けば、成功を願うが、七〇年万博の熱狂を期待する方が無理だろう▼テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」というのか。未来という言葉があのころに比べ、必ずしも魅力的に聞こえない。そういう難しい時代の万博である。

 
 

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今日の筆洗

2018年11月24日 | Weblog

 一人の若者が土をこねているうちに、女の人形ができた。古代の大王は大いに気に入り、たくさんつくるよう人々に、命じる。それは「埴輪(はにわ)」と名付けられた。詩人の茨木のり子さんの創作である。ラジオドラマとして書いた作品『埴輪』だ▼穴でできた目や口、ユーモラスなポーズ…。素朴で、親しみも感じる造形の数々は、なんのために作り出されてきたかについて、謎も多いらしい。想像力をかき立てよう。ドラマでは、抑圧された若者が、埴輪づくりを機に創造に目覚め、自由を求めるまでになる▼仁徳天皇陵として宮内庁が管理する大山(だいせん)古墳について想像力を刺激するような発表があった。宮内庁と堺市の発掘調査で、周辺部の堤に土管状の円筒埴輪がびっしり並び、精巧な石敷きがあったと分かった▼研究者からは桁違いの労力という声があるそうだ。堤にまで石敷きがあるのは異例で、円筒埴輪は約七千本も並ぶ計算になるという▼一日二千人が働いても古墳築造に十五年以上かかるという試算があったが、それ以上労働力が必要だったようだ。大掛かりな築造の現場が浮かび上がる▼日本最大の前方後円墳として知名度は高いが、謎は多い。宮内庁が立ち入りを制限し調査は限られている。だれが被葬者かさえ議論がある。なぜこれほどの規模なのか。ドラマのような逸話があるのではないか。続きが知りたくなる。

 
 

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今日の筆洗

2018年11月21日 | Weblog

 携帯電話のない時代の話である。作家の山口瞳さんが顔見知りだった出版社の女性社員が会社の外で公衆電話を使っているのを見かけた。後になって、母親が病気で日に何度も電話しなければならなかったと知る▼同じ会社の男性社員。いつもハイヤーで自宅に送ってくれるが、到着するとハイヤーを帰し自分は電車で帰っていく。二人の行為について山口さんは意見は分かれるだろうと書いている▼そうかもしれぬ。何本かの私用電話や帰りのハイヤーに便乗したところで問題なかろうと考える人もいるだろう。正当化する理由はいくらでも見つけられる。それでも公私の区別を付け、そうしなかった二人を山口さんは「信頼される社員」として挙げている▼「信用できぬ代表取締役会長」の話となる。逮捕された日産自動車のカルロス・ゴーン容疑者。子会社に対し、複数の高級住宅を海外に購入させ、それをただで使っていた容疑が新たに出てきた▼経費削減の「コストカッター」で鳴らしたが、自分にだけは甘いカッターだったとは。日産をV字回復させた人の地位と評判はA字で落ちていく▼ジャンボ宝くじが何本も当選したような巨額の給料にも満足できず、なお会社のお金に手を出したのか。<欲深き人の心と降る雪は積もるにつれて道を忘るる>。日本とは長い付き合いだが、この古い狂歌は覚えなかったとみえる。

 
 

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今日の筆洗

2018年11月20日 | Weblog

 路上で子どもがしくしく泣いている。通りがかった男が声を掛ける。「どうした、えっ、おとっつあんが病気なのにお金がなくて故郷に帰ることができないんだって…」▼気の毒な話に人が集まってくる。男が子どもの持つ大量のカミソリに気がつく。聞けば売り物をつい持ち出してしまったという。男が集まった人に提案する。「かわいそうだよ。みんなでこれを買って汽車賃をこさえてやろうよ。いい品だよ」▼これが実は真っ赤なウソ。かつての「泣(な)き売(ばい)」というやつである。人情に付け込んで、商品を売るとは悲しいではないか▼今なら誰も買うまいが、小欄、「泣き売」に一杯食った。米国でのこんな話である。車のガソリン切れで立ち往生した女性。現金がなくて困っているとホームレスの男性がなけなしの二十ドルをはたき、ガソリンを買ってくれた。感激した女性がネットで話を広め、男性への寄付を呼びかけると短期間に約四千万円集まった…▼昨年十一月二十七日付の当欄で紹介したが、これがウソだった。女性とホームレス役の男性は知り合いで、ガソリン切れも二十ドルも全部作り話。二人は最近、逮捕されたが、手の込んだ現代版「泣き売」とは油断ができぬ▼人情噺(ばなし)「文七元結(ぶんしちもっとい)」まで引き、よい話として紹介したのがお恥ずかしい。谷川俊太郎さんの詩の一節が浮かぶ。「美談は泣きながら疑うことを誓う」

 
 

