ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

竹久夢二「風」…あくまで「ふぅ」です。

2011-04-20 16:16:24 | 着物・古布

 

まず、二枚の羽織をゲットしました。

片方は羽二重の紋付、残りはちょっとざらっとした織りのただの黒羽織。

 

最初に見た羽裏は「羽二重」の方、「一応『夢ニ風』をねらったわけねぇ」と思いました。

夢二ファンの方には申し訳ありませんが、私はあんまり好きな画家ではありません。

彼の作品で好きな絵、というのはありますが…。

まぁ私の好みなんかこの際どうでもいいんですが、この絵は最初おもしろいけどなぁ…と、

入手するにはちと迷いがありました。でも「ただの黒羽織」の方が出品され、

羽裏を見て入手決定したんです。つまり「姉妹品?」同じ構図です。

左が紋付、右が黒羽織。「絵」の腕前は左の方が上。右が左をまねたもの…だと思います。

 

    

 

以前にも同じ図柄の男物じゅばんを二枚ゲットしましたが、そのときは全く同じものでした。

記事はこちらです。よろしかったら…。

そりゃ型染めならばこの世に同じものが何枚あっても当たり前なんですけどね。

こういう図柄の「同じもの」って言うのは、なんか「フシギな縁」…みたいなものを感じるのです。

同じ「同柄」でも、今のようにすべて機械化されて、一日に何百枚何千枚という同柄のTシャツが

ばんばん作り出されるのとは違うわけで、人の手になる「同じもの」っていいますか…。

うまくいえないんですが、機械でバンバン作られたものは「クローン」っポイ感じ、

こういうものは、一枚ずつ染めた人の思いも腕前も違っていて「兄弟姉妹」という感じ…?

血が通ってる気がする、といったらいいすぎですかねぇ。

ともあれ、この「完全におソロじゃない」二枚、楽しいですよ。

この同じ絵ですが、輪郭、といいますか、大まかな図の部分だけは同じ、

細かいとこが、それぞれ違いがあります。

 

設定は「駅舎で待つ女性」です。これから旅に出るのか、里帰りするのか、はたまた「駆け落ち?」

いやそりゃちょっと考えすぎかもですが「疲れてるなぁ」と思うのは私だけでしょうか。

この伏せられた眼の部分、大切なとこだと思うんです。「何か思い煩うところ」アリ、ですよね。

下は寝ちゃってますわ。アップで比較してみましょう。

 

 

髪はわかりにくいですが、上は中に濃いグレーで髪の流れが入っています。下はただの真っ黒。 

着物の柄はほぼ同じですが、色はぜんぜん違いますね。

細かいところを比べてみると「粗さ」が目立ちます。

 

荷物は大きなバスケットです。列車が来るまでと読み始めた本が伏せられています。

手には傘、コートもなしですし「日傘」っポイですね。巾着型のバツグの柄も違いますが、

なぜか手の形や巾着の書き方、ハンカチのしわっぽいところなどは、

「写し」の下の方がいいような感じがします。

 

 

下の絵はナゼ不自然か…輪郭の線の太さが違うんですね。

またそれなりに薄い色を使っているところも多いのに、巾着や傘の絵の部分の輪郭はやけに濃い。

そいうところの粗さが、せっかくのこの絵のいいところを消してしまっています。

 

また背景の様子が違いまして、羽二重の方は色紙のように真ん中において、

ベンチや後ろの時刻表らしきもの、荷物を持つ風情などだけで「駅舎」を感じさせています。

写しのほうは、うしろに遠景の山、電柱やプラットホームらしき屋根などをシルエットで染めて、

より「鉄道・駅舎」ということを強調しています。

こういうところに走ってくるのは、やっぱり蒸気機関車が合いますねぇ。

 

 

 

もうひとつ、ベンチの端っこ右下、丸い重なったものは「菅笠」です。三枚もある。

その上は羽二重の方がもう少し先まで描いてあります。斜め掛けするバッグのようですね。

紐が三本…と思ったのですが、菅笠がありますから、これは「杖」でしょう。

下には、捨てられたタバコのパッケージと吸殻…芸が細かい…。

 

     

     

 

さて、それではここに荷物を置いて、画面からはみ出たところにいるのは誰でしょう。

笠はただの菅笠のように見えます。そうすると持ち主は「六部」か、もしくはお遍路さん。

「六部」は正式には「六十六部」、本来は日本全国六十六箇所に参拝して、経文を収める修行をする僧侶のこと。

江戸時代には、プロのお坊さんではなく一般の人もこれをするようになりました。

 

「浮世絵」などのように、この絵に元絵となるものがあるのかどうか、そこがわかりません。

落款らしきものも入っているのですが…いつもどおり「読めまへん」。

色が濃すぎてわからないので、黄色でなぞってみました。読める人ぉぉぉ、教えてください。

 

           

 

 

絵の内容…となると、こりゃ元絵を知らないので勝手に物語を考えるということになりますが、

女性はどうも「楽しい旅行」という感じがしません。年齢も30代半ばから後半くらい?

