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今日の筆洗

2024年10月31日 | Weblog
グリム童話の「死に神のお使いたち」は若い男が死に神を助ける話で、死に神はお礼にこんな約束をする。「おまえの寿命が終わるときは前もって使いを出して教えよう」。だが、ある日のこと。死に神が突然にやって来て、男に告げた。「おまえの寿命は終わりだ」-▼約束の使いなんて来なかったと男が怒ると、死に神はこう言った。「使いはちゃんと出した。熱が出なかったか。目まいはどうだ。耳鳴りや痛風、歯の痛みも。全部おれの使いだ」▼それが寿命を警告する使いだとしても、人はなかなか気づかないのだろう。2011年の東日本大震災による福島第1原発事故。あれは原発の危険を伝える「お使い」であっただろうに。東北電力は女川原発(宮城県女川町、石巻市)2号機を13年7カ月ぶりに再稼働させた▼東日本大震災の被災地にある原発の再稼働はこれが初となる。安全を最優先するというが、心配性はどうも落ち着かない。万が一、大事故が起きれば。不安が拭いきれぬ▼電力の安定供給のためという事情は分からぬでもない。それでも13年前を忘れ、原発にすがる道を歩むことに、あの死に神が浮かんでしまう▼電力、経済、地域振興という事情の中で、どんな「お使い」が来てもわれわれは気がつかないらしい。いや、気づかないふりをしているだけかも。突然、「死に神」がやって来ないことを祈る。

今日の筆洗

2024年10月30日 | Weblog
 <ねろねろ坊や 今すぐねんね ココがやって来て 食べちゃうぞ>。スペインの「ナナ」(子守歌)にこんな歌詞があるそうだ。「ココ」とは正体不明のおばけのことらしい▼鵜野祐介さんの『世界子守唄紀行』によると、どこの国の子守歌にもおばけがよく登場するようだ。東北地方の「モッコ」、韓国の「トッケビ」、スコットランドの「クリスティ・クレイク」、フランスの「狼(おおかみ)男」。早く寝ないとおばけが来るよと子どもをおどかすのは世界共通か▼この人が貼り絵で描いたおばけは子どもをよく寝かしつけたが、そういうおどしとはまるで関係がない。だから、あのおばけは子どものよい友人になれたのだろう。ロングセラー『ねないこ だれだ』などの絵本作家せなけいこさんが亡くなった。92歳▼せなさんの絵本を寝る前に読んでもらい、あるいは子どもに読み聞かせた方はどれぐらいいらっしゃるか。赤いお口の愛きょうのあるおばけが懐かしい▼「おばけの せかいへ とんでいけ おばけになって とんでいけ」-。『ねないこ だれだ』は最後、夜ふかしをした女の子がおばけと夜空へと飛んでいく▼子守歌の「食べちゃうぞ」のおどしじゃなくて、おばけと一緒に空を飛ぶという楽しい気分や夢心地が、子どもを眠りの世界へと上手に誘(いざな)うことができたのだろう。せなさん、おばけと夜空にいらっしゃるか。








今日の筆洗

2024年10月29日 | Weblog

 1955年の総選挙で当時の鳩山一郎首相の民主党は過半数を確保できなかった。少数与党である▼政権を担う者にとって少数与党は悪夢だろう。野党の協力がなければ法案は成立しない上、不信任案が出れば、野党の賛成多数で可決される危険もある▼民主党はこの状況をどう打破したか。自由党との保守合同を模索した。民主党の三木武吉総務会長は長年の政敵、自由党の大野伴睦総務会長を説得。2人は犬猿の仲だったが、国のため保守の大同団結をと涙ながらに訴える三木に大野も応じ「ともに力を合わせようではないか」-。いささか講談めく自民党結成の経緯である▼その自民党が総選挙での大敗で少数与党に転落した。公明党と合わせても過半数は遠く、野党側の一部の協力を得なければ国会運営はにっちもさっちもいかない▼石破首相が協力を求めたい相手は躍進した国民民主党で、政策ごとの部分連合を考えているそうだが、選挙中、政治とカネの問題で自民党をさんざん攻撃してきた玉木代表がおいそれと自民党に手を貸せるかどうか。日本維新の会にしても同じだろう▼今回の野党側への説得は策士の武吉でも音を上げるか。そもそも自民党、「1強時代」にあぐらをかいて野党側の言い分に耳を貸さず一方的な国会運営が目立っていた。虫の良いお願いはかなうか。「驕(おご)り」のツケをここでも払わされている。


