トンサンの隠居部屋

トンサンの日常記録です。2019.5.27以前の記録はこちらhttps://blog.goo.ne.jp/tonsan2

「小説らしきもの」 むかしトンサンが書いたもの 「初恋」

2022年03月26日 00時59分51秒 | マック鈴木家

「初恋」

初恋には五つある。
幼稚園の時の初恋、小・中学校の時の初恋、高校・大学生の時の初恋、社会人となっての初恋、配偶者が亡くなってからの初恋、の五つがある。

僕は幼稚園へ行かなかったからではないが、幼稚園の時の初恋はない。
僕は幼稚園の頃何をしていただろうか。
僕の家は小田急線の線路のそばにあり、家と線路の間は花菖蒲か何かの花でいっぱい埋まった庭でつながっていた。
庭には屋根付の大きな井戸があり、そばの柿の木によくぶら下がったような記憶がある。
そして近所の子供たちもこの庭に来て一緒に遊んだようだ。
祭り半天を着て、長靴を履いて三輪車に乗った写真がある。
弟と二人で写っている。
弟はこの写真が初めて写った写真のようだ。
僕は赤ちゃんの時、丸裸で母親に抱かれている写真がある、これが初めて撮られた写真らしい。かわいいオチンチンが写っている。
男であるという唯一の証拠写真だ。
よく撮ってくれたものだと親に感謝している。
このころはまだ写真など一般家庭には広まっていなかったが、親父がかつて新聞記者で写真班をやっていた経験があるので、写真機など家になくても写真だけは撮っておいてくれたのだろう。
実際この頃鈴木家は苦労していたらしい。
お袋が体が病弱でいつも寝込んでいたので、親父が働きに出られず、二人のお姉さんに家の一部を飲み屋に改造して貸し、その収入だけで食いつないできたが、赤字続きでとうとう家を売ることになった。
二人のお姉さんは家を売ったときに店をたたんで引っ越したのかそれともまだ店を続けていたのか、この辺のことは親に聞いていないのでわからない。

さて、あ、何の話を書くんだっけ、どうも脱線してしまったようだ。

僕は小学生の時は模型ばかり作っていて、女の子には感心がなかったようだ。
というのはうそで本当は二人好きになった子がいる。
四年生の時 チューリップのようなかわいい女の子の後を追っかけたことがあった。
彼女は足が速く、渡り廊下のところで見失ってしまった。
それからのち彼女とは中学生の時同じクラスになったことがあったが、僕には他に好きな子がいたので関心はなかった。
きれいでおとなしい子だなと言うことだけが印象として残っている。

五年生になって『あの先生のクラスに入りたいなあ』と思っているクラスに組替えになり、僕は張り切った。
この先生は若くてハンサムで、行動力のあるバリバリした先生だった。
5点法の採点を野球に置き換え、一塁打、二塁打、三塁打、ホームラン、アウトとハンコを作り、作文や絵の採点に使った。
そして僕も張り切って勉強し、成績がクラスの中位から上位に上がり先生から一学期の殊勲選手としてほめられた。
ところが二学期はみんなが頑張ったのか、僕がさぼったのか成績は元の中位まで下がってしまった。

落胆して三学期を迎えたとき、東京から女の子が転校してきた。
何か変な顔の子である。
この辺では見られないようなちょっと変わった表情の子だ。
先生は彼女の転入を祝って、みんなで歌を唄ってあげようと言った。
このクラスでは朝礼と夕会の時に、日直が前へ出て唄い出しをリードし、みんなで歌を唄っている。
先生は「今日の日直 前へ出て唄いなさい。」と言った。
今日の日直は僕ともう一人、二人でやっている。
僕は朝礼の時唄ったので、僕は唄わなくていいだろうと思っていたら、先生は僕の名前を呼んだ。
仕方なく前へ出て歌い始めたが、一度唄ったからもういいだろうと思っていた気持ちと、初めて会う女の子の前で唄う恥ずかしさで僕は真っ赤になった。(歌も「赤トンボ」だったが)
僕の赤面症はこの頃から始まったらしい。

一通り唄い終わったが、僕はまだ上気していて先生が彼女の紹介をしている言葉など耳に入らなかった。
彼女は僕より少し背が高く、後ろの方の席に座った。
その日の昼休み、僕が赤くなったのを彼女と結びつけ「鈴木真っ赤になったぞ、大松のこと好きなんだろう」とクラスの悪童連中がはやしたてる。
この頃の小学五・六年生は異性に関心を持っているが素直に表面に表せないで、異性と遊んだり話したりすることをいやらしいとして、だれか異性と話したりするとすぐみんなでイビった。
実は僕も今まではそうだったんだが、イビられるといやなもんである。
僕と一緒にイビられている彼女もかわいそうになってきた。
ところが彼女は平然としているのである。
僕はだんだん彼女に興味を覚えてきた。

