東京新聞寄居専売所

読んで納得!価格で満足!
家計の負担を減らしましょう!
1ヶ月月極2950円です!
アルバイト大募集中です!

今日の筆洗

2024年11月13日 | Weblog
 政治家の女性問題と聞いてまず浮かぶのは自民党結成の立役者、三木武吉だろう。諸説あるが1946年の演説会でのことらしい。ライバル政治家が演説の中で武吉に4人の愛人がいることを暴露した▼この後、壇上に立った武吉さん、あわてず騒がず、こうやり返した。「4人ではなく事実は5人であります。(全員、老いているが)これを捨て去るごとき不人情は三木武吉にはできませんから、みな養ってはおります」▼浪花節な説明でむしろ、株を上げたそうだが、今の時代では考えられない。5人どころか1人でもそういう女性の存在が発覚すれば政治家には深刻な打撃となる。武吉と同じ讃岐出身の国民民主党の玉木雄一郎代表。知人女性との不倫関係が明るみに出て謝罪した▼先の総選挙で躍進した党の顔。「浮かれたところもあった」との説明に支持した方はがっかりしているだろう。同党が票を急速に伸ばしたのは給料の手取りを増やすという身近な政策に加え、穏健な保守層が今の自民党に感じにくい新鮮さや折り目の正しさを玉木氏の言葉に見たからである▼どなたにも過ちはある。なれど期待を集めたその玉木氏がいにしえの政治家めいた女性問題となれば裏切られた気分は大きくなる▼「一番近くにいる人を守れない人に国は守れない」。妻にそう叱責(しっせき)されたそうだ。おっしゃる通りでぐうの音も出なかろう。








今日の筆洗

2024年11月12日 | Weblog
作家の幸田文さんは14歳のときに父親の露伴から掃除の仕方を教わった。露伴の指導はかなり厳しかったようだ▼『父・こんなこと』によるとはたきの房の先が障子の桟(さん)ではなく紙に触れることを許さない。「おまえの目はどこを見ている」「埃(ほこり)はどこにある」とうるさい。文さんがへそを曲げると「できもしない癖におこるやつを慢心外道という」▼露伴の「はたき指南」より厳しい監視の目にさらされ、お小言と注文を頂戴することになるか。石破首相である。首相指名選挙では野党が一本化できなかったため、石破さん、なんとか当選できたが、少数与党に変わりはない。野党は自民党のはたきのかけ方ひとつにも目を光らせるだろう▼野党が束になれば与党は予算案も法案も通せない状況の中、いかに野党の理解と協力を得るか。自民党はわがまま勝手に国会を運営してきた1強時代が既に恋しかろう。国民民主党にしてもすべて与党の言いなりにはなるまい▼野党から多様な意見を聞いた上で、与野党間で丁寧に議論して、解決策を見いだす。そんな「熟議」の時代に入るのなら歓迎したいが、与野党の批判合戦と冷笑のはざまで「政治」がどこにも進めないような事態は避けたい▼問われているのは野党も同じなのだろう。抵抗だけではこれもまた国民の不興を買う。与党への適度な「はたき」のかけ方というのが難しい。








今日の筆洗

2024年11月11日 | Weblog
 「令和の米騒動」に「裏金問題」。無論、分かる。「もうええでしょう」もドラマのファンなので知っているが、「8番出口」が分からない。「はいよろこんで」とは何か▼いずれも今年の新語・流行語大賞の候補。リストをながめて落ち込む。世情に敏感であるべき稼業ながらまるで分からぬ言葉が年々増えてくる▼言い訳をすれば世の中の関心の先は昔と違って多岐にわたり、新語や流行語はさまざまな分野から生まれる。追い切れない▼知らなかった「8番出口」はヒットしたゲームのタイトルで、「はいよろこんで」はSNSで火が付いた歌らしい。ゲームやネット文化に疎い身は聞き慣れぬ言葉に「はて?」と戸惑うことになる▼大賞の行方はともかくも、相次ぐ闇バイトによる強盗事件を思えば「ホワイト案件」という新語・流行語の候補はもっと警戒の「脚光」を浴びていい。強盗の実行役を集める触れ込みの文句。高報酬で危険のない案件=ホワイトだといってネットで人を誘い、強盗の片棒を担がせる▼スーパーボウルのチケットを差し上げますと逃亡犯をおびき寄せた米国のおとり捜査を思い出した。「ホワイト案件」という言葉を言い出した方は流行語の考案者として表彰します-。その触れ込みで強盗の首謀者をおびきだし、お縄に…。すまぬ。あほうな空想が浮かぶほど危険な強盗の「流行」が心配である。








