ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

無双の羽織

2008-06-28 16:59:56 | 着物・古布
実はブログをはじめたころに、このテの羽織に出会いまして、
そのとき呉服屋さんに会うことがあり、お伺いしたのですが、
お互いよくわかっていなくて…結局当時は正確なことがわかりませんでした。
その後、ああそういうことかとわかったのですが、記事の訂正もしてまへんがな。
本日改めまして、私にわかる限りの「ご説明」をば…。

で、なんなのよこのぼーっとしたトップの写真は…。
すみません、とりあえず、これは「絽の羽織」、
背中部分を写したのですが、家の中ですとフラッシュの作用でよく見えない…
それで、外に出しまして、自然光の中で写したら…こうなりました。
よけいわからんがな…。


     


透けて見えているのは「羽裏」にあたる部分の柄です。
左下、橋の近くにはもみじ、右には桜とかがり火です。
これ、着ていないので、向こうから光がはいるから見えるわけでして、
実際着用するとこうなります。
はい、かわいそーに浴衣で帯もなしのお福ちゃん、ゴメンネ。


          


これでもすだれのかげなので、自然光直で更に近寄って…もこんな感じ。


    


ああ、なんかもぉはっきりしなくってイヤッ!ですねぇ、
それではひっくり返してハッキリと。


      


はい、こんな柄でした。なんなんでしょーこの羽織。
これは「絽の無双の羽織」なわけですが、絽でも真夏は着ません。

無双というのは、裏に回る部分もすべて続いた布で作る…わかりにくいですね。
つまり、普通の羽織は、後ろの裏側は途中までしかありません。
その上には「羽裏」がつくわけです。
無双は、この羽裏分も最初から柄が染められていて、続けて作れる、というもの。
最初から寸法を計算して柄をつけて染めておくわけですから、
絵羽と同じで「ぜいたく」なお品になります。

これはさらに「絽」ですから、着る時期も短く「ぜいたく」の前に
さらに「とっても」がつくと思います。ははは。
いくら絽でも、盛夏は着られません。真夏に着るのは平絽とか紗の単。
というより、この羽織、実際着たらら気が遠くなるほど暑いと思います。
(ついでのことに、重いです)
着物好きが、一枚は持ちたいね、と作るようなもの、でしょうか。

もう一枚、むかーしアップしたものです。こちらも「絽の無双」です。
当時、写真の加工もわからなくて、小さい写真ですみません」


       



「二枚重なる」ということでは、もうひとつ「紗合わせ」というのがあります。
無双は江戸時代にすでにあったそうですが、
これからお話する「紗合わせ」は、歴史がそれほどありません。
近代にはいってから。しかも、それほど大流行したとか、着物の世界で定着した、
ということがないので、着物が一度廃れかけた現代では
「なぞめいたもの」として残っているわけです。

「紗合わせ」、見た目はほんとに美しいものです。
紗、または紗と絽を二枚重ねた着物ということになりますが、
実はこの紗合わせってのが、なかなか曲者でして、いつ着るんだい、
という話になりますと、原則として「単と絽や紗の間」…、
エーっ着るときないじゃん、というものなわけです。
最近では単扱いで着られているようですが、なにしろお目にかかりまへん。
紗合わせの妙味は、たとえば下になる生地には泳ぐ鮎とか、船の柄などで、
上になる生地には流水などを持ってくるなんてわけで、粋な趣向となります。
上が無地で、下に涼やかな秋草とか朝顔、何てのも素敵です。
また柄がなくても、二枚の生地の織り具合で「モアレ」がきれいに出ます。
ただしこの紗合わせ、和裁士さんにはとっても嫌がられるそうです。でしょーね。
しかし「二枚だから『袷』だ」という感覚で、真夏は着ないんですが、
だったら単扱いもおかしいじゃないか…ほらそういうことになる…。

元々趣味性の強い、着物好きの、さらに「余裕のある」人が、
たのしんだもの、という色合いが強いわけで、もてはやされたのも短期間、
今はもうお目にかかるのも珍しい…そんなことから、
なにかしらすべてがあいまいなわけですが、
いいじゃないですか、うるさいこといわなくたって。

たとえば6月1日から「単」に入りますが、実際には梅雨寒があったり、
逆に最近は5月だって真夏のように暑い日が多くあります。
色と柄、それにポイントを置いて、単より早く着ても、
また真夏に着ても、私はかまわないと思います。
確かに昔の人って「衣替え」はきっちりとして、私の母なんかも、
どんなに暑くても5月31日までは「袷」でした。
そういう「保守」的な意識は、ものを伝えていくには大切ですけれど、
ではほかの部分はどうかというと、絹には絹、といっていながら、
絹の着物の背中部分だけは木綿がついていたりしますし、
うそつき、なんてのは、文字通り「ごまかし」の最たるものです。
昔の人が「見えないところはごまかしゃいい」という考え方だったと
そう言っているのではなく、裕福ではない、ものが豊富でない、
ものを大切にする…そういう社会状況や生活のなかで生まれた知恵です。
つまり、そういう柔軟性を持っていた、ということです。
温暖化進むこの暑い日本で、最近は5月から単を着る人も増えています。
そういうことは、変えていかないと伝えていくことができないと思います。
大事なのは「着物」を着て、つたえていくことで、
しきたりや決まりごとを伝えることではありません。