今日の筆洗

2024年10月28日 | Weblog
江戸後期の随筆「譚海(たんかい)」にこんな話がある。どこかの山の中に「風穴」と呼ばれる場所がある。広さ七間(約12メートル)というからかなり大きな穴である▼この穴の中に石を投げ入れると不思議な現象が起きる。突然、風が吹き、何日もやまない。大きな石を投げ込むと、風はさらに強くなる▼総選挙の結果に日本国中に吹き荒れる強い風を想像する。自民党の政治に腹をすえかね、よほど大きな石を風穴に投げた人がいるらしい。しかも、大勢の人が列をなして投げ込んだか。自民党は大敗した。「政治とカネ」の不祥事を受け、自民党に対し、はっきりと「ノー」を突きつける大風が吹いた。政権は大きく揺らいでいる▼大風の出どころは「政治とカネ」の問題ばかりではあるまい。経済、社会保障、少子化。長年、日本の抱える難問に成果もよい兆しも見いだせない自民党の政治に有権者はしびれを切らし、大きな変化と新たな道を求めたのかもしれぬ。将来の不安の中で自民党の政策もまた信用を大きく失っているのだろう▼岸田さんが辞め、石破首相で総選挙に打って出ればご祝儀相場も手伝ってそれほどは負けないはず-。衆院解散前の自民党の見通しは甘く、強い大風が分からなかった。それもまた、おごりのせいである▼風を吹かせたあの穴に最初に石を投げ込んだのは誰か。国民を侮り、緩んだ自民党自身に他なるまい。
 
 

 


今日の筆洗

2024年10月26日 | Weblog

金の切れ目が縁の切れ目。金のなくなったときが、人間関係の切れるときであるということ-と手元の辞典は説明する▼太宰治の小説『人間失格』でも、この俚諺(りげん)が語られる。「金が無くなると女にふられるって意味、じゃあ無いんだ。男に金が無くなると、男は、ただおのずから意気銷沈(しょうちん)して、ダメになり、笑う声にも力が無く、そうして、妙にひがんだりなんかしてね、ついには破れかぶれになり、男のほうから女を振る」▼金の枯渇で即離別でなく、金を失った者がダメになり縁が切れる場合もあるらしい▼金欠でダメになるなよと励ます金にも見える。あす投開票の衆院選で、自民党が「裏金問題」で非公認とした候補が代表を務める党支部に2千万円を支給したと共産党機関紙がすっぱ抜いた▼公認候補の支部へは公認料500万円と活動費1500万円の計2千万円なのに対し、非公認候補側への2千万円は全て党勢拡大目的の活動費だそう。「裏公認料」含みと野党は攻め、自民は党の政策PRなどに使い候補の選挙には使わぬから妥当と言う。政策PRと選挙活動は区別できるものなのか。非公認候補側が総額1500万円なら騒がれなかったかもしれぬ▼似た俚諺に「愛想づかしも金から起きる」がある。金で不信を招いた党は愛想をつかされるのか、それともいま一度信じてもらえるのか。民意はじきに示される。


今日の筆洗

2024年10月25日 | Weblog
「泳ぐ宝石」と称され、観賞魚として世界で愛されるニシキゴイは新潟県の旧山古志(やまこし)村(現長岡市)のあたりが発祥地とされる▼山間地で雪深く、冬は平野部との往来が途絶することもままあった。冬のタンパク源確保のため、豊富な雪解け水で棚池を造りマゴイを育てた。突然変異で模様のついたコイが生まれると人々は交配を重ねた。名産のニシキゴイは、食までを案ずる豪雪地帯だからこそ生まれた▼旧山古志村が一時、全村避難を余儀なくされた新潟県中越地震から一昨日で20年。震度6強の揺れに見舞われ、道路も寸断され集落が孤立した山古志には当時、ニシキゴイの海外の買い手が約40人おりパニックに陥る人もいたそう。ニシキゴイ約20万匹が死滅したという▼帰村希望世帯が全て戻るまで3年2カ月かかり、人口はこの20年で3分の1の700人余まで減ったが、ニシキゴイの生産・輸出は再興され久しい▼旧村外の長岡市に居を構えながら、山古志で生産を続ける人もいる。産地が「ヤマコシ」であるからこそ世界の人は高く買ってくれるらしい▼突然変異で名産誕生の機をもたらしたマゴイは、今も山古志で供されている。鯉(こい)こくなどのコース料理を出すという宿に電話すると、ちょうど今ごろからが旬で身も引き締まっているそう。「泳ぐ宝石」の祖にして、豪雪にも震災にもくじけぬ人々が愛する味である。
 
 

 


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2024年10月24日 | Weblog
米大手ITのアマゾン・コムの創業者ジェフ・ベゾスさんは10代のころ、米ハンバーガーチェーンのマクドナルドでアルバイトをした経験がある。パテを焼いていたという▼「1イン8」とはマクドナルドの宣伝文句で事実かどうかは分からないが、米国民の8人に1人がマクドナルドで働いた経験があるという。陸上競技のカール・ルイスさんや映画「スター・ウォーズ」の俳優マーク・ハミルさんもマクドナルドでバイトしたことがあるそうだ▼マクドナルドでのバイト経験が大激戦の米大統領選挙の焦点になってきたとは大げさか。民主党のカマラ・ハリス副大統領。やはり、学生時代にマクドナルドでバイトをしたといい、レジなどを担当したそうだ▼これを「うそだ」というのが共和党のトランプ前大統領で、ハリスさんの勤務記録が残っていないという▼約40年も昔の記録がないからとウソと決めつけるのもやや無理な気もするが、トランプさんはこだわり、当て付けか、先日はマクドナルドのドライブスルーで接客するパフォーマンスまで見せた▼マクドナルドが選挙戦のキーワードになっているのは激戦州で労働者票の行方が勝敗を分けるためだろう。バイト経験で労働者層出身の苦労人をアピールするハリスさんに対し、庶民のふりをしているだけと批判するトランプさん。「大衆の味」まで奪い合いになっている。
 
