ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

ガス大島

2010-10-30 17:31:48 | 着物・古布

言っちゃなんですが、裏も表も「ものすごい」シミだらけで、ハギレにしてもほんの少ししか使えません。
シミが模様に見えなくも…そんなことはナイナイ!
そんな状態なのでお安かったのですが、購入したのはこの羽織のタイトルが「ガス大島」と、あったから。
ハギレの資料として買いました。ガス大島、という名前の古着は、ごくたまに出ますが数はとても少ないです。

では、まずガス糸とは…ガスの火の中に糸を通すことで、糸の周りのモシャモシャを焼ききって
なめらかな糸にすること。この処理をした糸をガス糸といいます。

ゆかたの反物には「コーマ糸」というタグがついていることが多いですね。
この「コーマ」というのは「櫛」のことで、細かい櫛の歯のような形の機械に
高速で糸を通すことで、同じように糸の周囲のモシャモシャをこそぎとるわけです。
ガス糸もコーマ糸も、周りのもしゃもしゃ(ケバ)をとって、絹のような滑らかさやしなやかさを目指す!
それでも絹と同じかといったら、やっぱり手触りが違いますね。

私がオークションをのぞくようになったころ、今よりわずかですが多めに
「ガス大島」という名前の出品がありました。
ほとんどが羽織でしたが、説明がついていると「木綿」とあるのが普通でした。
ただ「ガス○○」という名前のつくものには「ガス銘仙」「ガス綸子」などもあります。
これは経糸に絹を使い緯はガス糸(木綿)を使う…といった交織です。
ですから「ガス大島」の中にも、どちらかの糸が絹、という交織はあるわけで、
その場合は当然、手触りも綿100%よりしなやかになりますね。
この羽織も「交織」という説明で、どうやら絹と木綿のようです。

「ガス大島」という名前がついているものは、確かに「大島柄」ですが、
「ホンモノ大島」は「ガス糸」で織られることはありません。経も緯も正絹です。
ただ、大島紬を織りあげる工程のなかの、大事な部分でガス糸が使われます。
「締め機」という、大島の特徴である「染のための準備段階」。
この「締め機」で染めたものでないと「本場大島紬」の証紙はつきません。
大島に限らず「絣」というのは、経と緯の交差によって柄が出るように、
元々の糸を柄の出るところ、ないところ…というように綿密に計算して、「防染」するわけです。
多くの絣織物は、この防染には、糸でその部分をくくるなどしますが、
大島の場合は、まず経に「ガス糸(木綿)」を使い、緯に使う絹糸で仮織りをします。
これでできあがったものを「絣筵(かすりむしろ)」といい、この状態で染色します。
実際に織る最終段階では、この「ガス糸」は当然取り外されます。
つまり「作ってる途中では使うけど、本物はガス糸は使わない」わけです。

じゃなんで「大島」っていうの…ですが、ガス大島に限らず、「○○大島」という名前は、よく使われます。
例えば「村山大島」とか、夏物では新潟で織られても「夏大島」という名前を見ます。
これって、ずっと着物が着られ続けていて、買う側が知識として伝承されていれば、
何の問題もないと思うのですが、今そういう知識が伝えられていません。
例えば「村山大島」は、私の知り合いでけっこうお年の方でも
「村山は《大島》のまねっこもの、まがいもの」なんていう感覚があったりします。
まぁ実際、ホンモノは買えないから…と、村山で「大島柄」を楽しんだということは事実なのですから、
そういう言われ方をされても仕方ないんですが、
例えば、今の時代の偽ブランドなどと呼ばれる、質の悪いコピー商品とは違います。

元々今の東京の北西側をたどっていったあたり、つまり八王子、秩父、伊勢崎…などは
古くから「木綿織物」の産地でした。村山もそのひとつです。
時代がかわって「木綿」がはやらなくなったとき、村山は名産であった「村山絣」がおわってしまいました。
その後「復興」という形でまた織物を始めたわけですが、そのときには、伊勢崎から技術を学び、
お手本とした《伊勢崎大島織り》の織り柄が始まったわけです。この伊勢崎大島は、本場大縞柄をお手本にしたもの。
こういうものはその製法はともかく、柄のひとつひとつに特許とって外に出さない…というわけではありませんから、
そこで学んだ人たちが地元に帰ったり、そこの職人さんを招致して学んだりすれば、
その柄行を伝承するということは、十分ありえるわけです。
実際、加賀友禅は京友禅からひそかに持ち帰られた技術ですし、
ちりめんの織り方も京都から丹後に持ち帰られたものですし、
秋田八丈は八丈島の色柄が伝わったものといわれています。
村山大島は、その歴史の浅さから「二番煎じ」のように言われていますが、
「織物」という歴史で言うならば、奈良時代から織っていたといわれます。
その基礎的な力があったからこそ、大島柄を織り出して、新しいものを作り出せたわけです。

奄美大島でないのに「夏大島」とつくのも、大島紬と同じ系統の糸を使っているとか、
柄が大島風とかそういうことで「大島」とつけるわけで、実際これは紛らわしいところなのですが、
それだけ大島というものが人に好まれるということですね。
ガス大島もそうですが、きちんと経緯を知って、その価値を正当に評価して着ればいいわけです。
ついつい名前に惑わされて「ホンモノ大島」だと思って、買ってからえぇーっなんて…。
その知識やそのころの状況が伝承されなかったことは、つくづくもったいないことだと思うわけです。


それにしてもこの羽織、全体にシミ…というより、なにか汚れた液体の中に
どぼっと落としたんじゃないか…と思うくらいです。
これを商品として売るんですから、すごいですよね。
いや買ったアタシはもっとスゴイ…けど。


        


羽裏もよく見るとモワモワとシミが…。


    


まぁ何かに使おうと思っての購入ではありませんから、かまわないのですが、
よくこれで、値段つけて売るなぁと感心した次第です。(だからアンタみたいに買う人がいるから…)
ついでに柄アップですが、これがまた「いいかげん具合」が楽しい?
「囲碁」の場面ですが、おねぇさん、十二単後ろ向き?