今日の筆洗

2024年11月09日 | Weblog
 水戸黄門こと徳川光圀は、初めてのマツタケ狩りで100本採ったそうだ▼同行者が「なかなか御機嫌よかりし」と日記に残した。水戸藩主を退き隠居してからの話。江戸詰めの藩主にもいくつか贈呈したという▼丹波の篠山藩は毎年恒例の殿様のマツタケ狩りの手順をマニュアル化していた。役人が藩の山林を下見し、多く生えた場所をいくつか見つけておく。当日まで見回り、盗掘を警戒する。藩主が堪能して帰ると、藩主が採って山の休憩場に置かれたマツタケを役人がかごに入れて封印し、担当者がかついで城の台所に運んだ(有岡利幸著『ものと人間の文化史 松茸(まつたけ)』)▼マツタケの季節も終わりが近いようだが、キノコ生産量日本一を誇る長野県で今季、採取に出掛けた人の遭難が相次ぎ、死者・行方不明者は直近6年で最多の8人に達した。痛ましい。マツタケは今年、豊作。山に入る人が増えたことも一因らしい▼採れそうな所を他人に秘し、単独行動する人が目立つ点も懸念される。マツタケは急斜面に出ることも多く、専門家は「たとえマツタケを見つけても、無理しないで」と言う。敵は、大丈夫と思いがちな自分自身か。家臣が事前に見つけてくれる殿様と違い、民は探索で自らを頼むしかないが、自分の身も守らねばならない▼<松茸や人にとらるゝ鼻の先 去来>。悔しくても、無事ならまた食べられる。

今日の筆洗

2024年11月08日 | Weblog
恐怖とは人が危険や常ならぬ状況に感じる情動である。死の恐怖、戦争の恐怖。人にとって恐怖は不快で遠ざけておきたいはずのものである▼恐怖漫画の巨匠、楳図かずおさんが亡くなった。88歳。不快なはずの恐怖。それを描く楳図さんの筆には引き込まれるのはなぜだろう▼こんな記憶がある世代は多いのではないか。小学生のころ、楳図さんの『へび少女』や『うろこの顔』を教室に最初に持ち込むのは女子の方でこれがやがてクラス中で「回覧」されていく▼持ち込んだ女子は怖くて独りでは読めないからみんながいる学校で読みたかったのかもしれぬ。楳図さんの描いたページは暗く、重く、奇妙な臭いや湿気まで含んでいるようで、独りで読んでいると後ろから誰かに見られているような気がしたものだ▼なぜ人は恐怖漫画やホラー映画にひかれるのか。恐怖を疑似体験し、生きていることを実感するためという説があるそうだが、楳図作品の場合はこう説明できるだろう。もちろん、怖いが、その不快さをはるかに上回る物語の展開の面白さがあったと▼楳図作品で一番怖い登場人物は誰か。『漂流教室』の「関谷」という人物は上位に入るだろう。タイムスリップした学校で子どもを支配する身勝手な大人である。化け物でも怪物でもなく、思わぬ状況に置かれた人間こそが一番怖い。これも楳図さんに教わったこと。

今日の筆洗

2024年11月07日 | Weblog
 大統領選挙に対する米国民の熱心さや思い入れというのは日本人には理解しにくいところもあるか▼『猫のゆりかご』などの米作家、カート・ヴォネガットが1972年の大統領選挙のことを書いている。共和党のニクソンと民主党のマクガバンが争った▼ヴォネガットはマクガバンを支持したが、結果はニクソン勝利。「(だからといって)アメリカは世も末、というわけではありません。わたしの考えではどんな人間も偉大になれる潜在的な可能性を持っています。ニクソンでさえ、もし、失脚したなら」(『ヴォネガット、大いに語る』)。支持者はライバル候補の勝利をどうしても許せぬものか▼民主党のハリス副大統領の支持者はヴォネガットと同じ苦々しい夜を過ごしているのだろう。米大統領選挙はトランプ前大統領が勝利した。国際協調より米国第一を訴える人がホワイトハウスに返り咲く▼勝敗のカギとなったのはやはり経済問題だった。苦しい暮らしの中、有権者は劇的な変化を求め、政策的にバイデン大統領とかわり映えしないハリスさんより、トランプさんの破壊力や無謀さのようなものに期待したかったのかもしれぬ。たとえ、それでウクライナ問題や気候変動などに目をつぶることになっても、である▼トランプさんの勝利で世界はどう変わるか。予測できないのがこの人の政治だったことを思い出した。

今日の筆洗

2024年11月06日 | Weblog
お酒の発明に関する、こんな説がある。人類が小麦などの穀物を栽培するようになったのはパンを作るためではなく、ビールを造るためだったのではないかというのである▼穀物の種子を発酵させてビールを造る方が製粉や製パンよりも容易だったはず-というのがビール説の根拠という。あくまで一つの説だが、おなかを満たすパンより悲しいことを忘れさせてくれるお酒の方が先かもというのは人間くさい▼<憂(うれい)あり新酒の酔(よい)に托(たく)すべく>夏目漱石。いやなことがあれば飲み、良いことがあればやっぱり飲む。遠い昔からこの国の人の心と体を慰めてきた「良き友」への朗報である。日本酒や本格焼酎などの「伝統的酒造り」が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録される見通しとなった。祝い酒がほしくなる▼<とろりとろりと今する酛(もと)は酒に造りて江戸へ出す>。米と麴(こうじ)をかき回す工程で、蔵人が歌う「酛すり唄」。酒造りの各工程では歌が欠かせなかったそうだ▼作業を鼓舞するほか、歌でその工程に必要な時間を正確に計っていたという。日本の酒造りは複雑な上に繊細。科学とは無縁な大昔から試行錯誤と舌で酒造りをここまで磨いてきたのだろう。その伝統と知恵が評価された▼世界は日本の酒に注目し、輸出も上向くが、国内での消費量は減っている。今回の登録が「憂いを払う玉箒(たまははき)」となるか。








