ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

青海波柄の悶着

2010-07-26 16:58:14 | 着物・古布
写真は手持ちの半幅、上の二本が夏物、下の二本がそれ以外です。

またしても、よそ様のお話から…なんですが。(ゆんさまありがとですー)
えー、かいつまんでお話いたしますと、京都に京阪電鉄という路線があります。
そこの「京阪電鉄、祇園祭キャンペーン用のポスター」などのイメージキャラが
「おけいさん」で、10代の女性を起用しているそうで。
その今年のポスターで、浴衣を着たキャラ女性の帯が「青海波柄」、
それが逆さまに締められていた、ということなんです。
ニュースはこちらです。

この締め方について、なんじゃあれは、という声が上がったというわけですね。
なんでもそうですが、何かひとつのものについて、100人が100人、
1000人が1000人「YES」ということはないわけです。
この帯についても「若いからいいんじゃないの」とか「気にならない」というかたも
コメント欄などではいましたが、大多数は「違和感」を感じたり、
「おかしい」という意見でした。
私もそちらサイドで、どうにも見ていて落ち着かないというか、収まりが悪いというか。

このことについてちっと抜粋ですが、

>京阪電鉄広報担当によると、同社の祇園祭の広告物用の着付けを10年以上担当する
 40代の女性スタイリストが調整。「帯の文様を崩す流行に乗った。
 おけいはんの年齢設定は10代で、元気の良さをアピールしたかった」と、
 意図的に上下逆さとしたと強調する。

これがまたどうにも理解できません。
「帯の文様を崩す流行に乗った」…へっ?そんな流行ってあったの?
そもそもこういうものって、そういう流行に乗ったりするものなの?
「元気のよさをアピール」…柄を逆さまにするとなんで元気なの?

元々「青海波」柄は、新聞にもあるとおり「吉祥柄」とされています。
あれは「波頭の連なる様子」を図案化したものですが、
そもそも青海波は「波というものはとぎれることなく、次々と生まれ、ずっと続いていく」
というところから「終わりのないもの→永遠→代々続いていく」という意味です。
元気ナンタラの前に、柄の意味くらいわかってほしいし、
波を逆さまにして「元気」ってのは、ひょっとしてアタマから飛び込めってか?

もうひとつ気になったのは「ゆかたメーカーに問い合わせたら問題ないと言われた」
おおぉぉぉーーーい、だいじょぶかぁぁぁぁ。
ゆかたメーカーってどこよ、なにしてるとこ?
「聞くべきところに聞いてるかい?」「聞くときなんて聞いた?」

帯の柄というのにも、元々の原則、というか「そうなるもの」として、
「前帯は柄が横向きになる」ということがあります。
これは元々が丸帯から始まって、袋帯や昼夜帯など、日常的に使う帯が、
全部柄が帯に対して「縦」についているからです。
たとえば博多献上などの縞柄は、あれは「縦縞」です。
名古屋帯というものが考案されて、初めて「お太鼓柄」が生まれ、
この場合は、前帯もちゃんと柄が「縦向き」になったわけです。

こういうことは、決まっているとかいないとかではなく、
「そういうもの」なわけですね。
私たちはいちいち「前の柄が横むいちゃうじゃん」なんて思いません。
大事なのはうしろ、つまり「お太鼓にどう柄がでるか」です。
半幅帯の場合は、後ろはさほど気にしませんね。
それは半幅帯の結び方が、基本的な部分で柄の縦横をあまりきにしなくていい結び方が
多いからです。普通のお太鼓のように大きく場所も広がらないし、
こまかく結んだり広げたり、で形そのものを楽しむ締め方ですね。
だから半幅帯には、柄が縦のものもあり、また上下のあるものもあるわけです。

トップ写真の帯ですが、たとえばこの唐辛子柄、上下がないように見えて…
よく見ると、唐辛子の向きが多いのと少ないのと…です。
上が通常、下が逆さま。


         

    
またこの博多は「波柄」があります。これも上下反対だと、おちつきませんねぇ。


        