          


まぁこれはこれでおもしろいですが、アラ探しするときりがない羽織…でした。


また台風が近づいて、ただいま横浜はどっちゃ降りであります。


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14 コメント

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こちらこそ (とんぼ)
2015-12-03 23:27:22
MONA様

はじめまして。コメントありがとうございます。
ガス大島はますますなくなってきています。
廉価で重宝だったのでしょう、
古着の状態のいいものが少ないです。

お役にたてる記事があってよかったです。
これからもよろしくお願いします。
返信する
初めまして (MONA)
2015-12-03 21:56:57
大変勉強になりました
ありがとうございます

長い事、洋裁をしており、主に藍だったのですが
最近、お客様に求められ、古布で洋服を作っております

私は、絣や紬が好きなんですが、大島でも
先日ガス大島 と書いてあるのを見つけ、初めて聞いたので調べてみて、ここにたどり着きました


ありがとうございました
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Unknown (とんぼ)
2010-11-02 15:23:01
としこ様

もしそうなら「お宝」ですねぇ!
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Unknown (としこ)
2010-11-01 21:46:46
こんばんは
ひょっとしたらそれが戦前の与那国花織のものかもしれないんです
ちょっと勉強します・・・滝
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Unknown (とんぼ)
2010-11-01 21:34:03
toshiko様

ガスで木綿100で女物…は、ないですねぇ。
やはり着倒されちゃうのかもです。

花織りは読谷山ですね。
元々は琉球王家の人しかきられなかったとか。
南方系のステキな柄が多いですね。
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こちらこそ (とんぼ)
2010-11-01 21:30:37
古紫様

はじめまして、コメントありがとうございます。
こういう「いいかげん柄」って、けっこうあります。
面白すぎるのはたまに買うんですが、笑えます。
犬にまぶたがあったりとか…。

こんな風に重ねて描いときゃ十二単にみえるだろ、ですかね。

思いついたことをタラタラと書き綴っております。
またお越しください。
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Unknown (とんぼ)
2010-11-01 21:24:15
りら様

ほんとにヤフオクなどに出るのは男物の羽織ばかり。
始めたころは、女物があったのに、
惜しいことしました。

後ろ向き…にみえるでしょー。悩みましたよぉ。
どっちむいてんだーって。
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Unknown (toshiko)
2010-11-01 14:22:34
今日たまたま大須に行ったので聞いてきたら
ガス大島はときどき入るらしいんですが安いからすぐ売れちゃうってお店の人が言ってました
で、なかったです

違うお店で古い面白い着物を買ってきました
もってないのでわかりませんが琉球の花織(こんなのありましたっけ・・・)ではと思い込んでいます。しばらく研究します(汗)
返信する
はじめまして (古紫)
2010-11-01 13:29:45
着物着物~とランキングから流れて参りました。
後ろ向きの十二単に思わずコメです。
着方が知りたい・・・
もしかしたら寝起きだとか?

ウンチクがたくさん、惜しげもなく記事にあり
とても読み応えがあります。
またおじゃまさせてください。
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 (りら)
2010-11-01 07:09:58
ガス大島は男性の着物としてよく昭和の初め頃の小説に出てきます。
どこかで解説を読んだことがあったのですが、今回のとんぼさんの書かれたものの方がよほど分り易いです~。
いつもありがとうございます。

時々出品されているのを見ますけど、男物ばかりで「柄の良いの」を見たことがありません。
やはり木綿ですから普段着で、着倒されちゃったものが多いのかもしれませんね。

うはははは!!後ろ向き十二単~!!
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Unknown (とんぼ)
2010-11-01 00:43:32
陽花様

残っていたとしても、関東が中心かもしれませんね。
これを買ったお店は「ここにシミ」「ここに穴」って
正直はいいんですが、決まり文句のように
「状態はいいです」ってついてます。どこが?です。

横浜は、今日も雨でした、夜になって大降りです。
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Unknown (とんぼ)
2010-11-01 00:41:05
toshiko様

村山大島自体はあたらしいものですが、
ずっと「織りの里」であったようです。
織物が盛業ということは、山の中で、
作物にはめぐまれなかったのでしょうかねぇ。
木綿のガス大島には、結構いい柄があると聞いているのですが、
まだ出会っていません。コガレテます。

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Unknown (陽花)
2010-10-30 20:48:30
ガス大島ってあまり聞かないです。
なるほど・・・と読ませて頂きました。
それにしても、ひどいシミ汚れですね。
売る人も買う人もスゴイと思いますよ。

台風は音も無く通り過ぎましたが、横浜は
どしゃ降りですか。被害が無いといいですね。
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Unknown (toshiko)
2010-10-30 18:15:20
こんばんは
またお邪魔します・・汗
村山大島だとわかるとついつい
「なんだ~村山かぁ」って思ってしまいます
奈良時代から織られた歴史があるとは知りませんでした
ガス大島 名古屋の大須の確か「末広」といかいう古着物やで見かけたことがあります
確かにとろんとすごく柔らかかったです
身丈が非常に短くて状態の良いかなり古いもので4000円くらいで売っていました(昨年)
「これかぁ・・」と思いました
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