4月26日から期間限定で運行していた「赤い彗星の再来 特急ラピート ネオ・ジオンバージョン」。鉄道ファンのみならずアニメファンからも喝采を集めた、南海電鉄 <9044> と「機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)」とのコラボ車両は、大好評のうちに6月末で運行を終えた。 大阪・なんばと関西国際空港を結ぶ特急「ラピート」は、もともと青い塗装が特徴。今回、ラピート運行20周年企画として、1編成が赤く塗られた。
赤はガンダムの主要キャラクター、シャア・アズナブルやフル・フロンタルのイメージカラー。外装を赤くしただけでなく、ガンダムの劇中に登場する「ネオ・ジオン」のロゴを貼り付け、スーパーシート車両(特別料金を徴収して乗り心地を向上させた車両)の内部も、ガンダムの世界観にマッチするように改装した。
■ 「赤は3倍」どころか「7倍」
関西空港への鉄道アクセスではJR西日本と南海が激しいシェア争いをしている。近畿運輸局の統計によれば、2013年度のシェアはJRと南海のシェアは55対45で、若干JRのほうが優勢だ。
だが、こと、赤いラピートに限れば、「スーパーシートの乗車率は従来の10%から70%へと大きく上昇した」(南海の広報担当者)。ガンダムの世界観では赤い塗装のシャア専用機体は通常の3倍の能力を持つが、赤いラピートについては、3倍どころか7倍の効果があったということになる。
さらに、赤いラピートの一般車両の乗車率も50%から65%へ上昇。記念企画券やオリジナルグッズも完売した。ビジネス面でも大成功といってよいだろう。
このコラボ列車は、てっきり広告代理店の持ちこみ企画だと思っていたが、南海の広報担当者によれば、「企画したのは当社のガンダム好きの社員」だという。ラピート20周年企画の際に、ガンダムとは関係なく、色を赤く塗り替えるというアイデアが出た。そこから「赤ならばガンダム」という発想が飛び出した。
もともと、ラピートの先頭形状のデザインは、ガンダムに登場するモビルスーツ(人型兵器)を連想させると、ガンダムファンの間では話題になっていた。ファンなればこその着眼点に違いないが、単に赤く塗り変えるだけだったら、ここまで話題に上ることはなかっただろう。
■ デザイナーは赤い塗装に何を感じた?
アニメとのコラボ車両といえば、車体の外観や内装にキャラクターのイラストを散りばめるのが一般的。しかし、ラピートの場合は、登場人物やモビルスーツのイラストを貼り付けることはしない。
ガンダムの作中に登場しても違和感がない鉄道車両をイメージしており、単なるPR目的のコラボ車両とは一線を画している。ちなみに、赤への塗装変更は先頭部分のみで、それ以外の部分はラッピングで対応したとのことだ。
では、赤く塗られたこの列車は、ラピートのデザイナーの目にはどう映ったのか。
20年前にラピートをデザインしたのは京都出身の建築家・若林広幸氏。当初、南海からこの話を聞いたとき、若林氏は「長期にわたって赤く塗られるのはイヤだが、イベントで2カ月の期間限定なら、まあいいか」といった気持ちだった。だが、実際に赤く塗られた車両を目の当たりにして、「これもありだな」と思ったという。
ちなみに、若林氏はラピートのデザインにあたって「ガンダムを意識したことはない」という。「車両が完成したときに鉄人28号に似ていると言われたことはあります。でも鉄人28号も意識していませんよ」。戦前の大陸横断鉄道や弾丸列車といった力強いイメージを追求した結果、ユニークな先頭形状のデザインができあがったという。
本業は建築家である若林氏にとって、鉄道デザインは初めての経験。「もともと自動車デザインをやりたくてデザインの道に入った」という若林氏は、南海からの依頼を即座に受諾。最初の打ち合わせからわずか2日でラフ模型を作り上げた。色は、青のほかに南海電鉄のカラーであるグリーン、そしてタスマニアブラウンの3色が候補として挙がり、南海社内の会議で全員が青を選んだそうだ。
■ 困難を極めた制作過程
ただ、若林氏のデザインから実際の車両を製造する作業は困難を極めた。たとえば、客席部分の車両断面は楕円の予定だったが、通常の車両と同じ四角形に変更された。整備工場には四角い車両に合わせたキャット・ウォーク(通路)しかなく、楕円の車両だとすき間ができてしまうため、車両上部の点検が危険だという理由である。
正面のガラスも3次曲面ガラスの計画だったが、2次曲面に変更となった。これは「3次曲面だとレンズ効果が発生して、運転席から見たときに距離感が狂う」と、運転士からクレームがついたためだ。
もっとも、実際の車両を見ると、車両断面はすべて楕円のように見えるし、フロントガラスも2次曲線には見えない。これはまさに、若林氏のデザイン力のなせる技といえるだろう。
コラボ契約が切れた赤いラピートは、元の青色に戻ることになる。「赤は好評だったが、今後については未定」(南海)。だが来年は、南海電鉄にとって創業130周年、会社設立90周年に当たる。ひょっとしたら、ファンが驚くような新たな配色を施したラピートが登場するかもしれない。
だそうです。