「織り」について「糸が織られて布になるということはどういうことか」…というお話をしてきました。
経と緯の組み合わせ方、そこに色糸をどのように組み合わせるか、
今日はその織物をするための糸のお話、「どんな糸を使うか」です。
通常、紬や銘仙などはまずほとんどが「平織り」、そこにちょっとだけ別の織り方などを使う程度です。
使われる糸は「普通の糸」…なんて、いい加減な言い方ですが、つまり「普通の撚り糸」です。
絹糸というのは、蚕からひいた糸の1本ずつは細いですから、何本かまとめて1本にします。
絹に限らず、様々な糸は目的によって糸の太さを分けて使いますから、いろいろ作られるわけですが、
このとき、糸はばらばらにならないように「撚り」あわせます。
紬の糸は、元々がくず繭を真綿にして、その綿から紡ぎだすわけですから、
太さ細さが均一ではなく、ところどころ毛羽立ったりしている…それがまた織りあがった時の、
独特の風合いにもなるわけですが、機械にしろ手にしろ、これもまた「撚り」ながら糸にします。
この「撚り」というのが、糸にとっては大切なことで、例えば毛糸でも「甘より並太」なんていうのがありますね。
「撚り」が甘いということは、それだけゆるゆるで空気を含んで、ふっくらしなやかですが、ぴっと引っ張ると細いです。
絹糸でも「この目的に使うなら、このくらいの撚り」というのがあるわけですね。
下の写真は、化繊糸なのですが、これも細い糸が何本か撚り合わされています。
糸巻きのコマからすーっと引き出してそのままおくと、こんなクセがついてます。
ミクロの世界の話ですが、このとき、カーブしている糸の外側は糸が伸び伸びとしていて、
カーブの内側はその分縮こまってるわけです。但し糸そのものの成分が縮んだわけではありませんから、
これを「糸はじき」してやれば、まっすぐな糸に戻ります。縫うときにやりますね。
針に通した糸をベンベンっと、三味線のようにはじく…そうすると縮こまっていたところが伸び伸びして、
糸全てが同じ長さに戻るわけです。これを「撚りを戻す」といいます。
糸はこの「撚り」のおかげで、丈夫さやしなやかさを得ているわけです。
さて、糸の中に「強撚糸」と呼ばれるものがあります。字のまんま「強い撚りをかけたもの」です。
言葉で言っても分かりづらいので実験してみました。糸は細すぎるので「麻ひも」を使ってみました。
まず台紙の上に麻ひもをクリップで固定しました。これで動きません。これが通常の「撚り」の状態です。
これを30センチくらい下を持って、撚りの方向どおり、更にくりくりとまわしていきます。
途中まで来ました。セロテープがお見苦しいですが、右側が「元の撚り」、左側が「かなり撚りをかけたところ。
更に撚っていくと、やがて撚りにくくなってきますので、強く引っ張りながら撚ります。
(このあたりでパッと手を離すと、当然ですがあっという間にクルクル回って、元に戻ろうとします)
やがてかなり引っ張っても、まっすぐにならず自然とちょっと波打ってくる…(ピントきてなくてすみません)。
ここでしっかり持ったまま、ちょっと引っ張っていた力を緩めますと…クリンとまるまってしまいました。
力の係り具合で、一番たえられなかったところがこうなります。
さらに引っ張るのをやめると、この「クリクリ」は、そのまま続いてこんなふうになります。
どっかでみたことある…はい、ロープがこれですね。
農家で夜なべ仕事に藁をたたき、「縄をなう」という仕事がありました。
藁縄の場合は、そんなにきつく撚るわけではありませんが、
「撚ったものはあわせると一緒になって更に撚り合わさる上、丈夫になる」という性質を利用したわけですね。
強撚糸というのは、通常の織物などに使われる「撚りの回数」よりも、
こんなふうにはるかに回数多く撚ったものをいいます。
この回数ですが、実は「プロの世界」のお話で、糸を作るところによって「1メートルで2500回転くらい」とか
「そんなもんじゃ強撚糸とはいえない、3000回転以上」とか…いろいろです。
とりあえず、通常の糸よりははるかに多い回数の撚り…ということになります。
この「撚り」も「右撚り」と「左撚り」があります。「S撚り」「Z撚り」とも言います。
また、細かく言えば、同じ方向に撚ったものを二本引きそろえて、更に反対方向に撚る…など、
基本的に4種類のより方があり、「片撚り」「双撚り(もろより)」などと呼ばれ、
それぞれに目的にあわせて使われます。
とりあえず、この強く撚りをかけた糸を、ひっぱったまま「糊で固めて」しまいます。