みんなのイビりもなくなって、僕たちのことが忘れられた頃、僕は逆にますます彼女にひかれ、ある日、家はどこなんだろうと思って下校するとき後を付けた。
踏切を越え、南へ向かって歩いていく。僕の下校する道と同じではないか。
なおも後を付けていくと、ますます僕の家の方へ向かって歩いていく。
おかしい、変だ、僕の家の近所には最近引っ越してきた人などいない。
もしかしたら彼女、後から僕が付けているのを知って、わざと僕の家の方へ歩いていくのかなとも思ったが、彼女が僕の家がどこにあるかなど知っているわけがないし、
などと考えながら歩いているうちに、僕のうちに行く露地を通り過ぎてしまった。

少し先に十字路があり、亀屋という酒屋の角を曲がっていく。
あっ、そうだ、この先に新しくできた県営住宅がある、そこに彼女の家があるんだなと気づいた。
彼女は右に左に路地を曲がって歩いていき、公園の近くまで行くといなくなってしまった。
しまったどこの家に入ったんだろう。
家の表札を一軒一軒覗いてみようかなと思ったが、近所の人に『この子ども何をしているのだろう』といぶかしげな目で見られるといやなので、あきらめて帰ろうとした。
その時公園の隅にある住居表示板が目に入った。
これはいいものがある。「大松、大松・・・・」(言い忘れたが彼女の名前は大松ゆりという)
大松という家は二軒ある。しかも一軒おいて隣である。
こんなに近いところに二軒もあるんじゃ、どっちの家が彼女の家か分からない。
とにかく彼女の家がこのどちらかの家だということは分かった。
これだけでも大きな収穫だ、今日は帰ろう。

それから僕は友達とエンジン飛行機や、ラジコンボートをやりに(もっとも僕の家は貧しかったので、もっぱら友達の手伝いばかりしていたが)行ったりして、それに夢中になり、大松さんのことはあまり気にしなくなっていた。

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「小説らしきもの」 むかしトンサンが書いたもの 「手紙」

2022年03月26日 00時58分00秒 | マック鈴木家

「手紙」
和君、元気ですか?
今 何をしていますか。
僕は相変わらずで弱っています。
急に何の手紙だろうと思うかもしれないけど、別に用があるわけでもありません。
ただ何となく、今頃 野口どうしているかなあと、二人で能登半島をドライブしたときの写真を見て君の様子が知りたくなったのです。

いつも時々、いろんな人に手紙を出したり、会いに行きたいなあと思っているのですが、面倒くささが先に立って、結局何もしないうちに また忙しく仕事の続きに追われてしまうのです。

春になったので、どこかへ行きたいなあと思う気持ちが少しずつ沸いてきました。
まだいくらか若さが残っているのかもしれません。
今年6月にはもう27才、こんな精神年齢で外観だけ27才とはあまりにもチグハグでどうして良いかわかりません。
3月22,23日は一泊で会社の研修があります。
年がほとんど同じ仲間の中には、もう親父になった人も何人かいるでしょう。
なんだか差を付けられた感じです。

社内にも良く思っている娘(こ)は何人かいます。
でも恋人にしようとか、嫁さんにしようとかいう気持ちは起こりません。

いつも若い格好ばかりしているけど、もう心の中は若くないのかもしれません。
このごろは時々アルバムを開いて見てしまいます。
楽しかった数々の思い出を繰り返して見ています。老化現象の始まりです。
松下幸之助さんは いつも心の若さを保てと言っています。
僕もあの人のように生きたいと思っています。

人間生きていて何が楽しいのか、うちの親父、お袋も毎日仕事に精を出していますが、まるで生きる理由など考えないかのように。
でも死ぬ思いをして戦争などの苦難を越えてきた人達は、そんなこと考える必要がないのかもしれません。

僕が手紙を書くときは(今は寝床で書いています、万年筆を取りに行くのが面倒なので鉛筆で書いているのですが)こんな深夜なので若干、感傷的になっていますがいつもこんなじゃないので心配なさらないように。
日中の僕はいたって元気です。
車は今もR-2に乗っています。
恋人もいません、前からずっと変わっていません、君は?