絽の無双羽織も紗あわせの着物も、それを着たときに
見る人が「あぁ涼しそう」とか「かろやかでいいわ」とか、
そんな風に思ってくれたら、成功でしょう。
確かにオシャレは個人の楽しみでもありますが、
見る人がいるのも事実、本当のオシャレのポイントとして、
そのひとつに「人を不快にさせないこと」ひっくり返して言えば、
「人に『ステキ』と思われること」もあると思います。
だからといって、わたしゃこの「火」の絵の絽の羽織を、
今着る気には、ゼーーーッタイなりませんけど。
あっ絽の無双は、もっと着る期間はあいまいですよー。

着物を着始めると、この「夏もの素材」をつかったもので、
つっかかることがたくさんあります。
絽の単の道中着、袷の上に来ても問題ありませんとか…。
今の時代にあわせて、何を変えていったらいいか、
変えていってもいいか、着物人はそうやって悩んで
着物の歴史をその時代の人が作っていくのだと、私は思っています。


追記 「虎んく・るーむ」の方がちーとも更新できませんで…。
   やっと書いたら「くらーい話題」なんですが、アップしましたので。

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7 コメント

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羽織を (茶ノ葉)
2008-06-28 19:10:43
これは・・・羽織を脱いだ瞬間、の美かもしれませんね。
行灯の光に向かって、しゅるりと羽織を滑らせて肩から外す。光に透かしてあえかな紋様が浮かび上がる・・・

なーんて、色っぽい光景を想像してしまいました。
どうやら今日は、脳が腐っているようです(苦笑)

ところで紗袷ですが、出所のはっきりしないネット上でのまた聞きで「袷と単衣の間」説を見たことがあります。もしかして、幻の・・・ということで、あまりキッチリと分類されていないのでしょうか。
返信する
Unknown (陽花)
2008-06-28 21:05:31
紗合わせの着物は見たことがありますが、
無双の羽織は、初めて見ます。
珍しいものですね。ひょっとしてこの無双の
羽織は着ようと思えばリバーシブルのように
表も裏も着られるものでしょうか。
返信する
着物の美の極致です (otyukun)
2008-06-28 23:33:55
無双や紗合わせは本当に美しいですね。
正に着物の美しさを具現したと言っても過言ではありません。
数年前までは結構手がけていましたがもう注文もありません。
美しいけれど本当の贅沢品だからでしょうか。
見た目に夏物の様で重ね着故の暑さから実用的ではないのでしょうが、冬に着る習慣が出来ればずっと残しておきたい文化だと思うのですが。
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Unknown (うんちく)
2008-06-29 16:19:23
いやあ、眼福、眼福。とんぼさんありがとう。
羽織の裏地の模様を表に透かせて見せるなんざ
半端な洒落者にゃあできやしません。
そうなるってえとこれは暑いの寒いのと言って
る場合じゃないでしょうな。三斗の汗をかいて
でも着るべしということげしょう。

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Unknown (とんぼ)
2008-06-29 17:37:27
茶ノ葉様
難しいようで、呉服屋さんでさえ、
言うことが違ったりします。
縛られずに、着たいように着る、
というのがいいのではないかと思います。
それにしても「桜にかがり火」です。
いつ着るんじゃー、ですよぉ。


陽花様
作りとしては、完全リバーシブル、です。
袖の丸みもちゃんと表向きに縫われています。
しかしこれはハデですね、
あとから乗せた「さぎ」の方なら、
柄を表で着てみたいですが、
果たしてそういう着方もあるものなのかどうか
ほんとに「わからないシロモノ」です。
もし何か情報はいったら教えてください。


otyukun様
本当に「美しい絵」ですね。
あとからアップして「さぎ」のほうが、
私は好きなんですが、どうしてこういう、
シャレたことを思いつくのかと…、
日本人ってすごいなぁと思います。
残したいですねぇ、着る気になってます。


うんちく様
喜んでいただけで何よりです。
私もねぇ、あとでアップした方、
着たいと思うんですけど、うぅ~~、
冷房きいたところからでられない…絶対。


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裏勝り (うまこ)
2008-06-29 22:17:03
今日エスカレーターに乗っていて
ふと前の人を見ると
洋服の上着が着物地で言えば、紗。
ま、レースのような生地ですね。
中に着ている物が透けて見えるので
ここにある無双の羽織のような感じです。

で、考えたんですけど、
なぜ無双仕立ての必要があったのでしょうか?
単純に紗または絽の単衣で
裏に模様があるだけではいけないんでしょうか?
それなら、効果としては
もう少し濃く透けていいのでは?

それとも透けて見えることがいいなら
やはり無双の裏地側の裏に描けば
もうちょっとよく見えるのでは
という疑問は、裏に絵を描くことに
職人としての抵抗があったのでしょうか?

変なこだわりさえなければ
(私はないけど・・・)
紗の羽織の裏に白っぽい絵を描けば
ちょっとカッコイイかも?
あ、でも、透けて見える楽しさが半減?
その代わり暑くはないと思いますけど。
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Unknown (とんぼ)
2008-06-30 03:05:17
うまこ様
たぶん「間があることでの見え方の違い」
といいますか、二枚がペッタリ貼り付いて
いるわけではありませんから、
動きによって柄が浮いたり沈んだり、も
あると思いますし、無地部分などは
モアレのように動きます。
はっきり見えることより、
つかず離れずの隙間による、
中の柄の動きや、見え隠れを
楽しむためのものだと思います。
美しさのためなら、少々の暑さは
涼しい顔して、ガマンするんでしょうね。
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