     
こういうものをさかさまにして「崩す」、という感覚はどうにも私には理解できません。
ゆかたメーカーが「問題ない」といったのは、半幅帯程度なら、別にどっち向いててもねぇ
だったんじゃないでしょうか。そもそも帯のことゆかたやに聞いてどーするの。
最初から「帯屋さん」に聞くべきでしょう。
なんだか会社も、スタイリストも、ゆかたやさんも、
みんながみんな、どっかズレてるし、どっかおざなりですよね。

あの記事のコメントには「(スタイリストは)ごめんなさいが素直にいえないから、
なんやかんやいってるのだ」…というようなものがありました。
何でも「ファッションだから」という言葉では、片付け切れないものが着物にはあります。
たとえば「冒険心」とか「打ち破って新しいものを」というなら、
それをするにもTPOがあると思います。
あれは1000年続く都の、一ヶ月かけて行う「祇園祭」という伝統行事のポスターです。
自分の仕事に誇りを持つということは、自分の思い通りのことを勝手にやる…
ということではないと思います。

着物が廃れてしまったがために、忘れられていることがたくさんあります。
イラストとかアニメとか、マンガやちょっとしたチラシのようなものとか…、
そういう中で、着物姿の場面で大きな間違い小さな間違いを
いろいろ見つけることがあります。着せ方が違うとか、夏なのに明らかに冬の装いとか、
今回のように柄があってないとか…。
そういうことは、本来それを作る人や描く人が、ちゃんと調べてから
描いたり撮ったりするべきものだと思うのですが、調べ方からしてなんかいい加減、
といいますか「思い込み」で、こんな感じ…と軽くやってしまっている気がします。

たとえば今の時期、夏祭りだの夏のバーゲンだの、
そういったチラシなどの、店員さんやお客さんのイラストで、
前のあわせが「死装束」になっているのを見かけます。
それも怖いですが、もっと怖いのは「どっちだっけ」と迷いもしないことです。
伝えないと伝わらない、知ろうとしないとわからない…。
このスタイリストさんの感覚が、あくまで「ファッションを仕事をする人の感性」なら、
それはそれで仕方のないことですが、勉強していないんじゃないかと、
疑われても仕方ないのではないか思います。

そして、それよりもなによりも「なんでこんな色柄のゆかたやねん、
なんでこの帯やねん、センスわるっ」というのが、私の個人的な感想です。へへへ。








コメント (16)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 伸子張りの工夫… | トップ | 川遊び »
最新の画像もっと見る

16 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ききょう)
2010-07-26 17:22:33
まさにおっしゃるとおり!
あの浴衣と帯のセンスはど~にもこ~にも…
伝統のよさも今っぽい思い切りもないですね。

元気の良さをアピールするなら
いっそのこと花魁浴衣か振袖浴衣で、ってまた物議をかもしますね。
返信する
Unknown (とんぼ)
2010-07-26 17:39:28
ききょう様

なーるほど「花魁ゆかた」、いーかも??
いやいや、ほんとに最近のセンスには
ついていけません。
なんでもっとさっぱりと浴衣らしい色柄に
ならないんでしょうねぇ。
うしろの鉾の色とかぶっちゃってるし…。
究極、キャラクター…いらないっ!?
返信する
Unknown (陽花)
2010-07-26 18:10:40
こんなにはっきり分かった青海波を
逆さまに締めるのは、やっぱり見た目
違和感がありますね。
元気の良さはモデルさんの顔だけで、
着物や帯には感じられなかったんです
けどね。
返信する
Unknown (とんぼ)
2010-07-26 18:32:58
陽花様

ほんとに!女の子だけで元気ですよね。
なんでこういうことを「ヘン」だと思わないのか、
その感覚がヘンです。
もっと細かーい青海波だったら、
また感じがちがうかもですが、
それにしたってわざわざひっくり返す意味がねぇ。
返信する
Unknown (ゆん)
2010-07-26 20:19:26
こんばんは!
今日、海に行ってたんです。
細かい波が、ほぼ同じ様子で途切れることなく次から次から押し寄せて、「ああ・青海波だなぁ。こんな様子を飽かず眺めて、あんな模様になっていったのかなぁ…。」なんて思いました。

