ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

縮緬と羽二重の2です。

2010-06-03 18:15:33 | 着物・古布
着物の写真をゆっくり撮る時間がありませんで…。
これは先日撮っておいたかたばみの花、草取りをしていたので、
抜いてしまおうと思ったのですが…かわいいっ、罪だねぇおまえは…と言いつつ残しました。

さて、先日の喪服の素材のお話しからの続きです。

昔は「人の移動」がほとんどありませんでしたから、
その地域で生まれその地域で暮らす…。
だからその地域の習慣や風習が、ずっと親から子へと伝わっていくわけです。
でも今は、物流も情報網も広がり、人間様の行動半径も広がって、
日本国中行ったりきたりです。
転勤族で東西南北、いろんなところへ行くとなれば
「ちりめん」の地域で「羽二重」を着ることも、またその逆もあるわけです。
また生活水準が上がりましたから、価値観も当然かわってきています。
それは「世の中のヒトの行き来、物流」が昔とかわったからという理由で、
当たり前のことであるわけです。自然な流れということでしょうか。

実は文化とかそういうものは、そうやっていろんなところで
まぜこぜになったりして変わっていくものなんですよね。
そういう中で「その地に根付くもの」として大切なものは、受け継がれていくわけです。
それは「物産」であったり「技術」であったり「祭事」であったり、
「行事」であったり「食文化」であったりします。
それはその地域の「歴史・伝統」を受け継いでいるにほかなりません。
だからそういうもが廃れ始めたとき、保存会ができて残そうとしたり、
残すためには、他国、地域のヒトの手をかりなければならなかったり…。
そういう現実も起きてくるわけですね。
それでも「これはここの地域のものだから」という意識がきちんと伝われば、
ただ漫然と消えたり、広がって境目がなくなったりはしないわけです。
惜しくも伝わらなかったもの、伝える相手がいなかったものが「絶滅」していくわけです。

いつもいうように「こうなったからそうなった」は、当たり前だと思うのです。
それをみんなが自然の流れの中で、感じていくことが大事だと思うのです。
何かひとつの情報や、あいまいなうちに「そうなんだ」と
消えたり変わってしまうのは、どうにももったいないねぇと思うわけです。

元々「なぜ関東は羽二重で関西はちりめんなのか」、

これについての明快な答えにであったことがありません。
これはまったくの私の考えですが、たぶん「文化の違い」であろうと思います。
カンタンに関東関西、と分けていますが、
じゃ静岡アタリは?名古屋は?と言われたら、私にはわかりません。
それでも大きく分けて、京の雅、江戸の粋、と言われます。
宮廷文化が長く根付き、帝のおわす京の都は「はんなり雅に」
新しくできた江戸には「将軍家のお膝元」として、武家文化を基礎とした
新しい文化が育っていきました。それが「質実剛健」の武家文化。

羽二重は近世に作られるようになったとされていますが、
ちりめんも前後してその技術が渡来しています。
どちらも「高級品」であったことにかわりはありません。
コレは感覚的なことですが、たとえば小紋のような柄でも、
京友禅などはたいへんに華やかですが、江戸小紋は地味ですね。
そういう違いで、武家ではつややかな光沢だけの美しさが好まれたのではないかと思います。、
また、男物の紋付は関東関西の区別なく、みなほとんどが「羽二重」です。
関東は男の紋服に倣ったのかもしれないと思っています。
まぁ、あくまで想像ですが…。

ちょっと脱線しますが、物語にもなった「伊達くらべ」というお話しがあります。
江戸の豪商「石川屋六兵衛の妻」と上方の豪商「那波屋十右衛門の妻」が、
互いにカネに糸目をつけぬ「衣装比べ」をしたそうです。
そのとき、那波屋の妻は真っ赤な繻子地に絢爛豪華な洛中図の刺繍という華やかな着物で臨み、
対して石川屋の妻は黒羽二重に南天の柄というあっさりしたもので、
最初は見るからに「上方の勝ち」と思われた…
ところが、その南天の実のひとつひとつが、全て珊瑚玉だった…これで江戸の勝ち。
その後、どちらも「贅沢しすぎじゃぁ」とお上からとがめられたというお話です。
このお話し、文化の違いをよく表していると思います。

さて、お話しを戻しまして…
元々喪服をきちんと用意する…なんていうこと自体が、
近代になってからですから、昔からそうだったわけではありません。
元々喪服は白から始まっていますが、これについては宗教上の理由もありますし、
またかつて日本人は今より生活水準は低いですから、
誰しもが「喪」に関するものを前もって用意できる状況ではありませんでした。

亡くなった人に着せる経帷子は、お通夜の間にひとりではなく複数の人数で、
縫い糸のお尻に玉を作らない糸で一晩で縫いあげたと言われています。
時には、喪主や遺族の着物も、その晩のうちに縫い上げたかもしれません。
染める手間のないただの白木綿の方が都合がよかったことでしょう。