大きな荷物から見ると「離縁して実家に帰るところ」「追い出されて(おん出て)いくあてもないので

まず都会を目指そうかというところ」「周囲の反対押し切っての駆け落ち」…ロクな話がでませんね。

そんなことを思うのも、右側に描かれているのが「仏法」に関するものだから。

つまり、片や仏に帰依、信仰心をもっていわば「修行」や「参拝」の数を積む者、

片や俗世のしがらみに囚われている者…。これでは考えすぎですかねぇ。

 

今でも地方に行くと、こんな待合室があります。

私の住む町の駅も50年前は、木造の小さな駅舎で、改札の枠も黒光りしている木製で、

電車が止まるたびに、駅員さんが、両手にお客さまからの切符を受け取ってました。

入るときも、はさみをカチャカチャとならしながら待っていて、切符を差し出すとパチンと切ってくれました。

学校の帰り、たくさんの人が切符だ定期だと見せて通ると、たまに「あ、お客さん」と

呼び止められる人がいる…「定期の日付、切れてますよー」なんて。

あんなにたくさんの人たちを見ていて、よくわかるなぁと感心したものです。

いまや切符を買うのも機械、改札も機械…なんだか味気ないです。

 

件の羽織、羽二重の方が絵がいいのですが、羽織そのものはもう使い物になりません。

すっかり色がようかん色に焼けていて、全体がマダラ…角はすりきれ、紋はかすれてます。

羽裏だけきれいにはがしましょう。 

 


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10 コメント

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同じ図案 (otyukun)
2011-04-20 23:22:26
奇遇と言うか、大変珍しい出会いですね。
元の図案が同じで、型を作った工房が違っているのだと思います。
それぞれ一長一短があって個性の差を楽めます。
ずっと遠回りしてとんぼさんの所で再会。
二枚の運命だったのかも。
嬉しいお話です。
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Unknown (陽花)
2011-04-20 23:50:15
同じ構図でも配色が違うと雰囲気も
変わりますね。
見比べながら楽しみも倍ですね。
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夢二風でも、たのしませていただきました。 (えみこ)
2011-04-21 08:56:06
着物の柄やこまかなコーデはどちらが原作に近いのかしらと
想像してしまいました。
陰のある女性は今も昔もモテるのでしょうか。
構図が同じということは、このまれた柄ですよね。
夢二さんは手広くデザインをされた先駆けですから
きっと流行したんだろうなぁ。と勝手におもったり。
興味深いお話、ありがとうございます。
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お宝! (りら)
2011-04-21 14:27:30
とはこのことですねぇ!!
羽裏展覧会の折には、並べて展示してください~。

これ、この部分の絵だけを見ると緑着物の方がぐっと良い感じですけど、藤色着物の方、もしかして、両側に駅周辺風景が描かれてません??
この全体の構図を見ると、藤紫着物の方が古い物かな?っと思いました。
ホント、面白いですよねぇ。
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Unknown (とんぼ)
2011-04-21 21:27:44
otyukun様

なるほど、元絵から起こした型紙が違うのですね。
こういう出会いは、まーずめったにないので、
ヤッターという気分です。
実はあの「帆船じゅばん」、先日3枚目を
見つけました。人気柄だったんですね。
さすがに三枚目は買いませんでしたが、
今の時代、古くて残っているものは
「柄がよくてはやったもの」かな、
なんて思っています。
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Unknown (とんぼ)
2011-04-21 21:30:23
陽花様

二枚並べて「ここはこうだ、あっこっちはこうだ」と
楽しんでいます。
着物の色が違うだけで、ずいぶん感じがかわるものですね。
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Unknown (とんぼ)
2011-04-21 21:31:46
えみこ様

夢二かどうかもわからないのですが、
なんとなくそんなイメージですよね。
愁いを帯びた女性は、絵になるんですねぇ。
私にゃとんとご縁のない話ですー。
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Unknown (とんぼ)
2011-04-21 21:35:44
りら様

おっしゃるとおり、藤色のほうは、
写真も出してますが駅周辺があります。
このほうがイメージはわきやすいですよね。
シルエットで、きゅっとしまった感じも好きです。
着物そのもので言うと、緑の方が古いですが、
いい羽裏は使いまわしますからねぇ。
藤色の方が古いかもしれません。

呉服屋さんが気に入って、これつけて羽織を作れと、
いや、そりゃ本末転倒…。
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Unknown (天鼓)
2013-10-23 11:07:22
おもしろいですね-。
型染めで大まかなところは染めて、あとお顔とか、細かいところは描き足したんでしょうか。
写真に彩色したみたいな感じで。
構図とか着物の柄、持ち物や姿勢なんかが全く同じに見えるので、そういうところは型があったのかなあと思います。
同柄に出会うこと、ありませんが、やはり見ている数が違うのか、とんぼさんの運が凄いのか、とか思います。
返信する
Unknown (とんぼ)
2013-10-23 15:42:11
天鼓様

最初のコメントのotyukun様は、プロの染工房の方です。
元の同じ図案で、工房ごとに違う型をつくったのであろうと。
それぞれの工房での腕の差や、レベルの違い、
価格面での折り合いなどから、
こういう違いができるのでしょうね。
先日「3枚目」と遭遇したのですが、状態が良くなかったので
パスしました。
数見ていても、あまりないことです。
返信する

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