 あんな過ちが、張り出されるまで問題にならなかったとしたら、恥ずかしい。そして、あのモデルさんがどんなに傷ついているかと思うと、やるせないです。

 ただ、あの浴衣と帯の取り合わせは さ~っぱりわかんないです。帯しか目につかない。なんだかすごい^^;

 ぁ。とんぼさん、『おうな』食べはりましたか~?
 私は 舅にやられて口には入りませんでした~(怒
返信する
ポスターとしての配色 (うまこ)
2010-07-26 23:23:23
浴衣と帯の配色は、
ポスター全体で見ると私は好きです。
とてもいいと思います。
だって、同じ調子の黄色と赤で統一されていて
とてもすっきりしているし、
元気印配色だと思うからです。
祇園カラーなのかどうかまでは不明ですが。

ついでに言えば、青海波という意味抜きにすれば
下に凸の白いラインは楽しく弾む
元気な気分にぴったりと思います。
これは感覚なので説明困難です。

ただ、意味のある文様だったのが
不幸の始まりでしたね。
ロココ模様とか、唐草とかだったらよかったのに・・・
このデザイナー、この事件をきっかけに、
何か学ぶことがあったらいいですね。
返信する
Unknown (じゅりあな)
2010-07-27 17:45:32
よりによって祇園祭のですからね~あれは誰がどう見てもおかしいですよ。
着物の事、全くわからない旦那ですら、『青海波っていう、扇型が連なったような模様あるじゃない、あれ吉祥柄なんだけど云々』って説明から始めて、今回の一件を話したら、『そりゃおかしいでしょ』って言うくらいですから、何のかんのと理由つけたって、“おかしい”ですよ。
帯の文様を崩す流行なんてあったんだ・・・へぇ知らなかった・・・って私も思いましたし。
私も古い人間の部類に入るのでしょうか???
やるなら他のチャンスでやってほしいです。
返信する
帯としての青海波 (うまこ)
2010-07-27 19:38:36
あとから気が付いたのですが、この青海波、帯としての向きがおかしいですよね。いくら半幅帯用だからと言っても、
本来の帯としては横向きが良いはずです。なぜなら帯用なら長い布のはずですが、それが短い方に波が流れているのでは、波がずっと続かず、吉祥でないですね。(だから今回運が尽きた?)

それに半幅帯は上下に縫い目があるので、縫い目を目標に上下を決めることが出来ないから、今回のような事態になることは予測可能。青海波の何たるかを知らない人ならフツーに犯す可能性のある失敗です。帯を作る人は注意して頂きたいです。(意味知らずに作ってんでないの?)

さらに言えば、模様の本来の意味を考えず単なる形、またはデザインと考えたこと。(洋服では考えないというのは、外国の文化なので無視しているだけで、本来おかしいことをしていても気づかないのです。よくありますが・・・)
例え、青海波の吉祥としての意味を考えなくても、ヒナギクにに海の波は合わないでしょう。色だけで選んだのでしょうね。それが間違いだと気づいて欲しい・・・

だからといってこのポスターは浴衣の宣伝ではないので浴衣のセンスを問うのはやや行きすぎではないかと思います。
返信する
Unknown (とんぼ)
2010-07-27 22:30:02
ゆん様

海、苦手だけど見ているのは好きですー。
暮らしの中の、何気ないものにも意味を見出して
楽しんだり喜んだりの柄にする…。
日本人ていいですね。
だからやっぱり、かわいそ…ですよね。

返信する
Unknown (とんぼ)
2010-07-27 22:32:28
うまこ様

色の取り合わせとか、そういうことは、
こりゃ個人的な好みですからねぇ。
おっしゃるとおり、スタイリストさんが、
学べることがあるといいですね。

吉祥柄、というよりは、夏だから「波柄」
のつもりだったのかもしれませんけれど、
新しい試みは何かと難しいものです。
返信する

コメントを投稿

着物・古布」カテゴリの最新記事