今日の筆洗

2024年11月05日 | Weblog
米国のノーベル賞作家、トニ・モリスンさんは早起きで、コーヒーを入れ、朝日を見ることを日課にしていたそうだ。「それで(執筆の)スイッチが入るの」▼映画『レナードの朝』の原作者で英国の神経学者、オリバー・サックスさんの場合は毎朝の水泳。泳ぐことで「心と体にスイッチが入り」、欠かすことができなかったという▼やる気を起こすスイッチのようなものを自分で見つけられた人は幸せなのだろう。文部科学省の調査によると昨年度の小中学生の不登校は過去最多の34万人。不登校の理由で最も多いのは「学校生活にやる気が出ない」(32・2%)だった▼悩む子どものやる気のスイッチをポンと押してあげたいが、そんな便利なスイッチはないのかもしれぬ。スイッチとは誰かが押すものではなく、自分でこしらえる習慣のようなものだろう。朝日にせよ、水泳にせよ、気が乗らない日にも日課に取り組む合図のようなものが見つかれば、しめたものなのだが▼「生活のリズムの不調」を不登校の理由に挙げる児童生徒も多かった。朝は起き、夜ふかししない。学校へ行く習慣を身に付けるにはまず、ここからか▼動画サイト、SNS、ゲーム…。夢中になり、昼夜逆転なんて生活になってしまえば学校へのやる気などなかなか出まい。自分の子ども時代に魅力的な「遊び道具」がなくて良かったとつくづく思う。








今日の筆洗

2024年11月02日 | Weblog
中国ではトキは紅鶴(べにづる)とも呼ばれ、幸せを象徴するという。長く不明だった生息が中国で確認されたのは1981年。研究者らが捜し歩く途中、村からトキが消え家族が不幸になったと嘆くおばあさんがいたそうだ▼製鉄所ができ、村の木々も切られ、巣を作っていたトキも消えると夫は死に、不作が続き、家族はちりぢりになった…。全てはトキがいなくなったせいと説明するのは非科学的だが、トキ同様、環境の変化に適応できぬ人がいたのは事実なのだろう。捜索に加わった劉蔭増さんの著書『トキが生きていた! 国際保護鳥トキ再発見の物語』(桂千恵子訳)で知った▼新潟・佐渡で生まれたトキ16羽が中国に返還された。81年の生息確認以来、保護に取り組む中国から提供されたトキから生まれた子たち。日中の覚書は子の半数を中国に返すと定めており、8年ぶりの返還という▼返せるのも繁殖に無事成功したから。喜ばしいことである。何かと関係が緊張することが多い両国だからこそ、連携の意義は大きいのだろう▼劉さんの先の本は中国の子ども向けに書かれたという。「鳥にとってのきょうは、人にとってのあした」という言葉を教えている▼野生動物と人間は大自然のなかで競争しながらも、ともに生きている。相手がいなくなって、自分たちだけが生き続けることはできない-。国と国の関係もよく似ている。

今日の筆洗

2024年11月01日 | Weblog
 米国の文豪ヘミングウェーの代表作『老人と海』は1952年の発表。主人公の老漁師サンチャゴは大リーグの名門ニューヨーク・ヤンキースのファンである▼慕ってくれる少年相手に愛するチームの強さを語る。「ヤンキースを信じよう。なんたってディマジオがいる」(小川高義訳)▼ディマジオは強打の外野手。30年代のヤンキースのワールドシリーズ(WS)4連覇に貢献した大スターである。一時期、女優マリリン・モンローの夫だったことでも有名だろう▼もしもサンチャゴが今の世に生きていたなら、どんなに悔しがったことだろう。大谷翔平、山本由伸両選手が属するロサンゼルス・ドジャースがヤンキース相手のWS第5戦に勝ち、4勝1敗で頂点に立った▼特に大谷選手にとっては「ロスでWS制覇のパレードを何度も行う」と誓ってエンゼルスから移籍して1年目。いきなり制覇してみせるあたりかっこいい。WSでは本塁打こそなかったが、レギュラーシーズンでいずれも50を超す本塁打と盗塁を記録するなど、今年ドジャースで最も活躍した選手と言って差し支えなかろう▼来年は投打の二刀流が見られるかもしれない。ディマジオを擁したころのヤンキースのように、たて続けにWSを制するのは簡単ではなかろうが、きっとロスのファンはこう言ってくれよう。「信じよう。なんたってオオタニがいる」