ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

晴れと褻(ハレとケ)

2005-12-25 15:51:17 | 着物・古布

お正月も近いので「晴れ着」です。といってもとんぼらしく「ボケ」でして
これはたぶん「花見用」の晴れ着だと思います。大ボケ、すみません。
紫のちりめんに桜と幔幕、幕にも華やかな柄が入っています。
かなり古いもので、たぶん幕末から明治くらいかと・・。
もうすっかり薄くなって、特に紫部分はむこうが見えそうなほどです。
経年の割りに「ヤケと色褪せ」はさほどでもないのですが、
布にチカラがありませんから、どこもキズはなくても着るのは難しいです。

桜と幔幕だけですが、色使いと図柄でとても華やかな印象です。
幕の向こうでは「飲めや歌えの・・・」いやいや、品のいい若奥様が
旦那様か舅・姑と赤い毛氈かなんかの上で、これまた朱塗りの杯など持ちながら
「今年の桜もよい桜でござりますなぁ」なんぞと・・って12月だっての。
すみません。お正月の晴れ着もあったのですが、これが一番手前で
出しやすかったもんですから・・。
これが全体写真、当然「お引きずり」ですね。若奥様と言ったのは
袖を切ってつめたあとがあるからです。元は振袖で、裾と同じ桜や幕の模様が
描かれていたと思われます。もったいな~~~い。



ふき綿こんもり・・すごいです。しまうのに盛り上がっちゃって、
それで一番上にしか乗せられないんです。



さて、ここで・・なんでお花見に「晴れ着?」なのでしょう。
それは・・。

まず「晴れ着」「晴れ舞台」「晴れ姿」などの「晴れ」って何でしょう。
私は昔「ぱーっと明るくて晴れ晴れしていること」と思っていました。
まぁあたらずと言えども遠からず・・なんですが、
要するに晴れやかだったり、にぎやかだったり、特別だったり・・
結婚式、七五三、パーティーその他モロモロめでたいことにぎやかしいこと、
つまり「非日常的」であることを「晴れ、ハレ」と言うんですね。

それに対して日常的、つまり朝起きて、ご飯食べて、仕事(学校)に行って・・
というように、いつもと変わらないことを「褻・ケ」と言います。
両方で「ハレとケ」といいます。セットものみたいですが・・・。
非日常の「ハレ」のときに着る華やかな着物だから「晴れ着」なんです。
昔は「お花見」に行くのも「晴れ着」を着た、と言うのは花見が特別だったから。
桜にまけないほど、いつもは着ないいい着物を着ておめかししたわけです。
俳句の季語では「花見のための晴れ着」のことを「花衣(はなごろも)」と
言います。お祝いごとでなくとも「晴れ着」なのは、年に一度の桜の盛り
僅か数日のイベントが「非日常」であったからです。

昔は今のように気軽に出かけるとか、イベントやお祭があちこちであるとか
誕生・入園卒園・入学卒業・誕生日・クリスマス・クラス会・歓送迎会など、
集まって祝うだの楽しむだのということが、今ほどありませんでした。
たとえば丁稚としてどこかのお店に勤めると(奉公といいます。住み込みです)
年に2回、正月とお盆の16日に1日だけ、実家へ帰ることが許されます。
日帰りです。勤めてすぐはありません。2~3年たってやっとです。
これを「薮入り」と言います。そのほかの363日は、休みなく働くわけです。

商家に限らず農民職人も同じです。侍は身分や役職によって休みはありましたが、
今のように「ゴルフに行く」だの「映画見に行く」だのという感覚で
ホイホイでかけるわけではありません。せいぜい釣りだとか、囲碁・将棋だとか。
もちろん多少の日々の楽しみ「晩酌」とか、湯に行くとかそういうことは
ありましたが、基本的に「起きて食べて働いて寝て・・」と、特別のことは
あまりないまま、淡々と続くのが当たり前、という暮らしでした。
そういう中で、たとえば嫁をもらうとか、桜を見に行くとか、芝居見物とか、
それはもうとんでもなく「非日常」だったわけです。
芝居見物などはめかしこんで、りっぱなお弁当を持参して、
朝早くからずっと、一日中芝居小屋で過ごしました。ちょっとした小旅行なみ。
個人的なことでなくとも例えば秋の収穫が終わり、村の鎮守さまでお祭をする
なんていうのも年に一度の大騒ぎ、だから一張羅を着こんで祭に行ったわけです。
昔は「非日常と日常」、ハレとケ、がはっきりしていたわけですね。

いまや「晴れ着」というと思い浮かべるのは「振袖」「リクルートスーツ」程度、
映画やお芝居を見に行く時の服装を「晴れ着」とはとらえませんね。
初めてのデートや、プロポーズのときの服は「晴れ着」じゃなくて「勝負服?」
こんなところからも晴れ着本来の意味は薄れて、単に「お祝いの時に着るもの」
という意味になっているし、晴れ着という呼び方すらあまりしませんね。
確かに結婚式や、卒業式などは、今でも「非日常」ではありますが、
感覚的に「ハレとケ」のコントラストが弱まっている気がします。
昔のように休まず働こう、遊ぶのはやめよう・・なんて絶対言いませんが、
「晴れ着」を着る時は、それを着るしあわせ、着ることになったプロセスで
お世話になったヒトへの感謝・・なんてことを感じながら着たいものです。

年末、この時期ならではの特別な日「非日常」があります。
「歳末大売出し!」「年末感謝セール!」「年忘れディスカウントセール!」
なんたって年に一度ですから!「晴れ着」はとーぜんGパンにスニーカー!
サイフをしっかり握って、おかーさんは「晴れ舞台」へと突入するのですっ!