 

 


今日の筆洗

2024年10月23日 | Weblog

 秋の野球が日米ともにおもしろい。プロ野球セ・リーグはベイスターズがジャイアンツを負かして7年ぶりの日本シリーズに駒を進めた▼リーグ3位のベイスターズがリーグ優勝のジャイアンツをうっちゃる。ファイナルステージの6試合はいずれも白熱した展開で野球の妙味を堪能した。大リーグのナ・リーグでも東地区3位ながらワイルドカードで勝ち上がったメッツが大谷さんのドジャースを苦しめた▼もうひとつ、番狂わせが起きるかもしれぬ「ゲーム」が今、行われている。野球でいえば七回に入ったあたりか。今度の日曜日に激戦の決着がつく。もちろん、衆院選である▼共同通信の情勢分析によると、どうやら自民党が苦戦しているようで単独過半数を割る可能性があるそうだ。公明党も伸び悩み、与党での過半数さえ微妙な情勢という。立憲民主党に勢いがあると伝える▼政治とカネの問題があったものの、さすがに与党で過半数は維持するだろう-。そんな解散前後の「下馬評」が怪しくなってきているらしい。岸田さんの後を受けてマウンドに上がった石破さんも自民党批判の連打を食い止め切れないか▼「天下分け目」の総選挙が球場の半分程度の入りの投票率では寂しかろうて。チケットは無料。見逃す手はない。第一、有権者は観客では決してなく、試合…失礼、国の行く末を決めるプレーヤー自身である。


今日の筆洗

2024年10月22日 | Weblog
『今昔物語集』に自分の出世のため上役の毒殺をたくらむ僧の話がある。「和太利(わたり)」という毒キノコをヒラタケと偽って食べさせる計略だったが、上役はこの毒キノコを食べ慣れていて効果がなかったという(「金峯山の別当、毒茸(どくたけ)を食ひて酔はざる語」)▼あくまでも平安末期の説話であり、毒の効かぬ人もいると信じてはなるまい。「和太利」とは毒キノコのツキヨタケのことだという▼シイタケなどと混同しやすいが、口にすれば嘔吐(おうと)と下痢に襲われる。小川真さんの『きのこの自然誌』(ヤマケイ文庫)によれば最初の口当たりは良いとか。なおさら怖い▼平安の昔から有名な毒キノコだが、令和の時代にはツキヨタケへの警戒も「今は昔」になってしまったか。徳島県阿南市の飲食店でキノコを鉄板焼きにして食べた複数の方が吐き気などを訴え、病院に搬送されたそうだ。地元の保健所で調べたところ、ツキヨタケだったという。お客さんの一人が山で採ってきたキノコを店に持ち込んだらしい。見間違えてしまったか▼漢字で書くと「月夜茸」。暗闇に置くとぼんやり光る、ちょっと不気味な性質があるそうだが、食用キノコと見分けるのは初心者には難しく、手を出さない方が賢明だろう▼注意のためこのキノコの別名を挙げておく。「オメキ」。食べると「おめく(叫ぶ)」ほど苦しいため、その名が付いたという。
 
 

 


今日の筆洗

2024年10月21日 | Weblog
夫に先立たれ、ロンドンでつつましく暮らす「ハリスおばさん」。ある日、家政婦をしていた先のお宅で「あるもの」と出会う。あまりの美しさにどうしてもほしくなる。「あるもの」とは高級服の「クリスチャン・ディオール」で仕立てたドレスだった▼映画にもなった米作家、ポール・ギャリコの『ミセス・ハリス、パリへ行く』。ドレスは高価な上、自分に似合うとも思えない。着ていく場所もないが、そのドレスが忘れられず、必死に働いて、お金をため、ついにパリのディオールへと乗り込む…▼物語には幸せな結末が待っているが、宇宙飛行士の皆さんはその高級ブランドの服をお気に召すかどうか。ディオールではなくイタリアの高級ブランド「プラダ」。プラダが有人月探査「アルテミス計画」のため共同開発に加わった宇宙服がこのほど公開された▼さぞ豪華なものがと想像すれば特別変わった宇宙服にも見えないのはシロウトの悲しさか。プラダの素材選びと縫製技術の確かさが生かされているそうだ。アポロ時代に比べ、柔軟性や安全性の高い仕立てになったと聞く▼米国主導の「アルテミス計画」では2026年9月以降に宇宙飛行士が月に降り立つ。日本人飛行士2人も月に行くことで日米両政府は合意している▼「プラダを着た」宇宙飛行士が楽しみな一方、「きっとお高いんでしょうね」と独りごちる。