きっとここでは相手にも同じように変わっていないで欲しいという気持ちがあったのでしょうね。
まわりが変わっていくのに自分だけ取り残されるような寂しさがあったのだと思います。

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「小説らしきもの」 むかしトンサンが書いたもの 「想い」

2022年03月26日 00時56分52秒 | マック鈴木家

「マック鈴木家へようこそ」からコピー。

「想い」
二月の初めだった。北風がピューピュー吹いてとても冷たく、乾燥続きなので手がかさかさしていた。
健一はあわてて電車に飛び乗った、発車寸前だったのである。
電車は健一が乗ったと同時にホームを滑り出していた。

ふと振り向くと田口と今井が並んで腰を掛けていた。
健一を見つけて田口が「おおっ」と言った。今井はニコッと笑って目だけで合図した。
おなじみの二人である。
いつも電車の中では立っているのに、今日は珍しく二人とも座っていた。
電車は混んでいるので二人のところへは行かれず、仕方なく健一はドア一つ隔てた座席の横に立っていた。
健一は二人と話ができず、つまらなそうな顔をして車内に垂れ下がっている某不動産屋の広告を見ていた。
『駅から歩いて十分か、フン、ほんとかどうかあやしいもんだ。最近は悪徳不動産屋が多いからな。じゅっぷんだか じゅうぶんだかわかりゃしない。』
『ピロピロピロッとピロサブルか、ちぇっケロヨンじゃあるまいし、くだらねえ。』
健一はしたくもない孤独な批評を心の中で楽しんでいた。
読者の皆さんは「したくもないのに楽しめるか」と言われるだろうが、実際健一は批評などする気はなかった。あるいは神が見えない手でそうさせたのかもしれない。

楽しみながら健一はだんだんと不愉快な気分になってきた。
どうもこの小説は矛盾が多い。しかし楽しみにもいろいろあってうれしい楽しみもあれば、憎らしい楽しみもある。
健一のは憎らしい楽しみである。だから楽しめば楽しむほど憎らしさが増して不愉快な気分にさせるのである。

健一がそんな広告の批評に飽きた頃電車は座間駅に到着した。
グーとドアが開いて降りる者は一人もいなかった。
すぐ乗る者が入ってきた。健一はその方へ目をやった。
するとまぶしい、いやすずしいと言った方がよいのだろうか とてもひとみの美しい女の子が入ってきたのだ。
健一は思わず身体中にピーンと一本 何か頭の先から足の裏まで通り過ぎたのを感じた。
ひとみの美しい少女は健一の横を通り過ぎて、と思ったら、健一の隣に来て一つへだてた吊革につかまった。
健一はまたもやぞっとするのを感じた。
近くに来てくれたのはうれしいが、こんな近くじゃまともに見られない。

健一の心はまだ穏やかではなかった。健一はあの美しいすずしいひとみをもう一度見たかった。
しかしあまりに近すぎる。まともに見たら見られていることを知って少女はどんな態度をとるだろう。
そっぽを向かれたらいやだ。健一はそんな風に心の中で思っていた。
勇気を出してほんの心持ち顔を少女の方に向け、横目でチラッと見た。
少女のすずしいひとみは窓の外の景色を見ていた。
健一は今度は顔を全部少女の方に向け、少女の顔と胸のあたりまで見た。
胸と言ってもオッパイを見たわけではない、人間自然と人を見るとき、身体全体を眺めるものだ。ただ健一は眺める人間が近かったので、あまり首を下げない程度に身体全体を眺めた。
紺の学生オーバーを着ている、すぐ中学生だなとわかった。
どこの中学だろう、座間中かな?
名前はなんて言うのかな?
何年生だろうか?
家はどこなのかな?
健一は次から次とこれらの言葉が頭に浮かび、聞いてみたい気分になってきた。

あまり少女の顔ばかり見ていたので彼女も意識して健一の方をちょっと向いたが、健一の顔を見るほどまで向かずにまた窓の外の景色を眺め始めた。
健一は瞬間振り向かれたので、ギョッとして他の乗客の顔を見つめた。
つまらない顔である。
人生に飽き飽きしたような顔だ、ウンザリする。
こんな男が日本にいるのかと思うとがっかりした。
すぐ少女のすずしいひとみが見たくなった。
健一は本などで「すずしいひとみ」という語句を知っていた。
しかし今までそれがどんな意味なのかわからなかった。
この時初めてわかった。
すずしいひとみとはどんな意味なのか。
本当にこの少女のひとみは「すずしい」としか表現できない。
「すずしい」が一番ピッタリしている。
健一は『こんな人をガールフレンドに欲しいなあ、恋人になってくれたら、だけどこんなにすずしい美しいひとみの少女が他にいるだろうか、いやきっといないに違いない。この子のひとみはあまりにもキレイだ。
顔も美人じゃないけど、とてもすてきな顔だ。
思い切って声を掛けてみようかな、だけど田口と今井がそばにいるから冷やかされたらいやだな。』そう思いながら少女の肩を見つめていた。