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8 コメント

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はじめまして! (ぶりぶりぎっちょう)
2005-12-25 19:40:06
ぶりぶりぎっちょう(振振毬杖)、縮めて、ぶりと申します。 「erobow&mizuhoのお金かけずに着物遊び」、とんぼ様の最近のコメントから参りました。



こちらの開設以来の記事にざっと目を通しました。

調査が入念で、事実と感想をきっちり分けて書いてらっしゃるのには、感嘆しております。

時々おじゃまさせて下さいませ。



拙ブログ「振振毬杖の週末読書」も、8月に公開したばかりで、もっぱら読みちらした本などを中心に、時々、食い気のお話をはさんで、週末に記事をUPしております。  自己評価は、それがどうした!と、トホホな感じですが、ついでの折にでも覗いてやって下さいませ。 HNの由来については、プロフィールに載せております。



長い前置きでしたが、質問です。

このお花見の晴着は、上着だと思うのですが、中着、下着は、ないのでしょうか。(← 違っていたら、すみません。)

返信する
ようこそ! (とんぼ)
2005-12-25 20:27:29
はじめまして、とんぼです。



ぶりぶりぎっちょう様のコメントやHPはときどき

拝見させていただいておりました。

私のブログにおいでいただけて光栄です。



この着物ですが、残念ながら上着一枚の出品でした。

このくらいの着物ならば、多分3枚重ねで

あったろうと推測されます。きっと紫、赤、白の!

袖につめた跡・・と書きましたが、脇の袖付け下

10センチ弱のところに横一文字の縫い目が

あるのです。袖前側にそこまで柄があった、

と言うことだと思いますので、かなり豪華ですね。

きちんと重ねで残っていたら、さぞかし美しく

豪華であったろうと思います。でもそれだと

高すぎて買えませーん。



近頃は「重ね」をバラして売り出すことの方が

多いので、こちらとしては泣き笑い、です。



ただもう好奇心だけで、ここまできております。

まちがった記述などございましたら、

ご指南ください。よろしくお願い致します。



返信する
こちらでは初めまして。 (中村屋ダン之助)
2005-12-26 02:25:51
とんぼさん、こんばんは。



これは完全に「お引きずり」仕様ですね。いったい何時の時代なのでしょう?興味津々です。

そういえば時代小説の中では、お花見に飛鳥山に行く記述が多く出てきますが、日本橋から飛鳥山まではかなりの道程のはずです。いちど着物&徒歩で実践してみたいものですが、相方は速攻で断ってくるのでしょうね(笑)

まずは八丁堀から池之端までで実験してみますか。やっぱり「巻き羽織の同心」スタイルが王道ですかね??そうなると黄八丈の長着も要りますね~(爆)
返信する
ようこそ! (とんぼ)
2005-12-26 10:48:02
中村屋ダン之好助様



江戸ちり・・とよばれますが、正確には

幕末から明治のものまでそう呼ばれますし

江戸ももう少し古いと「麻」で「地味」ってのが

主流ですから、たぶん明治の商家のもの・・かな?

と、考えるのも楽しいものです。(ハズしても!)



黄八の長着に巻き羽織、いいですねぇ。

弁慶格子をちょいと尻っぱしょりで

お供したいものです。(私がやったら犯罪?)



黄八の古いものを探しているのですが

オークションでもいいものはなかなか出ません。

同心の皆様、着倒してしまわれた??

ハギレでもいいから・・とだんだんココロザシが

低くなっていく私です。





返信する
八丁堀 (なぎさ)
2005-12-26 15:58:03
八丁堀とか、池之端とか、良いですねえ。

わたしも江戸ものの小説大好きです。

池波正太郎、藤沢周平、山本一力、浅田次郎たくさん読んでいます。

特に藤沢周平は大好きです。

ところであの巻羽織ってどうしてああいう風に着るんですか?

いつも不思議に思っていました。

返信する
えぇとぉ~ (とんぼ)
2005-12-26 19:21:48
このあたりはダン之助さんの方が詳しいと

思うのですが、同心の羽織も普通のヒトと

同じ丈なのに、わざわざ裾をおりあげて

角帯に挟んで・・ということですね。

これは捕り物のときに動きやすいように、

また追跡のときに走りやすいように・・

ではなかったかと思います。

同心はいわばおまわりさんですから、

いざってときに、すばやく行動できるように、

だと思います。

返信する
同心スタイル (中村屋ダン之助)
2005-12-27 02:23:54
呼ばれて出て参りました、ダン之助です。



さて同心スタイルですが、格子の黄八丈に巻き羽織&雪駄ですね。

とんぼさんの仰るように羽織の裾を折り上げて角帯に挟むのですが、実際には刀を差していますから前だけです。これは他の武士と見分けをつけるためというのが定説です。

また着物の仕立てが女仕立てであるという説がありますが、正確には前身頃と衽の幅を狭く仕立てていたようです。つまり打合せが浅いわけです。裾も短かったようで、この方が素早く動けるからというのが理由のようです。
返信する
ありがとうございます。 (とんぼ)
2005-12-27 09:27:46
ダン之助様



出張ご教授、かたじけのうござりまする!

なるほど、他の武士との見分け・・なんですね。

女仕立て、というのは私もずっと不思議に

思ってました。必要性が思いつかないし

おはしょりのことを考えてしまったので・・。

前あわせが浅い・・要するに、ふつうとちがって、

前がはだけやすいほうが走れる、ということですね。

想像するとすぐわかる・・納得です。

マゲも同心は結い方がちがったそうですが、

パッと見てすぐに見分けがつく、同心とわかる、

そういうのって、今私たちが街中で制服の警官を

見ると安心するとか(車のときはドキッとする?)

そういう効果もあったのでしょうね。

勉強になりました。ありがとうございます!
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