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今日の筆洗

2018年11月19日 | Weblog

 酔った藩士の刃傷事件を反省し、ある藩が禁酒を宣言した。門の前には番屋を置き、酒の出入りを固く見張る。古典落語の「禁酒番屋」である。五代目柳家小さんが酒を実にうまそうに口にする場面が懐かしい▼無論、禁を破る不届き者もでてくる。ある藩士に頼まれた酒屋が菓子屋になりすまし、カステラの箱にとっくりを忍ばせ、持ち込もうとするが、番屋で箱を開けろと迫られる。「なんだ、このとっくりは。かようなカステラがあるか」「へい、今度、手前どもの店でできた水カステラでございます」。作戦は失敗する▼見抜けぬ「水カステラ」ではなかったはずだ。日本航空の男性副操縦士が乗務前の過剰飲酒で英警察当局に逮捕された問題である。副操縦士はアルコール感知器に呼気をちゃんと吹きかけない方法で社内検査をすり抜けていた▼安全を売る航空会社の検査である。こんな子どもだましの「水カステラ」が通用したとは情けない▼同社ばかりではなく、他の航空会社でも、機長の飲酒による運航の遅れが相次いでいる。緊張や不安を強いられる職場であることは想像できる。検査の厳格化はもちろんだが、そのカステラに手を伸ばしたくなる原因と心の対策も急がねばなるまい▼「オイ、ちゃんと操縦しろよ」「なに、操縦しているのはおまえだろう」。酒にまつわるジョーク集で見つけた。今は笑えない。

 
 

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今日の筆洗

2018年11月17日 | Weblog

 「進化論」のダーウィンは後悔の言葉を残しているという。<私の仲間たちの生き物に対して…よいことをしてやれなかった>。ウイリアム・デイビス編『ベスト・ワン事典』に教わった▼地中のミミズから赤道直下の鳥たち、さらに植物まで、実に幅広く、生物を研究した生物学者である。人類史に残る成果を人にもたらした半面、生き物にはお返しができなかった。そんな思いだろうか▼それでは、われわれは、生き物に何を返しただろう。世界自然保護基金(WWF)が最近発表したリポートに驚く。一九七〇年から四十年余りで地球上の脊椎動物の数は、60%も減っているのだそうだ▼特に中南米が顕著なのだという。生息環境が悪化したり、失われたりというのが大きな理由だ。気候変動もそこに加わる。リポートによれば、地球が「大加速時代」に入っているのだという▼人口、水やエネルギーの利用量、漁獲の量、消失した熱帯雨林の広さなど、環境に厳しい多くの要素がそろって、過去にない急な右肩上がりを示している。野生生物の急減はその結果だ▼同じ問題をテーマにする生物多様性条約第十四回締約国会議(COP14)もエジプトで開かれる。さんざん生き物の世界を利用してきたわれわれに、どんなよいことができるのか。これまでの不明を反省しつつ、加速すべきは危機意識だとわが身に言い聞かせる。

 
 

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今日の筆洗

2018年11月16日 | Weblog

 憂うつだった<私>は、一個のレモンを手にした時から、幸せを感じる。梶井基次郎の代表作『檸檬(れもん)』にある有名なくだりだ。<つまりはこの重さなんだな…この重さはすべての善いものすべての美しいものを重量に換算して来た重さである…>▼鮮やかな黄色と手の中に収まる大きさ、形、手触り、そして高揚した心を思いながら、その重さに想像力を働かせてみる。そんな場面だろうか。何グラムかは知れない。軽くも、とてつもなく重くも思える<この重さ>である▼重くなったり、軽くなったり、解釈の余地があってはならない重さの定義が、約百三十年ぶりに変わるのだという。フランスでの国際度量衡総会で「キログラム」の定義変更が諮られる▼変更となれば、日本国キログラム原器は来年、お役御免になるらしい。一メートルや一秒などは、すでに定義に膨大な数字が登場し、人の実感から懸け離れてしまった▼簡単に「原器の質量」で定義されてきたキログラムは残された大物のようだが、極小分野の科学の進展などで、誤差を排除する必要が生じていたという。物理学の「プランク定数」で記述されるそうだが、直感からは懸け離れている▼時代の要請はよく理解できる。が、物理学の言葉で書かれる新定義に、何ともしれないよそよそしさを感じる。少なくともレモンのあの重さを表現するのには向いていないだろう。

 
 

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今日の筆洗

2018年11月14日 | Weblog

 米国では、大学一年生のことを「FRESHMAN」(フレッシュマン)と呼ぶ。以下、二年生は「SOPHOMORE」(ソフォモア)、三年生は「JUNIOR」(ジュニア)、四年生は「SENIOR」(シニア)。数字を使わずに表現する▼興味深いのが二年生の「ソフォモア」の語源。一説によるとギリシャ語の賢さ(SOPHO)と愚かさ(MOROS)を組み合わせた言葉らしい。賢さで成功するか。愚かな失敗をするか。分かれ目になる大切な時期という意味かもしれぬ▼けがもあったが、上出来の「フレッシュマン」の一年だった。大リーグ、エンゼルスの大谷翔平選手。アメリカン・リーグの最優秀新人(新人王)に選出された▼規定打席、規定投球回数には届かなかったものの、ベーブ・ルース以来の投打二刀流のインパクトが米国でも評価されたのだろう▼さて来年の二年目。「ソフォモア・スランプ」とはデビュー一年目に活躍をした選手が二年目に不振に陥ること。いわゆる「二年目のジンクス」である▼来年は打者に専念するそうだが、相手も研究してくるだろう。「一番難しいのは継続することだ。去年できたのだから、またできると知らぬ間に気が緩む」。かつてのドジャースの名将ウォルター・オルストンの野球格言。世界一の野球選手を目指し、「賢さ」を選ぶ若者には不要な助言だった。

 
 

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