武士の家なら、当主が「戦、或いは不祥事?」で突然亡くなることは考えられますから、
妻の心得として、いつも「白装束」は家族分用意していたかもしれませんが、
一般庶民では、いまのように嫁入りに持たせるなどは裕福な家庭の話だったと思います。
それに、庶民は絹を着られませんでしたから、みんな木綿です。
まぁ「葬儀」ということについても、今のようなカタチが当たり前になったのは
近年も近年のこと。先日ちょっとある方とメールでお話ししたのですが、
ほんの少し前まで、遺族はともかく近所の人がみな「それなりの喪の衣装」かというと
そうでもなかったりしてました。
実父の葬儀のとき、とりあえず黒いスカートに黒いセーターなんてオバサンもいました。
戦後、なんとか復興し始め、みんながそこそこの暮らしができるようになったころに、
着物は廃れ始めましたから、たとえば「親族は黒喪服」というのも、
また「参列者はお通夜は地味な着物に黒羽織」とかそういうしきたりが
やっと浸透してまもなく、着物じゃなくて洋装…になり始めた感じがします。
あっという間に「お通夜から全員洋装の真っ黒け」になってしまったわけですね。


ともあれ、今はちりめんが増えている…ということは耳にしますが、
そのちりめんも、昔のようなどっしりちりめんではなく
「精華風」などと呼ばれる、錦紗風のちりめんが多いようです。

さてさて、そんなわけで喪服が「雨にも縮まず、羽二重より重厚で、黒がさえる」から
ちりめんがいいよ…というのは、わかります。
でも、これもお店のHPに書いてあったのですが、
「一生の間でもそんなに着ないものに、白っぽく見える羽二重より…」
ん~~そうじゃなくて、何回着るかではなく「何のために着るか」です。
いわゆるブラックフォーマルは、ポリの安いものもありますが、
それなりに年をとればイチキュッパ…というわけにも行かないでしょうし、
洋装にはデザインなどの流行もあったり、何より「サイズがわり」があります。
私も今のブラックフォーマルは三着目です。
着物は嫁入りの時にいいものを揃えてておけば、サイズが変わったら縫い直せばいいのです。
昨日「染め工房遊さま」からコメントいただきましたが、
染め替えること、だってできるわけです。
同じちりめんを勧めるにしても「関東は羽二重と言われていましたが、
平織りで光沢はきれいですけれど、ちりめんと並ぶと白っぽく見えますし、
最近のちりめんは縮まない工夫もされていますから、
関東でもちりめんが増えているんですよ」でいいじゃないですか。
回数着ないんだから…というなら「レンタル」でいいでしょ、です。

ごそっと抜け落ちているものをきちんと見ないと、
何でもかんでも「結果オーライ」では、知らないうちに損をすることもあると思うのですよ…。
毎度「とんぽのごまめのはぎしり」ですが。

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6 コメント

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地域の伝統 (うまこ)
2010-06-03 19:23:25
名古屋は?・・・・
些末なことのコメントで申し訳ないですが・・・
着物に関して名古屋は関西(京都)文化圏らしいです。
なので、もちろん喪服は縮緬。帯も関西巻き。
柄行きは粋というよりはんなり、豪華が好きらしいです。
と言っても名古屋友禅は地味ですが・・・京都が好きと言いつつ実際は名古屋好みなのでしょう。(目立ちたくないというか)

ちなみにウナギのさばき方も関西風、かりっと直火焼きで、真ん中が白いウナギを見るとウナギじゃない気がします。

ただ言葉は三重県から関西弁で、エスカレーターも関ヶ原辺りで変わるようです。
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Unknown (陽花)
2010-06-03 20:46:17
喪に関する事は近年めまぐるしく変わって
きましたね。
子供の頃は親族は白装束だったんですが、
いつの頃からか黒喪服に・・
亡くなったら町内総出のお手伝いも最近は
簡素化で家族葬が多いですし、いろんな事が
どんどん変わっていきますね。

返信する
素人憶測ですが・・・ (りら)
2010-06-04 00:29:47
上方のはんなり好みには昔の縮緬のぼてっとした質感が合って、江戸の粋好みには羽二重のスッとした感じが合うとか~?

長唄のお名取さんたちは皆黒羽二重の五つ紋を着るのですが、なんとも色っぽくてカッコ良く、憧れでした。
(これ、関西は縮緬なのかしら?)

書かれていますように、東西の移動もありますし、黒でさえあれば素材など好みで良いのになぁ、と思います。
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Unknown (とんぼ)
2010-06-04 18:17:26
うまこ様

名古屋は楽しいところ、と友人が言ってました。
言葉もおもしろいしおいしいものもたくさんあるし。
私は一度しか行ってないし、しかも時間がなくて、
味噌カツもたべられなかったー。
かろうじて名古屋城だけ見ました。
関西圏のような…独自の文化がありますね。
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Unknown (とんぼ)
2010-06-04 18:20:58
陽花様

ほんとにめまぐるしくて、地域でも違いますし
戸惑うこともあります。
義母の告別式のあとの精進落としは
自宅でやったのですが、
通常身内はあまり動かないもの…なのに、
お手伝いのかたに「あなたあれやって
これやって」ってこき使われました。
あげくにイザ食事になったら、私の席、
なかったんですよ。あれは単なるイヤガラセ?
返信する
Unknown (とんぼ)
2010-06-04 18:26:09
りら様

そうですね、よく身分の高いヒトへの「贈り物」に
反物が使われますが、都ビトは「綾錦」
武家は「羽二重」なんてこともあったようです。

今の時代、移動を考えれば、
ほんとにどちらでもいいと思うんですが、
「自分だけ違っていて、それを言われた」なんてお話しもあるんですよ。
まぁ縮緬の中で羽二重、とかその逆だと確かにめだつでしょうけどねぇ。
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