少女の前に座っていた客が立って席が空いた。
立っているのは健一と少女だけ、どちらかが座れるのだが、少女の方が健一よりも近い方に立っていたし、健一は男なので座りたくなかった。
健一は手に何も持っていない、ナップザックは空いた席の上の棚に載っていた。
実はこのナップザックがクセモノだったのだ。
これがここに載っていたため、健一は少女のそばから離れられず、従って顔も満足に見ることができなかったのだ。
ナップザックがなかったら田口や今井の方に行けたのに・・・・

少女は手にカバンをさげていた。
ちゃんとバンドは止めてある。
健一の人間判断からするとまじめな人間であると言うことになる。
少女はそのカバンを空いた席に置いた。
その瞬間健一はカクンとがっかりした。
健一は座って欲しかったのだ。
座れば正面から彼女の顔が見られる、そう思っていたのに・・・・

健一はだんだん大胆な気持になってきた。
少女がとなりに立っていると意識すると、どうしても抱きたくてしょうがなくなってきた。
健一の胸はドキドキ波を打ってきた。
健一は自分が怖くなってきた。
思い切ってそっと少女のそばを離れ、田口と今井の方へ歩み寄った。
田口と今井はなんだかとても楽しそうに笑いながら話していた。
特に今井の笑顔はすてきである。
すてきと言うとなんだか変な表現の仕方のようだが、本当に彼の笑顔はすてきである。
健一はかわいいなあと思った。
幼いという意味の「かわいい」ではない、すてきだの方の「かわいい」である。
同姓の友人を「かわいい」だなんて健一は全く変わっている。
女の子同士なら同姓でも「かわいい」と思うことがあるかもしれないが、健一は男である。
健一は少し普通の人間と違うのだろうか。

この小説はここで終わっていました。健一は少女の顔をまともに見ることができたのでしようか・・・・

 

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「小説らしきもの」 むかしトンサンが書いたもの 「夕焼け」

2022年03月26日 00時55分36秒 | マック鈴木家

「マック鈴木家へようこそ」からコピー

「夕焼け」

雄二はなみ子の目をじっと見ていた。
なみ子はそれに気づいて驚いたらしく「はっ」とした様子だった。
とその瞬間雄二はなみ子に向かって飛び込んでいった。
なみ子の優しい肩をがっしりと強く両手で抱いた。
「僕はきみが好きなんだ!! なみちゃん」
最後の言葉と共に雄二はなみ子の頬にキスをした。
続いてくちびるにキスをと、その時なみ子は強く雄二を突き飛ばした。
「なにすんのよ! あなたってそんな人だったの! 」
雄二はこの言葉を聞いてとたんにがっくりとした。
『悲しい なみちゃんはおれのことなんか考えてくれてないんだ、おれのことなんか・・・」
と涙がボロボロ後から後から流れ出て止まらなかった。
雄二はそれをぬぐおうともしないで遠くの山の方を向いて、何も見ることなしに目を開いていた。
なみ子は悲しそうな心配した目で雄二を見ていた。

「雄ちゃんごめんね、つきとばしたりして」とそっと雄二の後ろから声を掛けた。
雄二はゆっくり振り向いてぽつりと言った。
「なみちゃんが好きなんだ・・・・」沈んだ声だった。
しかしその声にはなみ子の意志を確かめたいという気持も入っていた。
なみ子は「ごめんなさい。私雄ちゃん嫌いじゃないの、けどあまり好きでもないの。」
雄二は再びゆっくりと山の方を向いた。
そして今度はじっくりと山の景色を見つめているようだった。

山は夕暮れで黒くくっきりと赤い空に浮き上がっていた。
今にも沈もうとする真っ赤な太陽に向かって四五羽のカラスがねぐらへ急いでいた。
日はさらに沈み、カラスが見えなくなるのと同時に全部沈んだ。
残り日の明るさで二人の影がぼうっと黒く二本の平行線を描いていた。
「さあ、もう帰ろう」雄二は男らしくちょっと強めて言った。
「雄ちゃん、いつまでも私の友達でいてね。」
「もちろんさ。これからもよろしく。」
「アッハッハッハッハハハ・・・」
二人は家に向かって歩き出していた。
空はさらに深くなって一番星がキラキラと美しい光を放っていた。
明日も晴れることだろう。列車の響きが遠くいつまでも聞こえていた。

 

-完-

 

最近読み返すと時代が違うせいか ちょっと違和感がありますが、当時書いた文章なのでそのまま載せておきます。

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2022年03月26日 00時46分49秒 | マック鈴木家

3月26日(土)




















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