元に戻れなくなるわけです。これを織りの糸として使うわけです。
布を織る場合に「強撚糸」を使うとどうなるか…。代表的なものが「ちりめん」です。
経には普通の糸をかけ、緯にこの「強撚糸」を使います。
例えば右撚りと左撚りを交互に一段ずつ…これが一越ちりめんです。
ちりめんは「染め」の着物に使われますから「後練り」ですね。
織りあがってから精練します。すると糸を固めていた「糊」も取れます。
引っ張られていたものが、自由になるわけですね。
そうなると糸は強い撚りが解けて、普通の撚りの状態まで戻ろうとするわけですが、
すでに布として織りられていますから、経があってちゃんとは戻れないですね。
そこで経の間でくしゃくしゃとなる…これで布全体が縮んだように見えるんですね。
だからウールのセーターなどうっかり洗って縮ませたものは、元に戻りませんが、
ちりめんは伸ばせば元に戻ります。
これは以前アップした「養蚕風景」のちりめんきもの。ざらざらとした手触りのちりめんです。
近づいてみるとざらざらなのは、こんな地だから。黄色の○あたりを更にアップしたのが下の写真です。
波がうねったようになってますね。これが強撚糸がくにゃくにゃとなった結果です。
この波が、ちりめんの「しぼ」となるわけです。
どちらか一方だけの撚り(右か左か)の糸だけで織っていくと、波打ち方がかわり、たてにしわしわができます。
これが「ちぢみ」とよばれるものです。
さて、縮んでしまった生地は製品にするのに、伸ばさなければなりませんから、
反物を作るところでは、専用の機械で湯のしをかけて、販売に必要な反幅まで広げて乾かすわけです。
だから、家庭でちりめんを伸子張りするとき、伸子の長さや太さに気をつけないと、伸びすぎて
反幅以上になってしまうことがあります。昔の人も、家で伸子張りをするのは木綿や紬などで、
ちりめんなどの上物は、プロに頼むことが多かったわけです。
最初に「織りの着物の場合は普通の糸」といいました。
でも、強撚糸が使われる場合も、実はあります。代表的なものは「お召し」です。
お召しは染めた糸で織りますから、紬などと同じ「織りの着物」なのですが、原則「緯」に強撚糸を使います。
(以前の記事を確認するために自分で見てギョっとしたのですが、縦糸ってかいてありました、緯です。
ただ、ものによっては経糸に使ったり両方に使ったりします)
このときの「強撚糸」は、八丁糸、という特殊な強撚糸です。
お召しの着物が、ざらっとした質感なのは、ちりめんとは違うけれど「しぼ」があるからなんですね。
お召しも縞お召しのようなあっさりしたものから、地模様として柄が織り出されているもの、
色糸で華やかに柄のあるものと、様々です。
いずれにしても「強撚糸」をつかったものは、ぬれると縮みます。
雨の日にちりめんやお召しを着るときはお気をつけください。
「糸をとり、機にかけて布にする」、言葉にすればたったこれだけのことですが、
糸に工夫をし、染に工夫をし、織りに工夫をし…着物はそうやってできてきたんですね。
積み重ねがあるとうことは、ゆるがないということだと、私はそう思っています。
この積み重ねを丸ごとごそっと捨ててしまう…そんな時代がこないようにと願っています。
トップ写真はちょっと前のちりめん、手まり柄です。
本日の記事も、手持ちの資料メモから作成しました。
一越しちりめん、右か左のどちらかの
撚り糸を使って織れば、ちぢみと呼ばれる
織り物になるなんて、すごく分かりやすい
説明で助かります。
ちりめんてなんであんな風合いになるんだろう?なんて考えたことも無く、仕組みがわかってすごく新鮮な気持ちがしました。
濡らして油揚げみたいになった布にがしがしアイロンかけていた自分を反省しております^^;
幅がキュ~ンと縮み、慌てて触ったらゴワゴワになっていました。
な、ナ、何故だ!と訳が分かりませんでした。
今回は写真の説明があったのでよく分かりました。
知らなくてもちっとも困らないことですが、
知るとおもしろいこと…でしょうか。
ちりめんのざらつきのフシギは、
考えた人がすごいと思います。
>油揚げみたいになった布
あはは、ほんと、そうなりますよね。
古いものでは、よくもここまで縮む…
というくらいのものもあります。
アイロンするとしなっとしたり、
布っておもしろいですね。
お召しやちりめんは、水につけると、
ガシガシになりますよね。
乾くとふわんとなったり、
織りと糸ってフシギなものです。
幅だしは伸子張りか張り板ですが、
反幅に仕上げるのはなかなかです。