1955年の総選挙で当時の鳩山一郎首相の民主党は過半数を確保できなかった。少数与党である▼政権を担う者にとって少数与党は悪夢だろう。野党の協力がなければ法案は成立しない上、不信任案が出れば、野党の賛成多数で可決される危険もある▼民主党はこの状況をどう打破したか。自由党との保守合同を模索した。民主党の三木武吉総務会長は長年の政敵、自由党の大野伴睦総務会長を説得。2人は犬猿の仲だったが、国のため保守の大同団結をと涙ながらに訴える三木に大野も応じ「ともに力を合わせようではないか」-。いささか講談めく自民党結成の経緯である▼その自民党が総選挙での大敗で少数与党に転落した。公明党と合わせても過半数は遠く、野党側の一部の協力を得なければ国会運営はにっちもさっちもいかない▼石破首相が協力を求めたい相手は躍進した国民民主党で、政策ごとの部分連合を考えているそうだが、選挙中、政治とカネの問題で自民党をさんざん攻撃してきた玉木代表がおいそれと自民党に手を貸せるかどうか。日本維新の会にしても同じだろう▼今回の野党側への説得は策士の武吉でも音を上げるか。そもそも自民党、「1強時代」にあぐらをかいて野党側の言い分に耳を貸さず一方的な国会運営が目立っていた。虫の良いお願いはかなうか。「驕(おご)り」のツケをここでも払わされている。
金の切れ目が縁の切れ目。金のなくなったときが、人間関係の切れるときであるということ-と手元の辞典は説明する▼太宰治の小説『人間失格』でも、この俚諺(りげん)が語られる。「金が無くなると女にふられるって意味、じゃあ無いんだ。男に金が無くなると、男は、ただおのずから意気銷沈(しょうちん)して、ダメになり、笑う声にも力が無く、そうして、妙にひがんだりなんかしてね、ついには破れかぶれになり、男のほうから女を振る」▼金の枯渇で即離別でなく、金を失った者がダメになり縁が切れる場合もあるらしい▼金欠でダメになるなよと励ます金にも見える。あす投開票の衆院選で、自民党が「裏金問題」で非公認とした候補が代表を務める党支部に2千万円を支給したと共産党機関紙がすっぱ抜いた▼公認候補の支部へは公認料500万円と活動費1500万円の計2千万円なのに対し、非公認候補側への2千万円は全て党勢拡大目的の活動費だそう。「裏公認料」含みと野党は攻め、自民は党の政策PRなどに使い候補の選挙には使わぬから妥当と言う。政策PRと選挙活動は区別できるものなのか。非公認候補側が総額1500万円なら騒がれなかったかもしれぬ▼似た俚諺に「愛想づかしも金から起きる」がある。金で不信を招いた党は愛想をつかされるのか、それともいま一度信じてもらえるのか。民意はじきに示される。
秋の野球が日米ともにおもしろい。プロ野球セ・リーグはベイスターズがジャイアンツを負かして7年ぶりの日本シリーズに駒を進めた▼リーグ3位のベイスターズがリーグ優勝のジャイアンツをうっちゃる。ファイナルステージの6試合はいずれも白熱した展開で野球の妙味を堪能した。大リーグのナ・リーグでも東地区3位ながらワイルドカードで勝ち上がったメッツが大谷さんのドジャースを苦しめた▼もうひとつ、番狂わせが起きるかもしれぬ「ゲーム」が今、行われている。野球でいえば七回に入ったあたりか。今度の日曜日に激戦の決着がつく。もちろん、衆院選である▼共同通信の情勢分析によると、どうやら自民党が苦戦しているようで単独過半数を割る可能性があるそうだ。公明党も伸び悩み、与党での過半数さえ微妙な情勢という。立憲民主党に勢いがあると伝える▼政治とカネの問題があったものの、さすがに与党で過半数は維持するだろう-。そんな解散前後の「下馬評」が怪しくなってきているらしい。岸田さんの後を受けてマウンドに上がった石破さんも自民党批判の連打を食い止め切れないか▼「天下分け目」の総選挙が球場の半分程度の入りの投票率では寂しかろうて。チケットは無料。見逃す手はない。第一、有権者は観客では決してなく、試合…失礼、国の行く末を決めるプレーヤー自身である。