おたまのオーダーをもらった時、三本作ろうと決めていた。
そして一本は少し小さめで中華のフライパンにも合うような感じのを作りたいと思っていた。
頂いたオーダーは大きめのオタマだったので、初めにニレとタモを仕上げて、最後に小さいのを作るのみ。
最後のはニレで作ろうと思っていたので、乾燥棚から取って鉈を手にさあ削ろうとしていたら、ふと、ミズナラと目が合った。
ずっと乾燥棚に置いたままのごっついミズナラだ。
しかも少し表面はボケている。
「いやいやそんな問題の多いのには手を出したくないなー」
「でも、まあ、やってみようか」
という具合に鉈を振るうことにした。
想像以上にボロボロ。
わずかしか使い物にならない。
止めようこれは無理だろう。
さっきのニレを取り、イメージを膨らます。さあどこから削ろうか。
するとミズナラが語りかけてくる、「ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、おい、おい、おい、おい」すごい主張だ。
しかも少し上からだ。
気になって全然集中できない。
「はいはいわかりましたよ、やればいいんでしょ、そこまで主張するならオタマになれるんでしょうね。」
それから鉈を振るいに振るった。斧もナイフもサクサク進んで、勢いのまま完成した。
ミズナラは硬くて、素直で、扱いやすい樹だと思う。
その後三本のオタマを見せに行って選んでもらった。
ミズナラは選ばれない。
僕はやっぱりと思う。どこか別に行きたいところがあるのだろう。
で、いまはというと。
てまめ にある。
きっと誰かの気になるオタマになるだろう。
というお話。
終わり。